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第8話

立浪くんから告白された。そんなの嘘だと思った。 なにかの罰ゲームで言わされてるんじゃないかって。 だって考えてみれば立浪くんはお洒落で、友達も多そうで、僕みたいなつまらない人間と仲良くする理由がない。 読書が好きだからってわざわざ僕と仲良くするメリットは? 僕には僕と仲良くするメリットが見つけられない。 これは立浪くんだけじゃなく仲良くしてくれる長谷部にも言えることだけど、前に似たような疑問を長谷部にぶつけたときは、あっけらかんと「だってお前頭いいし、面白い話知ってるじゃん」と言った。 それもあって長谷部は良き友人として仲良くしているが、頭の良さは立浪くんには関係ない。 勉強を教えたことはないし、読む本のジャンルも違う。 そんな彼が僕を好き? 否定する言葉はいくらでも出てくるのに、肯定する言葉はひとつも出てこない。 嬉しくないと言ったらそれは間違いなく嘘だけど、素直に受けとれるほど純粋な気持ちは持てなかった。 雷が鳴っていたとき手を握られたことは覚えてる。 雷で頭が真っ白になりながらも、手の温かさで一瞬我に返ったから。 それでも信じるには足らない。人の好意を素直に受け取れない。 ただ告白してきてからの立浪くんは毎日のように甘えてきて、スキンシップも前よりかなり増えた。 向こうも好きでこちらも好きと言ってしまったのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれないけど。 立浪くんのことをとっくに信じられているのに自分自身の気持ちが追いつかない。 「ねえ先輩、いつになったら信じてくれますか?」 図書館で本を探しているといつの間にか後ろに立っていて、ほぼ抱きしめられるような形になっていた。 そんなにないと思っていた身長差はいつの間にか10cmくらいになっている。 背中側に立たれるのは何されるのか分からなくて振り返ると、それはそれで顔が近くてとてもじゃないけど見ていられない。 「…まだわかんないから。ね、離れて。」 やだ、とつぶやいてそのまま見つめられる。この空気感がどうしても苦手で毎回目をそらしてしまう。 熱を帯びた目、というのはこういうのをいうんだろうか。何もされてない、見られているだけなのに緊張して手が湿ってくる。 告白されてからもう少しで1ヶ月。 今日は雨ばかりの日の中にたまにある晴れの日。もう梅雨明けが近い。 いつまでも彼に甘えていちゃいけない。答えを出さないと彼だって疲れてしまうから。 いつ彼が待ちくたびれて他の人のところへ行くかも分からない。 「立浪くん、あの…明日になったら答え出すから待っててくれる?」 顔も見れずに言うと「はい!」と図書館中に聞こえそうなくらい大きな声で言った。 罰ゲームならもうそれでもいいや。僕が好きなのは本当だし。 もしこれで僕が同性愛者なのがばれたとしても、立浪くんからばれてしまうなら仕方ない。 でもきっと立浪くんはそんなことしない。 返事を待っててもらったこの期間の目は嘘じゃなかったと思う。 これで付き合ってくれと伝えたら、僕と立浪くんは晴れて恋人同士ということなんだろうか。 あの想像してた甘い時間が現実になるかもしれないと? 横に座る立浪くんを見るとすぐに本から目線を外してこっちを見てくれる。 自分が好きだと思っている人が同じ気持ちで同じ空間に存在しているなんて、あまりにも現実味に欠けてまだ信じられない。 返事当日の朝は曇り空、午後から晴れの予報。 一日中ずっと緊張していて、あまりにも上の空だったからか心配した長谷部に保健室へ連れていかれるところだった。 放課後になり、いざ返事をしようと勇み足で図書館へ向かうとその間に携帯が鳴る。 <今日風邪ひいて休んでます、すみません> と一言、立浪くんからのメッセージ。 続いて送られてきたのは布団で寝込むひよこのスタンプ。 <おだいじに。>とだけ返信して携帯をしまおうとするとすぐ返信が来る。 <答え聞いてないんですけど、まだですか?> <風邪ひいてるんだからまた明日ね。> ピコンピコン、と何通かまとめて返信がくる。 メッセージで返事するのが嫌で、携帯をサイレントにして鞄へしまうともうなにも聞こえない。 返信がなければ立浪くんも寝ざるを得ないと思い、図書館へ歩を進めると見えてきたのは扉に貼られた本日閉館の文字。 なにやら窓ガラスの一部が野球部のボールによって割られてしまったらしく、それの修繕で閉館らしい。 気を紛らわすのに本の続きを読もう思ったのに。 時計を確認するのに携帯を取り出すとちょうど立浪くんから着信があった。 出るのをためらいながら、それでも無視をするわけにもいかなくて通話ボタンを押す。 はい、という前に立浪くんがかぶせてきて押し黙る。 『ねー、飲み物なくなったから買ってきてー。』 風邪ひいてるし仕方ないかと、了承の返事をする前に電話を切られた。 急いで彼の最寄り駅へ向かう。 駅の中にあるドラッグストアでスポーツドリンク何個かとゼリーのような喉通りの良いものを買って彼の家へ向かった。

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