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第7話
玉砕覚悟ともなれば正直なところ嫌われる以外は何ともないわけで、先輩が嫌がる素振りを見せなければ積極的に責めることにした。
そもそも振られて縁まで切られてしまったら今後一切関わることは出来ない。
そうなったときの思い出作りはしとかないと。そう思いずっと触りたかった薄茶色の髪の毛に触れてみた。
「わ、びっくりした…なにか髪についてた?」
「いや、きれいな髪だなって思いまして。」
「―――ありがと…。」
先輩は予期せぬことをされても、その後に続く言葉が褒め言葉だと強く出れないと知る。
最近なんか変だよ、と言われたことはあるけど軽く笑って流した。変だろうとなんだろうとやり残して後悔はしたくない。
だって先輩、俺の事すきになってくれないじゃん。
嫌がる先輩と半ば強引に写真を撮ってもらったり、本を読む綺麗な横顔を隠し撮りしたり。
本を取ろうとする先輩の後ろから本を取ってあげるふりをして距離をつめてみたりと、やってることが少しずつストーカーじみてきてそろそろ告白する前に嫌われそうだと自嘲する。
雨が1週間も続いた金曜日。朝から強い雨足と雷の音。
やりたかったことはあらかたやり終えたはず。それでも振られてしまえばきっと後悔はするんだけど。
でも言わずにモヤモヤするのがもうしんどすぎて、告白することに決めた。
横で静かに本を読む先輩の横に行き、読んでいる本を手で隠して先輩の目をこっちに向ける。
今の行動は自分でも他の人でも、読書中に最もされたくないことだと思う。
それでも先輩はこっちを優しい眼差しで見て、本をそっと閉じた。
今日図書館にいるのは俺と先輩だけ。さっき図書館を歩き回って確認済み。
雨足は強くなる一方で、雷も少しずつ近付いてきている。
まったくもって告白日和とは言えない日。でももう耐えることが出来ない。
先輩が座ったままこっちを見上げて優しい顔で笑う。
これがもう二度と見られないかもしれないと思うと胸が張り裂けそうだ。
「どうしたの?なにかあった?」
いざ言おうとすると心臓がバクバクして声にならない。
――あぁもうどうにでもなれ。
「俺、先輩が好きです。」
言い切ったタイミングで、雷が近くに落ちて館内がフッと停電する。
「ひゃっ、ちょ、ちょっと待って、僕かみなり苦手、こわい…っ!」
近くにいた俺の袖を掴む細い指。停電しても薄暗いだけで真っ暗ではない。
相変わらず近くに落ちる雷の音。轟音が図書館中に鳴り響いて少しだけ揺れる。
「先輩、大丈夫。すぐ遠くなるよ。」
掴まれた指に自分の手を重ねて握る。
正直振られたとしても、今のこの瞬間だけで十分すぎるほど幸せで、ほんの少しだけ告白したことを後悔する。
先輩は握られた手に気付いていないのか、恐怖でかたまっているのか全く反応を示さない。
停電から復旧したあと先輩はこっちを見上げたまま何も言わなくて、握った手にもう一度力をこめるとパッと手を振り払った。
「……僕のことからかってるの?」
今まで見た事ない嫌悪の顔。やっぱり駄目だったのかと落胆の息が意識せず漏れる。
いくら理解を深めるためって言っても、いざそういう感情を向けられたら理解できないことってあるよなぁ。
自分だって先輩を好きにならなかったら、同性なんて選択肢に入りもしない。
偏見とか嫌悪感があるわけじゃない。でも自分がその対象として見られるのは話が違う。
からかってはないですけど、と答えると先輩は胸に手を当てて深呼吸した。
「立浪くんは、女の子が好きなんじゃないの…?」
そう言って俺の方を真っ直ぐ見た。
その顔に嫌悪の顔はなくなっていて、かわりに少し涙を浮かべているように見える。
「元はそうですね。女の子の方が好きです。
でも今は先輩が好き、それじゃ駄目ですか?」
「駄目かどうかは僕には分からないけど…」
泣きそうな、苦しそうな顔を浮かべて俯く先輩が何を考えているのか分からない。
自分にはなにか図り切れない感情がきっと先輩の中には渦巻いているんだろう。
――傷つけないように断る言い方、とか。
そんなことを考えていると先輩がまたこっちをみて僕は、と話しはじめた。
先輩の話を聞くに、先輩は同性愛者であること。今は俺のことを好いてくれていること。
でも俺からの好意を信用しきれないでいること。それがあって今は付き合えないと告げられた。
好きなのに付き合えないってなんだよ、と正直なところ思いはした。
だけどきっと、本人しか分からない事情があるんだろうと思い何も言うのをやめた。
ただ、分かりましたと簡単に引き下がるわけにもいかない。
一応曲がりなりにも両想いなら、少しでも希望は持っていたい。
「…いつか俺のことが信用できたら付き合ってくれますか?」
そう聞くと顔を赤くして頷いてくれた。
俺はまず信用してもらうためになにかしらしないといけない。
何かは分からないけど、頑張るしかない。
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