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第11話
ただ触れるだけのキスまでは終わった。肝心なのはそこから。
未経験でもないくせに、大切にしすぎてそこからどうやって事を進めればいいのか分からない。
いつの間にか伸びた身長は気づけば先輩を軽く見下ろすまでになっている。
爆発しそうな感情を全てぶつけてしまいたい。
でもいざ顔を見ると大切で愛おしくて、抱きしめたり、唇に触れることしかできない。
「颯斗!ボール!…あ……」
蹴りあがったボールは側頭部に綺麗にぶつかって、その勢いでフィールドに倒れ込む。
受け身はとれたから痛くはないけど、起き上がる気力がない。
「ごめん大丈夫?!起き上がれないほど痛い?
担架もってくる?大丈夫?なぁおきて、ごめんなぁ。」
チームメイトで幼馴染みの進藤 歩夢 が心配そうに覗き込んでくる。
怒涛の心配の言葉でつい笑ってしまう。
「平気だよ。別に脳震盪おこしたわけじゃないし。」
でも、と言葉を続けようとする歩夢を制止する。
せっかく身体を動かしてるのに頭でモヤモヤ考えてる場合じゃない。
身体を動かしてるときくらい目の前のことに集中しないと。
俺と歩夢の入ってるサッカーチームは何もプロとかを目指す本格的なのではなく、小学生から入ってたクラブチームの延長線のようなもの。
本当は中学を卒業した時点で抜けるはずだったのを週1くらいなら、とコーチが遊び半分で見てくれるだけ。
遊びとはいえ昔からのチームメイトは何人かいて、たまにコーチの教える中学生チームと試合が組まされたりもする。
歩夢と一緒にコーチに呼ばれて走っていくと、歩夢の頭を軽くコツンと小突いたあとこっちへ向き直った。
「頭打ってるし、なんかあるといけないから念のため病院いってこい。
歩夢、お前は付き添い。はい、以上。今日はお疲れ、また来週。」
コーチはそう言って俺と歩夢を追い出すと、目線はもうフィールドの方へ。
心配してるのか、厄介払いがしたかっただけなのか。
「このまま帰んない?病院とかだるいじゃん。」
視線を歩夢に向けると、こちらを睨んで大きくバツを作った。
「絶対だめ!頭は何があるかわかんないから!
なんかあったら俺が怒られるじゃん。それに彼女に心配かけんなよなー。」
「…あー、彼女ね、別れた。」
まじで?!と更衣室までの通路に響く大きい声。
そのあと小さく なんで? と聞いてきた。なんでって。なんでだっけ。
いろいろ、と答えると不満そうにこちらを向く。
歩夢は中学が同じの彼女のことも当たり前に知っている。
試合のときは見に来ていたし、彼女と話したこともある。
「俺に1回も彼女ができない中、お前は付き合って別れたのか!
なに、お前実はモテたりすんの?」
「いやモテないけど。たまたまでしょ。」
いくら幼なじみで親友と呼べる間柄でも、同性と付き合ってるなんて軽々しく言うものではない気がする。
もちろん言えたらいいんだろうけど歩夢が受け入れられなかった場合、俺だけじゃなくて先輩にも迷惑がかかるかもしれない。
それだけは絶対に避けたい。
着替え終わって先輩にメッセージをいれると、思ったより早く返信が来る。
<お疲れ様。いつもより早いね。>
句読点だけのそっけないメッセージ。
最初は怒っているのかと思ったけど、先輩は絵文字とかスタンプとかそういうのは使わないらしい。
そんなそっけない文章なのに、いつもより早いね、なんて待ってたみたいな言い方されると嬉しくなってしまう。
頭を打って病院行くなんて伝えたら心配をかけてしまうから、早めに終わったと伝えて携帯をしまうと歩夢が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
なに、と声をかけると口元に手を当てて首を傾げる。
「お前好きな人か彼女できたろ。」
「は?なんで分かんの?きっも。」
「いやいや、分かりやすすぎるって。
携帯みて笑っちゃってたって。はは、かわいーとこあんじゃん。」
小馬鹿にしたように言う歩夢と少しじゃれて、病院へ向かう。
――結果は何もなく、普通に帰宅。
家へ向かう途中で歩夢と別れて歩いていると、前には見覚えのある愛しい人の姿。
「優紀先輩!なんでいるの?」
急いで駆け寄ると先輩は少しうつむいて申し訳なさそうに言う。
「メッセージいれたんだけど。…返事も来てないのにごめん。
ちょっとストーカーみたいなことしたかも…」
そう言われて慌てて携帯を見ると1時間前に
<本屋に来たんだけど、少し会える?>とメッセージが残っていた。
「ストーカーなんてそんな!めっちゃ嬉しいです、会えてよかった。」
人目もはばからず抱きしめそうになる。なんでこの人はこんなに愛おしいんだろう。
付き合った日以来、家に来ることはなくて今日が久しぶりの2人きり。
図書館と違って誰かが入ってくることもない、家の中も誰もいない。
―――もしかしてこれは1つすすむチャンスなのでは?
そう思ったものの、自分がサッカー帰りだったことを思い出して止まる。
抱きしめて汗のにおいなんてしたら気まずすぎる。
「先輩、俺シャワー浴びてきていいですか。」
「シャワー…」
目を丸くしたあとに顔を赤くする先輩をみて、何を考えているか察して慌てて否定する。
そりゃもちろんそこにだって進みたいけど。
「先輩ちがう、普通に汗流したくて。ほら、俺サッカー帰りだし。」
あぁ…、と安堵なのか落胆なのか分からない声を漏らして、苦笑いしたまま行ってらっしゃいと送り出される。
俺の中の先輩の印象は清廉そのもので、そういう性的なイメージと全く結びつかなくて少し驚いた。
性的なことを理解してて当たり前な年齢なのに。幻滅したわけじゃない。むしろ嬉しい。
好きじゃなかったらそういう対象にすらならないんだから。
無心でシャワーを浴びて部屋へ戻ると、先輩は本を読んでいてこちらに気付くと本を閉じた。
おかえり、と微笑んでくれる顔が愛おしくてつい抱きしめにいってしまう。
「わ、つめた。髪乾かして来なかったの?」
「早く先輩とぎゅってしたくて。んー、すき。」
困ったような、でも喜び混じりの声で そっか、と呟くと抱き締め返してくれる。
少し身体を離すと目が合った。
しん、と静かな空間。
いつもみたいに触れ合うだけのキスをした。
まだ先輩は慣れないみたいでキスのあとはいつも恥ずかしそうにする。
それが可愛くていつもなら満足していたけど、今日はふたりきりで誰にも邪魔されないから。
キスを何度か重ねたあと舌をいれると、身体が強ばったのが分かった。
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