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第20話

いつもなら中庭で颯斗くんとご飯を食べるのに、雨のせいで食べられない。嫌な雨。 颯斗くんからも<教室で昼食べます>ってメッセージ。 雨降ってるし分かってたけど。土曜ぶりに会えると思ったのに寂しい。 「辰巳がこっちで飯食うの珍しいじゃん。」 長谷部が椅子をがたがたと動かしながら寄ってくる。 僕の机の前に椅子を置くと、机の上に菓子パン2つとおにぎりを2つおいた。 「なんでここで食べるの?」 「いいじゃんたまには!辰巳いっつも中庭行くんだもん。  あのイケメンくんと飯食ってんでしょ?いいなー、後輩に慕われてて。」 長谷部が菓子パンの袋を開けながら言う。 そんなこと言いながら長谷部は長谷部で晴れてたら屋上で彼女とご飯を食べている。 僕は堂々と恋人と言える関係が羨ましい。 「…まいちゃんとうまくいってる?」 長谷部は少し考えこんで「多分」とだけ答えた。 「今日ちょっと相談しにお前ん家いっていい?」 こんな風に長谷部が僕を頼ることは珍しくて、すぐに頷く。 颯斗くんとは約束してるわけじゃないけど、後で一応謝っておこう。 颯斗くんに断りをいれるとはメッセージでOKとかかれたひよこのスタンプだけ送ってきた。 家に来た長谷部にアイスミルクティーをいれると一口飲んで、こっちを向く。 「変なこと聞くけどさ、辰巳ってある?」 「………待って、待ってね。」 経験、それって多分男側の方だよなぁ。 そうなると未経験、男側じゃなくてもいいなら経験はある。ただなんて答えればいいか悩む。 「んん、んー、あるようなないような、微妙なとこ…かな…」 「なんだそれ、まぁいいけど…  まいちゃんとさ、そういう雰囲気になんじゃん。  でも俺そっから進め方わかんないの、どうすればいいと思う?」 僕が立浪くんとしたときのことを思い出して急に恥ずかしくなる。 こんなのどう説明したらいいんだろう。 長谷部は真剣に悩んでいて、僕のことを信用して頼ってくれている。 そんな長谷部に嘘をつき続けるのが心苦しくて打ち明けるか悩む。 もしかしたら大切な友人を失うかもしれない。 でも僕が嘘をついて教える情報なんかじゃきっと意味がないし、恥を忍んで相談してくれた長谷部にあまりにも不誠実だ。 「長谷部ごめん、相談乗る前にひとついい?」 「んぇ、なに?」 緊張で声が震える。 颯斗くんに同性愛者と伝えるときよりも緊張してるかもしれない。 手汗をズボンで拭いとって長谷部を真っ直ぐ見据える。 「ぇ、と…僕、同性愛者なのね。今付き合ってる人も男の人なの。  その人としか経験ないし、その、男の人側ってしたことないから  全然参考にならないと思う。ごめんね。」 「あ、そなの?てか付き合ってる人ってことは彼氏いんの?  なんだよ、もっと早く知れてればもっと前から恋バナできたのに!」 長谷部はなんてことないようにすんなり受け入れてくれて拍子抜けする。 気持ち悪くないの?と聞くといつもみたいな間の抜けた なにが? という返答で、肩から力が抜けた。 長谷部は思い出したように手をポンと叩くと、さも名案が思いついたかのように言う。 「ねぇ、あの子は?辰巳と仲良い1年の子!あの子かっこいいし経験ないのかな?」 「え、颯斗くんのこと言ってる…?あー…えっと、彼女いた、らしいけど。」 いたらしい、なんて白々しい言い方。 じゃあ電話して呼べたら呼んでよ、とせがんでくる。 いや僕だって会いたいけど。でもそんな理由で呼びつけるなんて、そもそも颯斗くんと彼女のそういう話なんて聞きたくないんだけど。 そう思っても付き合ってるのが僕とは言えず、結局電話を鳴らす。 思いのほか早く電話に出た颯斗くんはいつもみたいに優しい声で、長谷部がいるのにドキドキしてしまう。 「あ、あの急にごめんね、もう帰っちゃった?」 『まだ図書館いるよ、どした?』 「えっと、あの、今から家来れないかな。  あの、長谷部、…友達が話したいことあるって。」 あぁ、と言う颯斗くんの声が一瞬低くなった気がした。 『今から行くから多分10分、15分くらいあとには着くと思う。じゃ一回切るね。』 そう言って電話を切る。普段電話なんてしないせいで無駄にドキドキした。 耳元で聞こえる颯斗くんの声は心臓に悪い。 今から来るって、と長谷部に伝えると適当に返事をして僕の方にずい、と寄ってきた。 「なぁ辰巳はその人と付き合って長いの?」 「へ?あぁ、僕の話はいいじゃん、恥ずかしいって。」 いいからいいから、と長谷部は詰めてくる。 ぐいぐいと色々聞こうとしてくる長谷部に、逆に自分はまいちゃんとどこまで進んでいるのか聞いた。 「キスはしたよ、でも問題はそっから。舌入れるのとかあんなん無理じゃない?」 「あー…うん、分かる。僕も自分から出来なかったもん。」 だよなぁ、と相槌をうつ長谷部。 普通の恋愛話のように見えて相手が異性と同性なのが少し面白くて、長谷部がそれを理解した上で普通に話してくれるのが嬉しい。 〜♪ 部屋のチャイムが鳴って玄関まで颯斗くんを迎えに行く。 たった一日会わないだけで寂しくて、玄関を開けて顔が見えるだけでこんなにも嬉しい。

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