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宮前紅壱郎⑤

「――ってことなんだよねぇ、どう思う翔太くん?」  いつの間にそんなに仲良くなったのか、こうちゃんは吉植先輩のことを翔太くんと呼ぶ。呼ばれた先輩は気にしている様子もなく、こうちゃんのことを宮前ちゃんと呼ぶ。  言われた当の先輩は、気まずそうな顔をしてコーヒーをひとくち飲んだ。 「それ、相談するの僕で合ってるかな」  わざわざ俺たちが先輩を喫茶店に誘ったのは、相談をするためだった。俺はその内容を聞かされないままこうちゃんについて来ただけだったけど、どうやら話のメインは俺のことらしい。今説明されたのも俺の現状であって、こうちゃんにはほとんど関係ないことだ。  つまり、こうちゃんは俺のシンへの恋心を隠しつつも――とはいえ、聞く人が聞いたらすぐにぴんと来るだろうけど――天使の不在と、それに伴って起きている俺の心の変化について先輩に相談しはじめたのだった。  なんで? 「合ってるに決まってるじゃん、翔太くんもゆーくん取り合った仲でしょ?」 「……だからこそ、合ってないと思うんだけどね?」  どうやら俺が知らないうちに、先輩と俺とのごたごたについて、こうちゃんはどこからかその情報を仕入れてきていたらしい。  俺のことをストーキングしていたはずだから、もしかしたら目撃していたのかもしれない。そう思うと少し怖い。だって、ぜんぶ知ってて先輩と俺の隣にいるってことだ。  先輩は小さくため息を吐きながら、首を横に振った。その肩の上、妖精は俺をバカにしたような顔で浮いている。やれやれ、とつぶやくのが聞こえてきそうだった。 「こんなこと言いたくないけどさ、もしかして星見ってバカなの?」 「ばっ」 「あっはは! 言われちゃったね、ゆーくん!」  古めかしい喫茶店に似つかわしくない笑い声が響く。  バカだなんて、誰かに言われたことはなかった。それも、憧れていた先輩に言われるとは、思ってもみなかった。 「とりあえず、きみたちはちゃんと話す必要があると思う。それだけでも効果はあるんじゃないかな」 「け、けどシンはどこ探してもいなくて」 「あー、いるんだよね、実は」  先輩はめんどうそうに、頭をかきながらいった。 「僕の家に居候してる。ひとり暮らしの人間の家は楽でいいって」 「えっ」 「ゆーくんかわいそう……」  シンがいなくなってから数日経っていたけど、先輩からも妖精からも、もちろんシンからも、そんなことは聞いていなかった。いなくなったことを報告はしたけど、相談はしなかったからだろうか。訊ねていれば教えてくれたんだろうか。  もしかして、先輩はシンとふたりでなにか企んでいる、とか――。 「天使くん、星見に嫌われたって、泣いてたよ」 「嘘言わないでくださいよ」 「まあ、嘘だね」 「翔太くん、あれ以来くだけたよねぇ」 「あれ以来」が指すあの事件の心当たりはひとつしかない。やっぱりこうちゃんは知っているらしい。 「とにかく、僕の方でどうにか外に出してみるから、星見は天使くんとちゃんとお話しするべきだ」 「わ、わかりました」  いろんな協力をしてくれる友人を持って、俺はやっぱり幸せ者だ。

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