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第6話
終業式が終わった次の土曜日に祭りが催された。律と初めて行くお祭り。赤い提灯や花囃子の音色、太鼓のリズムを想像しただけで気持ちがどんどんと高まっていく。
「よし、こんなもんでしょ」
「ありがとう、母ちゃん!」
「そろそろりっくん迎えに来るんじゃない?」
母親の声と同時にインターホンが鳴り、玄関まで走って向かった。
扉を開けるとブランドもののシャツにジーパンという普段通りの律が間抜けな顔をしている。
「どうしたの……その格好」
「母ちゃんにやってもらったんだけど変?」
その場でくるりと回ってみせた。
濃紺地に篭目柄の浴衣に帯露草色の絞り染めの帯を合わせ大人っぽい雰囲気にしつつ、髪はサイドに編み込みをいれ、可愛らしさもプラスさせている。
背が低いせいで子どもっぽく見えなくもないが、我ながらいい出来栄えだ。
律は耳まで真っ赤にさせて目を泳がせている。
「浴衣着てくると思わなかったから」
「ビックリした?」
「すごく可愛い」
いつもの調子を取り戻した律は目尻を下げて笑った。ストレートに言われるとこっちも照れてしまい、あんがととぶっきらぼうに返すので精一杯だ。
日中は暑いから夕方に集合したが、同じことを考える人が多いらしく、神社に近づくにつれて人混みが多い。
近くの公園では盆踊りが始まるらしく、人の流れがごっちゃになっていて歩きづらい。
頭一つ分大きい律はすいすいと人波を縫っていけるが、小柄な千紘はぶつかられてしまう。
でも人の隙間から出店を見ているだけで楽しい。綿菓子や金魚すくい、たこ焼きにりんご飴、かき氷。あちこちから食欲のそそる匂いや音にどこから回ろうかと考えるだけでもわくわくする。
「なぁ律ーーあれ?」
隣にいたはずの律の姿がない。立ち止まってキョロキョロしていると舌打ちをされたので、慌てて人の少ない自販機前に移動した。
鞄から携帯を取り出そうとしたが持ってくるのを忘れてしまっている。
「あ〜なんでこんなときに!」
いつも習い事ばかりで律とは遊んだことがなく、今日という日をとても楽しみにしていた。「普通」がどんなものか教えてあげたかったのに、はぐれてしまっては意味がない。
祭りに向かう人はみんな楽しそうにしている。友だち同士や家族、カップルたちが横を通り過ぎ神社に続く階段をのぼっていく。
(俺も本当ならそっち側だったのに)
歩きやすい靴にすればよかったとか律のことちゃんと見てればと後悔がさざ波のように押し寄せてきて寂しさで空いた心の穴に詰め込まれる。
「ちぃ!」
大声をあげながら一直線にやってくる声に顔をあげる。ずっと探してくれたのか律のシャツは汗でぐっしょりと濡れていた。
「ここにいてよかった」
「ごめん、律。俺がよそ見してたから」
「それは違うよ。俺がちゃんとちぃの方見れなくて」
頬を掻いて照れくさそうに笑う律になぜかどきりとした。
「じゃあ今度こそ離れないように」
律は手のひらをズボンで擦ってから、こちらに差し出した。
律の手に自分のものを重ねるとしっとりと肌に馴染む。
まるで昔からそうあるべきだったように過不足なくぴったりして安堵の息を吐いた。
「祭りはこれからでしょ」
「そうだな!」
手を繋いだまま神社の階段をのぼり、思う存分祭りを楽しんだ。
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