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第21話
部屋へ戻ると長谷部が軽く颯斗くんに挨拶をして、それにならうように颯斗くんも長谷部に挨拶をした。
お互い顔は知ってても話したことがないんだから、当たり前なのに変な感じ。
長谷部が颯斗くんに同じことを話して、颯斗くんは少し考えたあと僕を見た。
「優紀先輩、ちょっと女の子側してくれません?」
「んえ、僕が?…別にいいけど…。」
じゃあここ座って、と隣に座らされて長谷部に状況を説明しながら顔を近付けてきて、つい目を閉じそうになる。
「同じ部屋にいたとしたらこうやって横いくじゃないですか
それで何回か普通にキスして、いけそうだなってタイミングで舌いれてみたらどうですか?
タイミング間違えてもまぁ多分、平手くらいですむんじゃないですかね」
「待って立浪くん、いけそうなタイミングってなに…」
長谷部がうなだれながら聞いて、颯斗くんは頭をかきながら僕をみた。
「あー、顔?顔みたら大体。なんかちょっとぼーっとしてるなってときとか。
とりあえず舌入れられたらこうして…よいしょっと」
「わっ、ちょっと…っ!」
急に脇から抱きかかえられて、驚いているうちにベッドへ押し倒されていてそのまま上に覆いかぶさってくる。
長谷部のためだとは分かっていても、ドキドキが止まらなくて手汗が出てくる。
「こうですかね。
長谷部先輩ちゃんと倉内抱っこできます?」
長谷部は抱っこかぁ、と呟く。
それから颯斗くんは思い出したように僕の顔を見てにこっと笑って、その顔にはてなを浮かべながら同じように笑い返す。
「あ、あと何回もキスしてあげてくださいね。
じゃなきゃ途中で女の子も多分萎えちゃうんで。
ですよね、彼女役の優紀先輩?」
僕に向かって小首を傾げるわざとらしい仕草にちょっとムッとしながら「そうかもね」と相槌をうった。
その状態のまま颯斗くんは普通に長谷部と話していて、少し触れた場所が熱を持ってジンジンする。
長谷部に付き合っていることがバレないようにしてるはずなのに、密着しているせいで下半身が反応しそうになる。
それが嫌で少しずつ離れようとしてるのに、長谷部から見えないほうの手をぐっと掴まれて動けない。
「そこからは服の下から手入れたりとか、首元にキスするとか臨機応変ですね。
あー、一回目で失敗しても気にしない方がいいですよ。
何回もしてるうちに相手も許してくれるようになるし。多分。」
「うへ、むずかし。
立浪くんありがと、辰巳も彼女役あんがと。
てか立浪くんすごいね、辰巳のこと抱っこできんだ?」
「優紀先輩は軽いですよ。
あと普通に鍛えてるんで、ある程度までは持てますよ」
涼しい顔をしながら僕の上から退く颯斗くんになんとも言えない気持ちになる。
僕ばっかり熱くて、僕ばっかり触れたいみたい。
「鍛えてんの?なんで?」
「今の恋人が腹割れてんの好きって言うからですよ」
そう言って長谷部にバレないように視線をこっちに向けて、すぐ長谷部に戻す。
長谷部は感心したように息をもらしたあとこっちを向いた。
「俺も辰巳でちょっと練習していい?」
だめ、と言いかけると颯斗くんが先に長谷部を止める。
「やめた方がいいですよ。
クラスで他の女子と慣れてそうなのやだって話してましたもん。
色々教えちゃったけど、素のままの長谷部先輩でいけばなんとかなりますって。」
そう言って長谷部に笑いかけてうまく断ってくれた。
立浪くんが言ったのは本当のことかもしれないけど、長谷部と練習にならなくて少し安心する。
長谷部は改めて自分と颯斗くんにお礼を言うと、まだ学校で部活をしているまいちゃんの元に戻って行った。
今日実践するかはさておき、一緒に帰るらしい。
長谷部を二人で見送った後、鍵をしめて二人だけの空間になる。
「優紀せーんぱい。」
「なーに、立浪くん。」
わざとらしく呼んできたのに合わせて、僕も調子を合わせると顔を覗き込んできてそっと唇に触れた。
「…こういう顔なんだよなぁ。」
「え?」
小さく呟く颯斗くんの声がちゃんと聞こえなくて聞き返すと、颯斗くんが耳元で呟く。
「優紀はいつでもいけそうな顔してるね、ってハナシ」
一気に恥ずかしくなって颯斗くんから目をそらす。
颯斗くんは気にもとめずに「そしたらこうして〜」とさっきみたいに僕を抱きかかえて部屋まで連れていく。
「わっ、ねえちょっとおろして、重いでしょ!」
「えー?さっきも言ったけど軽いよ?…そんでこう、ね。」
そう言って軽くベッドへ寝かして、そのまま上に乗ってきてさっきと同じ状況になる。
長谷部に教えた通り何度もキスをしてきて、服の中に手を入れられる。
「待っ…「待たない。」
言葉を遮られてたじろぐ。少し強い言い方。
「颯斗くんなにか怒ってる…?」
顔を上げたときの表情がいまいち読めない。
泣きそうな顔に見えたけど、多分それは勘違い。
「怒ってないけど……ちょっと妬いてる。」
「妬いてる?何で?」
「……長谷部先輩と仲良くて。
なんかあるとか疑ってるわけじゃないけど。
普通に2人きりになったりとか、普通に仲良いのとか、距離近いのとかちょっとやだ。」
颯斗くんが長谷部に嫉妬してるって?
電話したときに長谷部の名前を出して声が低くなったのはそれが原因なのかと気付く。
嫉妬してくれることが嬉しくて颯斗くんに抱きつくと、抱きしめ返してくれる。
「長谷部には男の人と付き合ってるってさっき言ったよ。
颯斗くんとは言ってないけど、言ったほうが安心する?何したら安心できる?」
颯斗くんは考えているのか言い渋っているのか分からないけど、何度か唸ったあと顔をあげてこっちを向くと軽くキスをした。
「俺と付き合ってるってちゃんと言って?」
「ふふ、分かった、ちゃんと言うね。」
「あー、もう。嫉妬してるとか絶対言いたくなかったのに。
全然余裕ないじゃん俺。だっせぇ…」
頭をぐりぐりと胸に押さえつけてきて、それを撫でると颯斗くんは動きを止めて抱きついてくる。
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