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シン⑤*
いいか? ささやく声が聞いてくる。うん、いいよ。答えれば俺の中に指が入ってくる。太くて長い指は俺の中になにかを探すように、うにうに動いている。自分では届かない場所を、かすめていく。
身体があつい。これからしようとしていることに、恐怖が募って、けれど好きな人とつながれる歓喜に震える。
「痛くないか……?」
「ん、うん。変な感じはするけど、大丈夫」
「すぐ、よくなるからな」
指は、入っては出ていき、ほぐすように体内をかき混ぜる。繰り返し繰り返し、同じ動作を続けられれば、焦 れてくる。
本当に一緒になれるんだろうか。つながれたところで、一緒に達することはできるんだろうか。不安が降り積もっていく。
「……っあ、なに、それっ」
「ここか」
シンはくちびるをなめて、口角をあげた。
異物感とはまた違った変な感じがするところを、シンは執拗にせめてくる。とんとんとん。ノックをするように、さするように。足の指先がまるまっていく。
傍 らにあったボトルを傾け、ローションを追加する。出ていった指は、太くなって帰ってきた。二本になったみたいだ。
ぐい、と拡げられる感覚。それから、またあの場所をこする指。だんだんわかってきた、これが後ろの感じ方なんだ。じんわり広がっていく快感に、気づけば腰が勝手に動いていた。
「んんっ、ぁあ、やっ」
「かわいい。ゆうすけ、もっと聞かせて」
声を出したくなくて口を塞ぐようにしていた腕を、無理にどかされる。けれど徐々に声がガマンできなくなっていく。どうしても、漏れ出てしまう。気持ちいい。
指が抜かれた。もう一度傾けられたボトルの先には、まだシンの手がある。ぬらぬらと光るその三本の指を、俺の中にゆっくりと入れていく。
ぬちぬち。いやらしい音が耳にまで届いて、赤面する。俺の体から鳴っている音とは思えなかった。なんだこのなまめかしい音は。
三本の指が自由に動き回る。と同時に、もう一方の手が俺の性器を握り込む。待って。言うよりも前に、思い切りにやけたシンがその手を動かしはじめる。
「んあぁっ! いぃ、や、やめてっ」
「やめない。ほら、いいんだろ?」
俺はもう限界だった。
「やだ、いや、いく……っ!」
「いいぜ」
ぴう、と先端から白濁が吐き出される。手のひらにおさまったその液体を見つめてから、シンはそれをなめはじめた。それから俺の腹にこぼれたそれらも、きれいに食べてしまった。
「んはは、まずいな」
「……なんだよ」
「でも、ゆうすけのだから、好きだ」
俺がびっくりしている間にくちびるが奪われる。ほんのりあおくささが漂って、けれどキスには甘さしかない。
何度目のキスかも知れないのに、俺はただ動けなくなっていた。くちびるに手をやり、目の前で服を脱ぎ捨てていくシンを見つめているしかできなかった。
顔や腕と同じく真っ白な腹。ほっそりとしていて、けれど健康的な上裸に興奮がよみがえってくる。見るなよ、恥ずかしいだろ。ベッドから降りて言いながら、シンは下も脱いだ。下着だけになったその姿は、天使というよりやっぱり人間だった。
見惚れていると、股間に目がいった。今の俺との行為で、硬くしてくれているのがうれしい。
俺の視線に気づいてか、シンは照れたように背を向けて息を吸った。後ろを向いてしまった彼は、ゆっくり下着をおろす。
思わず立ち上がって手首を掴んだ。引っ張って、抱きしめる。前を向いたふたりのそれが触れ合う。熱くてたまらない。怖くてたまらないのに、はやくこれがほしい、そう思ってしまう。
「いいよ、俺は大丈夫だから」
「っ、るせえ」
そのまま片足を抱きかかえられる。もしかして、そう思ったときにはもう遅い。シンの張り詰めたそれが、後ろのすぼまりに宛てがわれる。そうして、俺をゆっくりと貫いていく。体内の形を変えていくのがわかる。拡がって、恋人を受け入れていく。
思わず力いっぱいシンを抱きしめた。するとシンはキスをくれる。甘くて深いキス。
つながったまま、俺たちはベッドに倒れ込む。
圧迫感と異物感が腹を苦しめる。それなのに前をしごかれ、舌を絡め取られ、なにがなんだかわからなくなっていく。
にじんだ目の前に、慈しむような笑みが映った。
「大丈夫か? 痛くないか、怖くないか」
「ん、たぶん」
さら、と俺の髪をかきあげた手が、そのまま頭を撫でてくれる。近づいてきたくちびるが、目の端に浮かんだ涙を吸い取っていく。
「じゃ、動くぞ」
俺の中に入ったものが、ぬ、と抜かれていく。ゆっくり、愛を注ぐように戻ってくる。俺のいいところをかすめていく。そのたびに自分のものとは思えない、砂糖みたいな甘ったるい声が漏れ出る。
ゆったりとした抽挿 は、その分ゆったりとした快感をもたらす。甘くうずいて、焦れったくて、もっとほしくなる。
シンはそれに気づいているのかいないのか、俺の頬を両手で包んで、口づけをくれる。今までのこいつのことなら、いじわるをするような気もするけど、こんなときまで、と思わないでもない。けど、自分から「もっと!」なんてねだるのは恥ずかしくてできない。
