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第18話
あたりはしんと静まり返っていた。
シスの部屋はガルシフの部屋から比較的近い距離にある。それはシスに何かがあった時にすぐにシスのもとへ行けるようにするためだ。
ガルシフはシスのように転移魔術が使えるわけではないため彼の部屋には歩いて向かう。その足はシスの部屋に近づくにつれ徐々に速度をあげていった。そしてシスの部屋の側にくると、そこは何か様子が可笑しかった。
「陛下!どうか、どうかお願いします!」
シスの部屋の前で見慣れた侍従のひとりが何かを叫んでいる。その侍従はよくガルシフの部屋にシスを呼びにくる侍従だった。
侍従は必死に訴える。
「陛下、陛下と言えど、そのままでは御身体を壊してしまいます。どうぞ、彼らをお使いになってください」
その言葉でガルシフは侍従の側に二人の男女がいることに気づく。男女ともに鮮やかで美しい服を身にまとっているが、その服はひらひらとした薄い生地でなんだか心許なく感じる。そして、その顔はシスほどではないが随分と整っていた。
(いったい誰だ?どうしてシスの部屋の前に?)
そうガルシフが彼らを訝しげに見つめていると
「陛下、ここを開けてください!」
「──うるさい、黙れ……」
酷くかすれた、そしてどこか熱っぽい声がシスの部屋の中から聞こえてきた。
「陛下!」
侍従は反応を返してもらえたことに歓喜する。
しかし
「……余は、要らぬと言った」
シスのその言葉に喜びはすぐに消える。
「なぜですか⁈彼らをお使いになれば、楽になれるのですよ⁈今宵の熱をおひとりでしずめるのは大変でございましょう⁈」
「それでも、だ……。そこにいるものらは必要ない……!」
ガルシフはシスと侍従がいったいなんの話をしているのかわからなかった。だが、シスが辛そうにしていることだけは話の内容の一部とシスの声で理解した。
ガルシフは侍従に話しかける。
「あの……」
「あなたは!」
侍従はガルシフの存在に気づいていなかったようだった。酷く驚いた様子でガルシフの方を見る。
「どうしてあなたがここに?」
「いえ、あの……今日一日、陛下の体調がすぐれないようで、それが心配で……」
そう話している時だ。
「その、声は……ガルシフ、か……?」
シスが部屋の中から途切れ途切れに聞いてきた。
「シス!ああ、そうだ。俺だ、ガルシフだ。体調の方は大丈夫か?」
そうガルシフが聞けば、
「ああ、問題、ない。……大丈夫だ」
とシスは答えた。しかし、その声は息も切れ切れで覇気もなく明らかに大丈夫そうではなかった。
「その声、まったく大丈夫そうに聞こえないんだが」
思わず、ガルシフはそう言った。
だがシスは
「大丈夫だ、大丈夫だから……」
と何度も同じ言葉を繰り返した。
「おまえは自分の部屋に、戻れ……戻ってくれ……」
その声はどこか懇願しているように聞こえた。そして酷く切なそうだった。
(本当に、こういうところは昔と変わらないなぁ)
本当は誰よりも淋しがり屋で、甘ったれで、心細い時は誰かに側にいて欲しくて、でも、それを口に出すことができない。昔からシスはそうだ。いつも側にいるくせに、ガルシフに迷惑をかけてしまいそうな時は離れていく。
「シス、部屋に入ってもいいか?」
優しい声でそう言った。
「……だめだ」
「どうしてだ?」
「どうしても……だめ、なんだ……」
そうシスは言う。しかし、どんなにだめだと言われてもガルシフは納得しない。
「理由を教えてくれないのなら、俺はいつまでもおまえの部屋の前にいる」
なかば脅しのようにそう言った。体調がすぐれない相手に何馬鹿なことを言っているのだとは思わなくもないが、ガルシフはどうしてここまでシスが頑なに自分を部屋に入れたくないのか、その理由が知りたかった。
「シス」
彼の名前を呼ぶ。
「…………だめ、なんだ。おまえを、前にしてしまうと、私は、おそらく、自分を抑えられなくなる……おまえを、傷つけてしまう」
シスは小さな声でそう言った。その声はまるで何かに怯える子どものように弱々しく感じた。
