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第27話
できることなら何でもしてあげたい。欲しい物を沢山あげたい。どんなことでも許してあげたい。ツガイのためならば、その身を賭してすべての願いを叶えたい。
「ユウエンは私がツガイを失い、父のようになるのを恐れている」
最愛に逃げられ、廃人同然となることを。
「それと同時にツガイに溺れてしまうことを恐れている」
歴代の王族たちの中には傲慢なツガイに溺れ愚者になった者もいる。
「だからと言って」
シスはガルシフの頬を撫ぜる。
「今更この温もりを手放せるものか」
それが、どれほど愚かなことなのかわかっている。もしもガルシフがシスの想いに応えず、そしてリスティリアのようにツガイの前から、シスの前から去ってしまったら、シスは正気を保っていられないだろう。
「初めはこんな煩わしい竜の血を憎んだ」
自分の気持ちであるはずなのに、その気持ちが竜の血によって作られた紛い物なのではないかと悩んだ。
「おまえと離れている間に、おまえとの思い出が、おまえに対する気持ちが、すべて偽物なのではないかと何度も考えた」
考えて、考えて、考え尽くして、それでも結局答えはわからないままで、今だに自分の気持ちに確証が持てない。けれど、もうそれでいいとシスは言った。
「たとえ、この気持ちが竜の血によるものだとしても、私はおまえを離せない。離したくない」
それだけは変えられない。
シスは今にも泣き出しそうに顔を歪める。
「おまえは私の前に現れるべきではなかった」
私のことなんか忘れるべきだったのだ。
竜の執着はガルシフが思っている以上に凄まじい。
本当ならば、誰にも会わせたくない。私以外を見て欲しくない。私のそばで、私だけが見ている場所で、私だけを見て、私だけと話して、私だけを愛して欲しい。
「私はもうおまえなしでは生きていけない」
ユウエンが言っていたことは正しい。正しいけれど、もし本当にシスのためを思ってガルシフをシスのそばから離そうとしているのならば、もっと早くに離さなければいけなかった。それこそ、シスがガルシフを護衛騎士にすると言った時に否を唱えなければいけなかった。
あの時、ガルシフとシスが再会を果たした瞬間からすべては決まっていた。
「すまない、ガルシフ」
シスの言葉にガルシフは首を傾げる。なぜ謝られているのガルシフにはかわからなかった。
ゆっくりとシスの顔が近づいてくる。ガルシフはシスのしたいようにその身を任せる。
「……ん」
それは唇を重ね合わせるだけのとても優しい口づけだった。
「……好きだ。愛している。どうか私と一生を共にしてくれ」
ガルシフは小さく息を呑む。それからすぐに破顔させて、どこか呆れたように嬉しそうに言った。
「馬鹿だなあ。本当に馬鹿だよ、シスは」
その言葉をどれほど待ち望んでいたことか。ガルシフはシスの方から言ってくれるのをずっと待っていた。シスが今の関係が壊れることを恐れているようだったから、ガルシフはこれまで何も言わなかった。
ガルシフは無理にシスの気持ちを聞きたいわけではなかった。ただ、本心をシスの言葉でシス自身から聞きたかった。だから待った。シスの心が決まるのを。
「一生どころか死んでも一緒にいてやる。おまえが嫌だと言っても、俺を嫌いになったとしても、おまえのそばにずっといる」
だから、そんな泣きそうな顔をするな。そう言えば、とうとうシスの美しい瞳からぽろりと雫がこぼれ落ちた。
おもむろにガルシフはシスの頬を両手で挟んだ。そして、その目尻を指で優しく撫でる。それから
「……ん、ん」
それから、今度はガルシフの方からシスに口づけをした。
二人の唇が重なる。最初は唇を重ね合わせるだけの優しい口づけを何度か繰り返し、徐々にそれが激しいものへと変わっていく。シスがガルシフの唇を舌でこじ開け、ガルシフもそれを受け入れる。
「んあ、ん……」
「ん……ん……」
ぴちゃぴちゃと卑猥な水音と息遣いが聞こえる。二人は無我夢中で互いを貪り合う。唇を喰み、口内を吸い、互いの舌を絡め合わせる。
そしてーー
「……ん?」
気づけばガルシフは寝台の上に押し倒されていた。
(いつの間に……)
視線だけを動かし辺りを見れば、そこはよく見慣れたシスの部屋だった。どうやら転移魔術を使ったらしい。
「ガルシフ、これ以上は我慢できない」
その言葉に誘われるようにシスの方を見れば、シスの情欲に濡れた瞳がガルシフを見つめていた。そんなシスの様子にガルシフは小さく苦笑した。
その瞬間、シスの質量が増した。
ガルシフの柔らかくなったそこを何度もシスのそれが行き交う。シスは自身の気持ちをガルシフに伝えたことによりタガが外れたようで、今宵はいつにも増して激しかった。
