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第10話 梅雨明け
じっとりとした空気に重たい空、そろそろ梅雨明けだろうと囁かれていたが、本当に明けるんだろうか。
静也はテレビをぼんやり観ながら、他人が用意した朝食を口に運ぶ。
「今日は5限までだから」
「そっか、じゃあご飯作って待ってるね」
広すぎる家に独りで暮らしてた静也にとって、この環境に自分以外の存在があることが不思議だった。来客用に一応置いておいたベッドが使用され、何もなかった空き部屋に自分以外が所有する荷物がある。
1週間も経てば慣れると思っていたが、一向に慣れない静也は今日も落ち着きなく自宅にいる人物に行ってきますを伝える。
玄関を出れば高い湿度と気温が肌を撫でる。
もう少しで大学が夏休みに入るのでそれまでの辛抱。特にサークルに入ってるわけでも研究に本気で没頭してる訳でもない静也は、夏休みに入ればよっぽど大学に行くことはない。
しばらく歩いて駅に着く頃には、汗で背中のシャツが張り付いている。
背負っていたリュックを電車に乗るため前向きにすると、背中に涼しい風が入り込む。
静也は電車に揺られながら、思いもしない生活の変化を振り返る。
ニルスが来てから、正しくは家に住み着くようになってから生活がガラリと変化した。
ニルスは大方日中は家にいて、せっせと好んで家事をこなしていく。まるで彼女でも来たのかと思うほどに献身的。
帰ってくる時間に合わせてご飯を作ってくれる。朝もそう、自分より早く起きてるのか寝てないのかは定かではないが、静也が起きる頃にはとっくにいて朝食を出してくれる。
悪いと1、2回断ったが好きでやってるから気にしないでとさらりと言われた。
「なんか……おかしい気がする」
「何が?」
「!?」
独り言、静也はまさか自分の独り言に返答が返ってくるとは思ってもいなかった。
横を見れば、美咲が静也の顔を覗いていた。
美咲ーー今の静也の彼女である。
「み、美咲か、びっくりした」
「どうしたの?」
心配した彼女の顔、静也は「いや、ごめん何にもないよ」と返すと美咲は不服そうな顔になる。
まさか「人外が家にいる」なんて言えるわけもないし、信じてもくれないだろう。そもそも誰かと住んでるなんて言えるもんじゃない。
「そ、あーそうだ、静也君……来週って空いてる?ちょっとちゃんと話したいことがあって」
「来週?授業さえなかったら特に予定は無いよ」
美咲は不服そうな表情をやや残しながら、真剣な顔で静也に来週話をしたいと言う。多分大学でわざわざ話しかけに来たのが、それを言うためなんだろう。
静也は特にいつでもいいと話すと「ありがとう」と言って去っていく。
わざわざ改まってなんだろうか、静也は考えを巡らせるが、特に思いつかず考えるのを止めた。
ーーー
いつの間にか外は雲が晴れて、雲に隠れてた太陽が顔を出してた。湿度は相変わらず高いためジトッとした空気は変わらない。一応持ってきていた折り畳み傘はいらなさそうだ。
重たい教科書の入ったバッグを持ち上げ、スマホを取り出す。
電源ボタンを押せばスクリーンに通知が数件。
一つは美咲からの来週の空いてる時間の確認のメッセージ、二つ目はニルスからの無くなりそうだった石鹸を購入した、とのメッセージ。後は広告やゲームアプリなどの通知。
返信するのも億劫で、既読をつけないように確認するとポケットにスマホを突っ込み駅へと歩き出す。
「ただいま」
玄関を潜れば電気のついた部屋が迎えてくる。そしてキッチンの方から「おかえり」の声。
ニルスがキッチンに立っていて出来上がったであろう料理を皿に盛り付けていた。
その横を通りしなに目を向ければ、今日のメニューはサラダがメインのヘルシーそうなものだった。
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