「シス……ここを、開けてくれ」
促すように、シスを落ち着かせるように言葉を続ける。
「おまえがいったい何を恐れているのか、正直言って俺にはわからない。だけど、俺はおまえの側に行きたい。俺に何ができるというわけではないが、辛そうなおまえを助けたい。……別に自分を抑えなくっていい。俺を傷つけてもいい。だから、俺をおまえの側に行かせてくれ。おまえの顔を見せてくれ」
「お願いだ」そう付け足せば、それからしばらくして、がちゃり、と扉が開く音が聞こえた。ガルシフはそっと扉を開ける。
次の瞬間、扉の隙間から現れた手に思い切り片腕を引っ張られた。
「ちょっ、シス?!」
「抑えなくていい、と言ったのは……おまえだからな」
そう言って、シスはガルシフの唇に噛みついた。それはとても荒々しい口づけだった。
シスのそれがガルシフの中に入ってきてから、いったいどれほどの時が経っただろう。
「あ、あうぅ……やぁ、あっ……」
初めの頃は声を出すのを我慢していたガルシフだったが、もう限界である。唇を吸われ、耳を噛まれ、手を舐められ、胸の頂をいじられ、今までに感じたことがないほどの快楽にガルシフは襲われていた。
「も、もう、あっ、むり……ひぃっ!」
ガルシフの下半身からは、びちゃびゃ、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が絶え間なく聞こえてくる。シスは無我夢中でその腰をガルシフに打ちつけていた。時折、身体を震わせ、大きく息を吐き、そしてまた行為を再開する。その繰り返しである。
「ああっ!」
がつんと奥を突かれる。その瞬間、ガルシフの視界が真っ白になった。
「ぁ……あぁ……」
その衝撃でガルシフの瞳から涙がこぼれる。それを優しくシスが手でふいた。
「ガルシフ……」
二人の繋がれたそこから、白濁があふれ出る。もう何度もガルシフはその奥にシスの欲望を注がれていた。
シスはまるで獣だ。飢えた獣だ。貪るようにガルシフを抱く。シスは止まらない。止まるはずがない。今まで抑え込んでいたものがガルシフの言葉により溢れ出てしまったから。
「あぁあっ?!……シ、ス…な、にを」
突然、ガルシフの中からシスのそれが抜かれる。シスは寝台の上に横たわるガルシフの身体を優しく抱き起こし、自身の膝の上にのせる。その時に自身の雄々しくそそり立ったそれをガルシフの柔らかく熟れたそこへ思い切り突き刺した。
「あああぁっ!!」
最奥を突かれ、ひときわ大きな嬌声をあげるガルシフ。下から身体を揺さぶられ、太く熱いそれがガルシフの意思とは関係なしに奥へ奥へと入っていく。
もう、何がなんだかわからない。気持ち良過ぎて何も考えられない。気持ち良過ぎて辛い。けれど、この大き過ぎる快楽を止める術をガルシフは持たない。ただシスに縋るしかない。ガルシフは太く逞しい首に抱きつく。ぎゅ、ぎゅ、と力一杯に抱きつく。
「ガルシフ……顔を見せてくれ」
しかし、その腕をシスにやんわりと離される。途端にガルシフはなんだか心細くなってしまった。だが、それも一瞬のことだった。
「んっ、ん……」
シスがガルシフの頭を引き寄せる。そして、優しい口づけをした。
「んぅ、はぅ…んっ……んん」
シスはガルシフの下唇を軽く食む。それからガルシフの舌に自分の舌を絡め、時折向きを変え、何度も何度も唇を重ねる。そうして次第に口づけは深くなっていった。
「ちょ、まっ…いき、が……は、んんっ」
ガルシフは静止の声をあげる。しかし、その声はシスの噛みつくような口づけにより飲み込まれてしまった。
それから脱力しているガルシフの腰を揺すりながら、シスはその中にあふれんばかりの欲望を注ぎ込んだ。
(あああ……)
はあはあ、と荒い息の音が室内に響き渡る。シスはまるで壊れものを扱うようにガルシフをそっと抱きしめた。その体温の心地よさに急激に眠気がやってくる。ガルシフは慣れ親しんだ熱に包まれながらゆっくりと目を閉じた。
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