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第6話 雨脚に触れる(3)

雨脚は強く、夜中ずっと降っていたらしい。 朝の天気予報番組が昨夜の情報を発信していた。 「まだ、降ってるな」 窓の外を見る静也はため息を一つ溢した。 雨はまだ止んでおらず、雨音は小さいものの空からしとしと降ってくる。 振り返れば昨日の散らかった机、はなく片付いた部屋が静かに朝を迎えていた。 ゴミはゴミ箱に入っていて、洗い物は水切りネットでひっくり返して置いてある。雨で濡れたジャケットはハンガーにかかっていて、昨日雨を拭いたタオルと着替えた服が2回の洗濯干しにかかっている。 誰が片付けてくれたのか、考えなくても静也にはわかる。自分がやってないのだから、昨日いたニルスの仕業。しかし、片付けた張本人の姿はない。 「いない……」 もぬけの殻の客室の布団はしっかり畳まれていて、着替えに渡した寝巻きは着ていないのかそのままだった。 泊めてくれって言ったやつは誰だったか、静也が寝ている間にニルスは出ていったようだ。 仕事がないからいいよって言ってたけど、実際あったのか?それとも別用か、静也に知る余地はないが、実際いないと言う事実だけは目の前にある。 (まあ、俺には関係ないか) ニルスがいないところで静也には何ら変わりはない、これで問題ない。 静也は片付いた部屋を再度見た後、またキッチンのカウンターに置いてある皿の前に立つ。 焼いたパンに目玉焼きが載っている。 その皿の下には小さい書き置きが一枚『じゃあ、またね』と書かれていた。 特徴のある走り書き、ちょっと端が水に濡れたのかクシャッとしている。 静也は見つけたそのパンを口に運ぶ。美味しくも不味くもない。 「今日は……特に何もなかったよな」 静也がスマホの画面を起動させる。その画面には特に通知もなく、時間と日付だけが書かれていた。今日は講義がなく、静也には予定がない。友人が少ない上に平日、バイトもしてないので特に予定を詰める理由がない。研究室へ行ってもいいが、電車に乗らなければいけないのが憂鬱である。 雨も降ってるし、今日は出かけなくていいだろうと静也はソファに座ってテレビをぼーっと眺めることにした。 平日の昼間のテレビの退屈さに嫌気がさした頃、静也のスマホが通知音を鳴らす。 何だろうと覗くとそこには『今週実家に帰るから会えない』と言う一文、宛先はー静也の彼女、美咲からだった。静也は『わかった』と軽快なスタンプを送る。すぐに既読がついて、大学前で可愛く自撮りをする美咲と、その友人と思われる女の子が映る写真が送られてきた。 「最近、この子とよくいるな」 静かな部屋に静也の独り言が響く。楽しそうな写真に頬がやや緩む。 静也には一個下の彼女がいる。静也と同じ学部の後輩、ゼミの仲間に紹介されて付き合うことになった。 付き合い始めはよく一緒に大学に行ったり、遊んだりしていたが、最近彼女の方が忙しかったり、静也の方が時間を合わせれなかったりとあまり会っていない。 そのため彼女はこうして度々自撮りを送ってくる。静也に浮気じゃないよって言うためらしい。 最初のことを考えると寂しいような、悲しいような、無理くり時間を作って会うのはお互いしんどくなってくるだろうと言うのは分かってるので、静也は何も言わないようにしている。 静也はスマホの画面を消すと、机にそれを伏せる。一つ伸びをし、立ち上がる。 スマホを開いたことで昼が過ぎていたのを知ったのだ。流石に何か食べるか、と冷蔵庫を覗く。 「何もないな」 そこは相変わらずものが少ない。水と昨日飲み損ねたもう一本の酒缶、残ってる卵が2個と調味料。 外の天気は小雨、静也はため息をつくと財布をカバンから取り出し、スマホをポケットに突っ込む。 傘を持とうと傘立てに手を伸ばすとそこには見知らぬ、いや一回は見たことのある紺色の傘が置いてあった。 (忘れてる……) それは昨日ニルスがさしていた紺色の傘。雫が落ちて下に小さな水たまりができていた。 静也は一瞬動きを止めたが、すぐに自分の傘を手に持つと外へ出ていった。

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