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第13話
少し濡れた冷たい髪の毛。
ただ触れ合うだけじゃない、初めてのキス。
ずっとしてもらいたかったその深いキスは想像してたよりもずっと恥ずかしくて、まともに息もできなかった。
たった1回しただけで胸が苦しくて、唇が離れたあとも息がしづらかった。
あの日の彼はいつもより積極的でいつもなら終わるところを終わってくれなかった。
たった一つしかかわらなくて、少し前まで中学生だった彼にこんなにもドキドキさせられて悔しいのに、なにも仕返しできることがない。
いつもリードされてばかりで自分からはなにもすすめられない。
あの舌の入ってくる感覚が忘れられなくて何度も反芻する。
優しく何度も触れたあとに舐めるように差し込まれて、まともに息もさせてもらえない。
唇を離したあと流れるように首筋に痕をつけられて、人形のようにされるがままで。
本当は僕も彼につけたかった。
でも彼の身体に自分が触れるのがとても汚い気がして無理だった。
彼と付き合っても僕は自分が許せないまま。
あの日、はじめて深いキスをした日から、図書館でキスをしたり抱き合ったりとかはしなくなった。
そのかわり僕の家に来たり、彼の家に行ったりっていうのが頻繁になっただけ。
僕は家から学校が遠く、学校のそばにマンションを借りてもらった。
最初の方こそ頻繁に来ていた母は今となってはほぼ来ず、月に一度これば多い方。
そんな風にいつでも2人になれて、邪魔もされない環境に置かれたらすることなんてひとつしかなくて。
ギッ、とベッドが軋む。
ベッドへ横になってキスをしながら、立浪くんの手が制服の下に伸びて、胸元に触れる。
「…っ、ん……」
息と一緒に漏れる声を手で抑えて我慢する。恥ずかしくてどうにかなってしまいそう。
ここまで、の意味で彼を見ると立浪くんは手を止めた。
ベッドの上に座り直して、服を着直そうとすると手を掴まれる。
「先輩ごめん、もう少しさせて…」
そう言って僕をもう一度ベッドへ押し倒すといつもより少し強引に服を捲った。
立浪くんの舌先が僕の胸元に触れるたびに息が漏れる。
気持ちいいのに恥ずかしくてたまらない。下半身に熱が集中して膨張する。
「やっ、やだ、恥ずかしいからもうやめて…っ」
立浪くんは服の上から膨張したそれを撫でるように触って、こっちを向いた。
「気持ちいい?」
恥ずかしくて頷くことしかできない僕を抱きしめて、それを直接触ろうとする。
「待ってだめ、汚い…ぁ、やだ…、」
制止しても止めてくれなくて、上下に動かされるだけであっという間に快感が押し寄せてくる。
自分でするのとは全く違うその動きがあまりにも気持ちよくて涙がこぼれそうになる。
少しずつスピードをあげられてそれと一緒に息も荒くなっていく。
「先輩イきそう?いいですよ、このまま俺の手に出して?」
「やっ…ぁ、出る、本当に、出ちゃうからぁ…っ」
立浪くんの手の中に全て出し切って、そのまま胸元によりかかる。
恥ずかしいのにあんな風に快楽に身を任せて出してしまったせいで頭がぼーっとする。
ベッド脇のティッシュで手を拭いた立浪くんは僕を見て軽くキスをした。
「気持ちよかったですか?ふふ、先輩かわい、手洗ってきますね」
「ん…うん…」
ベッドに横になって手を洗いに洗面所へ向かう立浪くんを見送る。
触ってもらって、挙句ティッシュじゃなくて手の中に直接出すなんて。
綺麗どころか汚いものしか見せてない。
あんなに気持ちよかったのに残るのは罪悪感ばかりで涙が出る。
泣いてる顔を見られたくなくて反対側を向いた。
いつもしてもらってばかりで愛情表現も上手にできない。
僕からなにかしてあげた事も、思い出す限りなにもなくてますます僕と付き合っている理由が分からなくなる。
「なーんで反対向いてるんですかー?」
僕の頭を撫でるその手が優しくて余計苦しい。
泣いてることに気付かれてはないだろうけど、無理にこちらをみようとはしなくてそのままずっと髪を撫でてくれる。
「ねぇ先輩、さっきの嫌だった?」
「……嫌じゃないよ。」
涙声の僕に気づいて立浪くんは僕の腰あたりに顔を埋めた。
「…ほんと?」
うん、と短く相槌をうったあと、正面を向いて少し起き上がると立浪くんの不安そうな顔がこちらを向く。
不安そうな顔のまま僕の涙を拭って、こちら側に倒れ込んできて僕のお腹にまた顔を埋めると大きくため息をついた。
出会ったころよりも少し伸びた立浪くんの髪を撫でながら、愛おしさで胸がぎゅっと詰まる。
こんなにも好きなのに僕は彼に何も伝えられてない。
付き合ったあとも不安なのは消えなくて、付き合ったその日から振られてしまうことを考えてしまう。
――友人関係にはない終わりがこわい。
「…泣いちゃうほど嫌だったんですか?」
「これは違う、そういうのじゃない。」
「じゃあなんで?」
布団の端をつかんでそれを言うべきか悩む。
でもこんなことを考えてて重いとか思われないだろうか。
それに僕の中の限りない欲の話だって気持ち悪いと引かれるかもしれない。
「…言ったら嫌われちゃうから言いたくない……。」
上を向いた立浪くんの表情は悲しんでるようにも少し怒ったようにも見えて、立浪くんを触る手が一瞬止まる。
起き上がった立浪くんは僕の方を見ないでため息のような息を漏らした。
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