「……はぁ、っうぁ……」
「……ガルシフ」
何度ガルシフの中にその欲望を放ったのかわからない。よく引き締まった両太ももを掴まれ、あられもない姿でシスの熱を受け入れる。浅いところから深いところへ、速かったり遅かったり、ガルシフはもうわけがわからなかった。
ガルシフは浅い呼吸を繰り返す。ぞくぞくとしたしたものがずっと続いており、あと少しのところで終われそうなのに終われない。
「シ、ス……そこ、ちが……もっ、と……」
もどかしい。シスはわざとなのかガルシフの一番感じるところを突いてくれない。その周りを丹念に擦っている。ガルシフは途切れ途切れに懇願する。
「ん、どうした」
優しい声音で聞いてくる。ついでとばかりにシスはガルシフの口の端に唇を落とす。
「もっ、と……おく……」
「奥が何だ」
わざとらしく聞き返す。そんなシスの言葉に涙ながらにガルシフが言う。
「おく、つい、て……もっと……つよ、く」
どうかそろそろこのもどかしさから解放してくれと目で訴えれば、シスはそれは嬉しそうに甘い笑みを浮かべた。
「ああ、わかった。おまえの言う通りにしよう」
そして、その言葉通りシスはガルシフの一番いいところを思い切り熱くたぎったもので打ちつけた。
「ぅあああ、ああ!」
その衝撃で声を上げるとともに上体を波打たせるガルシフ。目の前に白い火花がちり、下腹部がぴくぴくと痙攣する。それから無意識にシスのそれを締め付けてしまったようで、シスは小さくくぐもった声を出す。
「……ゔっ」
熱いものが腹の中に広がるのを感じた。その間、昂っているものが脈打っているのがわかった。とめどなく熱いものが注がれていく。
これでようやく終われる。そうガルシフは思った。
「……あ、え」
しかし。
「まだ、たりない」
シスのそれが再び硬さを取り戻す。そして、先ほどよりもさらに深いところに押し進めようとする。
「まって、シス。もう、もうむりだ。もうそれ以上は、入らない」
怯えながらガルシフは言う。しかし、シスはそんなガルシフに優しく微笑み返すだけで動きを止めようとはしない。
「大丈夫、おまえはただ身を任せているだけでいい。すべて私がやる」
前も入ったのだから今回も入る。もっと気持ちよくなるだけだ。大丈夫、シスは何度もそう言った。
シスはぐっと前かがみになり、抜き差しが始まる。
「……ひ、いぁ……」
わざと少し体重をかけ、ガルシフが逃げられないように動きを封じる。先ほどよりも敏感になった中をシスは何度も押し広げ、ガルシフの身も心も溶かしていく。
「おまえの中は、心地がいい……」
うっとりと言いながらシスはどんどん奥へと進んでいく。
「……ああ!」
ずんと硬いところを抉られる。それからそこを何度も突かれる。縦に、横に、揺さぶられ、奥を広げられる。
ガルシフは腹の底から湧き上がる快感に足の指先を丸めて必死に耐える。そして、再び目の前に火花が散ろうとした時
「ーーあ……ひっ、あぁーー、ぃあ、あ!」
何かによって自身の根本をきつく縛られた。
「少し、待て、これ以上、出しては、辛くなる」
今にも果てそうだったものにお預けをくらわされガルシフは叫ぶ。
「これ、とっ、て、くれ……!」
それはシスによって魔術で作られたものだった。
「ああ、もう少し、したら、な!」
「ーーーーっあ、ぁあああぁあ!」
激しい抜き差しが再開されガルシフは絶叫する。髪を寝台に擦りつけ、首を振る。必死にもがくが、シスに全身を封じられているためどうすることもできない。
ガルシフはただただ快楽に溺れることしかできなかった。
そして、シスの剛直が大きく脈打つ。それからガルシフの最奥に打ちつけられた。
「ーーああ!」
ガルシフの体内に再び熱い液体が注ぎ込まれる。
ガルシフは果てた。しかし、その象徴からは何も出ていなかった。
「出さずに気をやったか」
そう言いながらシスはガルシフのそれを縛っていた魔術を解く。すると、とろとろと勢いをなくした白濁がそこから溢れ出てきた。そして、シスもゆっくりとガルシフの中から自身を抜く。栓を無くしたそこからはガルシフの比ではないくらいにシスの欲望が溢れ出てきた。
ガルシフはだんだんと意識が遠のいていくのがわかった。シスはそんなガルシフの唇の端に口づけを落とし、それから片手でガルシフの両目を覆い隠した。
「後は私がやっておく、おまえは眠れ」
優しい声音でガルシフの眠りを促す。その言葉を最後にガルシフの意識は途切れた。
「愛してる、ガルシフ」
ガルシフの寝息が聞こえる中、ひとりシスはそう呟いたのだった。
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