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シン④*

 シンに抱きかかえられて部屋についてからは、ふたりとも止まれなかった。ベッドに座るまでにも何度も何度もキスをした。触れ合うだけの甘いキス。くちびるだけでなく、互いのいろんな場所に。頬やおでこ、耳、首筋や鎖骨にまで。  次第に深くなっていく口づけに耐えきれず、俺はベッドに倒れ込んだ。縫い付けるように、シンは俺の手を絡めとる。指と指を重ね合わされて、動けなくなる。シンの体重が俺にかかってくる。  一瞬離れたシンは、にやりと笑みを浮かべて、くちびるをなめた。まるで天使らしくない表情に、思わず胸が縮む。これからなにをされてしまうのだろうか、期待に高鳴る。  真っ白の肌に浮かぶ、深紅のくちびる。シンは確かめるように、俺のそれに重ねあわせる。入り込んできた舌を、ためらうことなく受け入れ絡めあう。温かなそれは、惜しみなく愛を注いでくれる。  シンの手がさわさわと腹に触れている。シャツ越しにシンの大きな手を感じる。大きくて骨ばっていて、けど美しいそれは、胸の方へと上がってくる。こんなときながら、風邪をひいたとき看病してくれたのはシンだったのだと知る。  さらりとなぞられた胸の先に、甘いものが響く。びりびりと快楽に感電させられたような感覚に落ちていく。自由になった左の手で、シンの頭を引き寄せる。もっとつながっていたい。 「んっ、ふ、ぁ」  性急なキスに感じてしまう。鼓動がはやくなっていく。破裂してしまいそうだ。シンに伝わっているんじゃないだろうか、それくらい心臓が大きく鳴っている気がした。  ほほえんだシンの顔が離れていく。まだもっと。伝えたくて首に回した手を引くけど、さらりとかわされる。  シンは首筋に顔をうずめ、すう、はあ、と息をしている。ぎゅうと密着した身体が愛おしい。この重さに酔っていたい。  そんなことを考えていると、じゅ、と首筋を吸われた。痛みとともにしびれるような感覚が腰に響く。 「あ」 「これでオレのだな」 「……まだ、まだだよ」  マーキングされたくらいで人のものになってやる気はない。まだほしいものがある。奥まで届くように、身体の中からすべて、シンのものにしてほしい。 「はっ、強情なやつ」  シンはシャツの中に手を滑り込ませた。それから、突起の周りに直に触れてくる。さらさらとなぞるように、にゅうと挟むように、ゆるくなでるように。  けれど中心には触ってくれない。たまに意図せずなのか、くるくる回る指の腹が触れると、無意識に甘い声が漏れ出る。好きな人に触れられているんだ、意識すればするほど感覚が尖っていく。  シン、シン……。  声を上げているのに、シンは俺の思い通りに動いてはくれない。それがより興奮を沸き立たせていく。  空気にさらされた腹を、舌がなぞる。ぬるり、と濡れた感触がへそに入り込む。圧迫されるようでありながら、ぞわぞわと下腹が粟立つような感覚に襲われる。 「シン、っ、やだ、さわって」  思わず口から願望が漏れた。  上目遣いで俺を見たシンは、片方の口角を上げてにやりと笑った。けど、そのうすく紫に色づいた瞳には、いつもの余裕は見当たらなかった。  すう、と舌があがってくる。このままではなめられてしまう。このぬめった体温が、敏感になったそこにたどり着いてしまう。興奮が腹の底から湧き上がってくる。 「あっ、あっ」  身をよじりながら、そのときを待つ。髪が触れて、鼻息がそよいで――、けれど舌がやってくることはない。  どうして。シンの方に視線を動かせば、興奮しきった顔で俺を見つめているのが映る。  いじわるされてるんだ。  もう触られたくて、好き勝手してほしくてたまらないのに、シンは俺にお預けをくらわせる。 「シン……っ、お願いだから」  言うが早いかシンは、じゅう、とそこに吸い付いた。待ちわびた快楽が数倍にもなって全身に回る。吸われて、つつかれて、それから甘噛みされて。シンの舌が動くたびに、歯がそれを挟むたびに、ほしかったものを与えられた俺は腰を浮かせてしまう。  シンの右手が俺の腹から離れていく。刺激の足りなくなったそこは、ぷっくりと立ち上がっている。今まで与えられた感覚を反芻(はんすう)するような、ひりひりとした悦がじんわりと余韻を残している。  離れたシンの右手は、俺のふとももを撫ではじめた。そわそわと触れながら、硬くなりつつある中心に意識を向けさせられていく。限界、もうパンクしそうだ。  ちろちろとなめられる乳首と、やわやわと握りこまれる中心。触れてもらえた喜びで、腰が揺れる。もっと激しいものがほしくてたまらなくなる。  器用に右手だけでベルトを外され、ジッパーもおろされる。下着越しに感じるシンの手は、息を飲むような動きで俺を誘惑する。こんなのが天使なんかでたまるか。  無意識に脚を閉じようとすると、シンはストッパーのように足を引っ掛けてきた。俺の胸に埋めた顔から、上目遣いが飛んでくる。 「脚、閉じんなよ。とろとろにさせてやるから」  言うやいなや、手が下着の中に潜り込んでくる。直に触れられた箇所から、びりびりと電流が走る。  腰を浮かせると、瞬間、すべてを脱がされた。  ぜんぶ、塗り替えてやるよ。シンは、そんなふうにつぶやいたような気がした。  ぎゅう、と握りこんだそれを、シンは上下にしごきはじめる。先端から漏れ出た先走りがいやらしい音を立てている。高まっていく。熱が集まって、すべてをほしがってしまう。  好きな人に触れられて、その人も俺のことを好きでいてくれて、これこそ本当に想いの通じあった行為で。そう考えると、すぐにでも果ててしまいそうになる。 「シン、っ、好き、大好きだっ……!」  シンは顔をあげ、一瞬、無表情になったかと思うと、ふにゃり、とろけそうな顔を見せた。それが愛おしくて、ずっと求めていたのはこの瞬間だったんだと思う。  幸せって、こういうことだ。 「オレも、好きだ。愛してる」  くちびるが触れる。柔らかくてあたたかくて、優しい愛を感じる口づけ。  離れたシンは、見たこともないような笑みを浮かべていた。穏やかで、それこそ天使みたいな笑顔だ。

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