ふとのぞいたシンの顔が、なにかをガマンするようにゆがむのが見えた。ずっと奥まで入れたまま、少し動きが止まる。
気づいたときには、いいよ、と口に出していた。
「いいよ、シン。もう、大丈夫、だから」
「この後なに言っても知らないぜ……?」
だんだんと抽挿が早くなっていく。とん、とん、とんとんとん。俺の鼓動もそれに合わせるように早くなっていくのがわかった。
あまりの快感に声が止められない。俺から出ていくはちみつのような甘い叫びが、シンの顔をゆがませ、律動 に力をもたらす。
シンの手が俺の身体から離れていく。上体を起こしたシンが、細められた目で俺を見る。ただ、肌がぶつかり合う音が部屋に響く。荒い呼吸の中に、シンのいやらしい笑みが見えた気がした。
手が俺の膝裏にまわる。ぐい、と持ち上げられる。当たる角度が変わり、より深くに入ってくる。腰を打ち付けて、ぐりぐりと押し込まれれば、勝手に精液がこぼれてしまう。
「あ、あ」
もう言葉は出てこない。喘ぐことしかできなくなってしまった。気持ちいいとうれしいが交互にやってきては、俺をさらっていく。
俺の膝を持ったまま、シンは俺の方に倒れ込んでくる。尻を持ち上げるような体勢になり、けど恥を感じるほどの理性は残っていない。空中に投げ出された脚をシンの背中に絡め、余っていた腕でシンの首を引き寄せる。
キスをした。もう何度目かもわからないのに、うれしい。
高まっていく。ずっとずっと高みに連れていかれて、戻れない。達しているのに、そこから帰ってくることができない。あまりにも感じすぎていて、絶頂が終わらない。
「ゆうすけ好きだ、愛してる」
「お、おれ、も、すきっ」
唸るように声を出したシンは腰を沈める。どくん、と脈打つのを感じる。そのまま、俺の中に愛そのものが注ぎ込まれる。これで、やっと俺はシンのものになれる。
それから何度も何度も互いを求めあった。これまですれ違ってきた分を取り戻そうとするように。どこまでもどこまでも、ふたり一緒にいた。
キスをしてほほえみあっては、自分のものだと主張するように吸い上げ、内出血をいくつも作った。体勢を変えてはつながり、何度も何度も一緒に果てた。ベッドに寝転がって、うつ伏せになって、四つん這いになって、ベッドから降りて、壁に手をついて。カーテンの隙間から朝陽がさしこんでくるまで、いつまでもそうしていた。
明日が日曜日でよかった。じゃなかったら大学なんてサボっていただろう。体力も気力も使い果たしてしまったのに、外になんて出られない。
ふたりベッドに転がって、日の出を見つめていた。俺を抱き枕みたいに、ぎゅう、と抱きしめているシンが愛しい。もう二度と離れることはない、そう思わせてくれる愛を感じる。
「好きだ、ゆうすけ。大好きだ」
もう二度と勘違いされたくないのか、恥ずかしさはどこかへ行ったのか。シンはストレートに伝えてくるようになった。それがうれしくて、気恥ずかしくて。
さっきまで、あんなに乱れながらシンに気持ちを伝えていたのが、今さらになって恥ずかしくなってくる。というか、あんなことになったのは人生ではじめてだ。全身どころか、誰にも見られることのない部分までさらしたのは。
もぞもぞ身体を動かし、シンと向き合う形になる。
垂れた眉、つり上がった目尻、真っ白な肌に真っ赤なくちびる。色づいた頬は喜びを示しているように見える。ゆるみきった口は、ふにゃふにゃとゆるやかな笑みを浮かべている。
「俺も」
「……おいゆうすけ、おれも、の後はなんなんだよ。ゆうすけもなんだって?」
この天使は実はめちゃくちゃ乙女だ。言葉で愛がほしいらしい。そんなところもかわいく見えてしまうんだから不思議だ。
「俺も、……シンが大好きだ」
それを聞けば満足そうに満面の笑みを浮かべ、ぎゅう、と抱きつく腕に力を入れる。それから俺の肩口に顔を埋め、ぐりぐりと頬を押しつける。なんてかわいい恋人なんだ。
パッと顔を上げたシンが、企むようににやりと笑う。なんだろうかと思っていれば、不意にくちびるが奪われる。触れるだけのキスを繰り返しているうちに、シンは身体を起こす。俺にまたがるような体勢になって、俺の顔の横に手をつく。
目をしばたたいているうちに、シンの顔が近づいてくる。口づけはだんだんと深くなっていき、舌が絡まっていく。裸のままの胸の先に手がすべってきて、戯 れをはじめる。漏れる声が甘く味付けされていく。
あっという間に、中心は硬度を増してしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよシン」
「ん、しないのか?」
熱を持った性器がぶつかり合う。シンのも勃 っている。
「いや、その」
迷っている間にもキスは降り続き、すぼまりにはシンの熱が宛てがわれる。
「す、る……」
言うやいなや、何度目かの挿入がはじまる――。
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