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第23話

 昼休みや放課後は自然と屋上の踊り場に行くようになった。  三吉はお菓子やクッションや毛布など持参し、踊り場を私物化している。  お菓子を摘まみながらお喋りするのが楽しみになっていた。  「なぁヒートってどんな感じ?」  「身体の内側からぐわぁって熱が出て辛いし、頭痛は酷いし気持ち悪くなる。でも私は抑制剤が効くから生理痛の方がやだな」  「生理……」  オブラートもなにもない直接的な言葉に赤くなっていると三吉はニヤニヤと笑う。  「そんなんで照れるとか小学生じゃん」  「うっさいな」  「瀬名川くんといろんなことしてるだろうに」  頭でお湯が沸かせそうなくらい赤くなると三吉は腹を抱えて笑いだしてしまった。  「あ~おっかし。ごめん、揶揄いすぎたね」  「三吉ってそんな奴だったんな。もっと大人しいタイプかと思ってた」  「オメガ判定受けてから確かに捻くれたかもね」  毛布を抱えて目を細める三吉は少し寂しそうに見えた。色々なものを諦めて捨ててきたからいまの三吉ができたのかもしれない。  すんと鼻を鳴らせた三吉が千紘に向き合った。  「柳くんフェロモン濃いね」  「まじ?」  自分の匂いを嗅いでみたがいまいちわからない。後天的にオメガに変異したせいかフェロモンの匂いを嗅ぎ取れないでいる。  「ヒートがくれば瀬名川くんに番になってもらえるじゃん。これで安心だね」  「俺は律の運命じゃないから無理だ」  「運命の番のこと本当に信じてるの?」  「悪いか」  「相手も自分を好きでいてくれたらそれでいいと思うけど」  「そんな単純じゃねぇよ」  律のことを想っているからこそ律の願いを叶えてあげたい。  それに律が「運命の番」に出会ってしまったときに千紘と番っていたら、律は苦しむだろう。  愛情に溢れた温かい家庭を作るためには「運命の番」が必要不可欠だ。  よくわからないな、と一蹴した三吉は鞄のなかを漁り始めた。  「そうそう。今日はこれを見せたかったんだよね」  渡されたのは男性向けのファッション雑誌だ。その表紙を飾る顔にびっくりした。  「伊吹じゃん」  「ね、すごいよね」  「伊吹がどうして雑誌に?」  「コンテストで優勝したらしいよ。ほら、ここ」  ページをめくってもらうとボーイズコンテストの様子と伊吹の写真やインタビューが載っていた。  中学一年で転校してしまい、約三年ぶりに見た伊吹は目鼻立ちがはっきりし眉を整えているのかすっきりした印象がある。元々背が高い上に小顔だったので、他の出場者たちと並んでいても群を抜いて華やかさがあった。  伊吹がモデルになっているのには驚いたが納得する部分もある。  連絡先は交換し、ポツポツとメッセージのやりとりはしていたが高校に入学してからぱったりだ。  オメガに変異したことも言っていない。  (久しぶりにメッセージ送ってみよう)  携帯を取り出し、メッセージを送ると昼休み終了のチャイムが鳴った。

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