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第16話
立浪くんは制服に着替えたあと僕を見て言った。
「なんで先輩、ローションとかゴムとか持ってたんですか?」
あまりにも単刀直入で渡してくれた水をこぼしかける。
コンドームに関してはそういうこともあるかも、と立浪くんが家に来はじめた頃に用意したものだけど、ローションは僕が自分のを慰めるために何度か使っていたもので、どちらも説明するのが少し恥ずかしい。
とはいえ説明しないと立浪くんの追求からは逃れられそうにないし、素直に打ち明ける。
「へぇ…先輩がそういうの買ってるとこ見たかったかも。」
とまじまじと僕を見ながら呟く。
「ネットでしか買わないよ!もう!」
立浪くんはどうやら僕が顔を赤くしたり恥ずかしくて言い淀んだりするのが好きなようで、それがたまらないんですよねぇと笑いながら言った。
どちらも僕の意思でどうにもできないことで、それが少し悔しい。
「泊まるのに服とかないし、どっか近所の店で適当に買ってきます。
あと俺でよければ飯とか適当に作るんで、先輩寝てていいですよ」
そう言うと僕の頭を適当にくしゃっと撫でて立浪くんは部屋から出ていった。
玄関が閉まる音がして部屋に1人残される。
立浪くんのことを好きになるまでは寂しいとかそういう気持ちはなくて、むしろ好きなタイミングで自分のことができる方が嬉しかった。
本を読むのが好きすぎて、それをご飯だ風呂だと中断させられるのも嫌だったし。
それなのに今は気になって購入まではしたものの、読まないままの本が机に数冊積んだまま。
暇があれば読もうと思ってるのに、そんな時間があれば立浪くんのことを考えてしまって本に手が伸びない。
会えない時間が寂しくて、本を読むのに集中できない。
重たい身体を引きずってなんとかクローゼットからTシャツを出すと、胸元に幾つか赤い痕が見えた。
つけられている最中はまったく気付かなかったのに、今は確かにつけてたかも、くらいには思い出せる。
今日は濃い一日だった。泣いたことも、その後の時間も。
それにこれからの時間も。
もう少しで19時になろうとしているのに外はまだ少し明るい。
立浪くんが出ていってまだ10分と経ってないのに心細くて、布団に滑り込むとほのかに香る立浪くんのにおいに胸が締め付けられる。
においって本当に厄介だと思う。
ほんの少しでも立浪くんと同じにおいがしたら無意識にそっちを向いてしまうから。
それでいて彼じゃないと知ると自分でも驚くくらい落ち込む。
休日は香水を使うみたいだけど、学校の日はまた違うにおいがする。
どちらにしてもいいにおいなんだけど。
彼の残り香に包まれていると疲れたのもあるせいか急に眠気が襲ってくる。
静かに下りてくる瞼に抗うことなく、瞳を閉じた。
次に目を開けたのは身体に重みを感じたとき。
「…ん……、」
「せーんぱい、ただいま」
目の前に立浪くんの顔があって、驚きと恥ずかしさで一気に目が覚める。
ただいまなんて一緒に暮らしてる恋人みたいでなんだかくすぐったい。
僕に乗りかかった立浪くんを撫でながら起き上がると、料理のにおいがした。
「ふふ、おかえり。ね、ご飯作ってくれたの?」
「あ、はい。もう食べれそうですか?」
僕が返事をする前にお腹がくぅ、と返事をする。
立浪くんがそれで笑うと手を引いてテーブルまで連れて行ってくれた。
僕の家の小さな2人がけのテーブルに座らされて、美味しそうなパスタとスープ、それから小さなサラダが置かれる。
レストランのパスタセットみたいな用意周到さに思わず息が漏れる。
「立浪くんが作ったの?すごいね、お店のやつみたい!」
「あはは、料理すきだから嬉しい。あとは口に合えばいいんですけど…」
いただきます、と手を合わせるとニコニコしなからその様子を見るだけで立浪くんは食べようとしない。
「そんなに見られてたら食べにくいよ?
あ、ん……このパスタおいしい!立浪くん料理上手なんだね!」
嬉しそうに笑ったあと立浪くんも食べ始める。
立浪くんが用意してくれた料理は全部おいしくて、僕一人のときの料理がいかに手抜きかを思い知らされる。
立浪くんはもしかしたら、俗にいうスパダリってやつなのかもしれない。
高収入じゃないのは学生だから置いといて、それ以外があまりにも完璧すぎる。
食べ終わった食器も手際よく片付けて、食後のデザートにショートケーキまで用意されてるのにはさすがに笑った。
「立浪くんって恋人に結構尽くす人?」
くすくすと笑いながら聞くと、立浪くんは最後に残ったショートケーキのいちごを飲み下してから言う。
「いや全然、先輩にだけですよ?」
平然とそんなことを言ってショートケーキの小皿をキッチンに下げた。
食器くらい洗うよ、と伝えても洗うのも断られた挙句お風呂まで促されて、これじゃどちらが客人か分からない。
なにも教えていないのにしっかりお湯が溜まった浴室へ入る。
身体を隅々までしっかり洗って湯船に浸かると一日の疲れが抜けていく気がした。
僕は元々お風呂がすきで、浴槽には毎日浸かる派。
まだ少し痛む下半身を撫でていると突然浴室のドアが開いて、立浪くんが入ってくる。
「失礼しまーす。」
驚きすぎて絶句しているこちらなんてお構いなしに、あっという間に髪と身体を洗い終えて浴槽に入ってきた。
「先輩はそっちね、俺はこっち側。」
「いやそうじゃなくて!なんで一緒にお風呂なの、狭いし恥ずかしいじゃん!」
立浪くんはまぁまぁ、と言いながら僕の正面に座る。
狭い浴槽に向き合って座ってるせいで狭さが増す。
普通サイズのお風呂でも男二人じゃ狭いだろうに、たかが1LDKのマンションのお風呂じゃ狭すぎる。
「もー、わがままだなぁ。じゃあ上おいで?」
ぐい、と引き寄せられて対面で抱っこみたいな形になる。
これはこれで色んなところの密着度が高くて恥ずかしい。
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