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unlock①(R18)
──シャワーを浴び終わった身体から、湯気がまだ微かに立っている。
白いTシャツに、黒いスウェットズボン。
出張先のビジネスホテルホテルのベッドの上で、榊原は小さく息を吐いた。
何度深呼吸しても、胸の奥がざわつく。
冷房の効いた室内でも、妙に火照る下腹部。
特に、――腰の奥が、じんじんと疼いて仕方ない。
「────困ったな」
誰に言い訳するでもなく、呟く。
あの夜、黒崎に抱かれてから、調子がおかしい。
黒崎との夜が────あのときの快感が忘れられない。あの夜、何度も突かれ、嬲られ、絶頂させられた記憶が、身体に焼き付いている。
そして、思い出すたびに、腹の奥が疼いてしまう。
「────っ」
気づけば指が、スウェットのゴムを引き下ろしていた。
下着越しに、既に勃ち上がった自分をソレをそっと触る。
「ん、ふ……ぅ…………」
軽く擦るだけで、ビクンと跳ねる。後ろの疼きが、治らない。
──違う。ここじゃ、ない。
疼くのは、もっともっと奥。
ズボンと下着を膝まで下ろし、ベッドにうつ伏せになる。
ぺろり、と指を咥える。そして唾液をたっぷりと絡ませた。
──────ああ、最悪だよ。
背後に手を回し、唾液で滑る指を後孔に差し込んだ。
「は、ぁ……ッ! ん、ふぅ……」
ぬるり、と胎内に異物が入り込む感覚。背筋がぴくりと震える。そして自然に声が漏れた。
一度、黒崎に開かれた場所。
その“記憶”が、今も残っているのだろう。
ぐちゅぐちゅと掻き回していると、次第にナカは柔らかくなっていく。
「は、ぁ……ッ! な、んで……ッ」
腰が勝手に揺れる。
枕に顔を埋めて、指を出し入れするたびに、快感が押し寄せてくる。
いつの間にか、もう片方の手は、胸元をまさぐっていた。
黒崎に弄られたときの記憶を、思い出して。
「……んっ……黒崎……あ、ぁ……っ! ……く、ろ……さきッ」
無意識に名前を呼んでいた。
あの夜を思い出すと、ナカがぎゅうぎゅうと締まって、指を締め付ける。
黒崎との夜は、屈辱以外の何物でもなかった。
そのはずなのに。
どうして、黒崎のことを考えると、ナカがじんじんしてしまうのか。わからない。
ただただ────
────このまま、イキたい。
一人で、黒崎のことを考えながら、うしろでイキたい。
そう思っていた矢先だった。
無機質な電子音とともに、枕元のスマートフォンが震える。
「────っ⁈」
スマホを手繰り寄せ画面を見たとき、心臓が跳ねた。
その10桁の番号は────
────黒崎啓の番号だった。
「なん……で、今……?」
よりによって、このタイミングで。
心臓が暴れ回るなか、指はまだ、自分の中に入ったまま。
しかし。出ないわけにはいかなかった。
右手をアナルに差し込んだまま、左手で応答ボタンをタップする。
「──もしもし。榊原さん?」
黒崎の声が、スピーカー越しに響いた。
黒崎の甘い声が鼓膜を揺らした瞬間、身体に電流が走った。同時に腰がガクンと跳ねる。
「ん゛…あ、あッッ……!」
白濁が、シーツを汚す。
背を反らし、声を殺しながら、ピクピクと震えながらイっていた。
「……あれ、もしかして、今……いいところでした?」
黒崎の声音は、なぜか心底楽しそうだった。
榊原は呼吸をなんとか整えてから口を開いた。
「いいところ? なんのことかわからないけど、まだ仕事中だよ」
「お取り込み中すみません。────でも、仕事中は嘘なんでしょう?」
「どういう意味?」
だって────
「────今さっき、一人でシしてたじゃないですか」
「な、…………ッ!」
心臓を鷲掴みにされたような衝撃。
ばっ、とスマホをつかみ、中のデータを漁る。
────まさか、ハッキングか⁈
やられた────!
よく調べてみると、ホーム画面に表示されないよう加工された、不審なアプリがダウンロードされていた。
碌に使わない6台目のサブのスマートフォンだからと、油断していたのを悔やむ。
「公安刑事のスマホをハッキングして盗聴なんて…………随分舐めた真似してくれるね」
「ふふ、最近お疲れなんじゃないですか? あなたほどの刑事が、こんな仕掛けを見落とすなんて」
ギリ、と音がするほど、奥歯を噛み締めた。
ここ数週間、目が回るほど業務が立て込んでいたのは事実だ。いや、公安刑事は激務なのがデフォルトではあるが────
ここのところはそれが顕著だった。睡眠時間が二時間な日々を繰り返していたのが不味かったらしい。公安刑事としてあり得ない隙を作ってしまった。
今度はぎゅっ、と唇を噛み締める。
頭をフル回転して、ここからどう動くか考えてたらその時。
「でも、僕の名前を呼びながらシてくれるなんて────嬉しいですよ」
「────ッ!」
顔がカッと熱くなる。
まさか、そこまで聞かれていたなんて────。
「それは、君の……勘違い……でしょ……」
「勘違いかどうかは……これを見て貰えばわかりますよ」
ピコン、と電子音ひとつ。
スマホを開くと、黒崎から動画データが送られてきていた。
恐る恐るその動画を再生する。そのとき、榊原は目を見開いた。
「ね? よく撮れてるでしょう? スマホの位置、これからは気をつけないとダメですよ」
「な……んで……」
その動画にはしっかりと映っていた。
────自分が、四つん這いになりながら一人でアナルを弄っている、霰もない姿が。動画の中の自分は、アナルを指で掻き回しながら、乳首をいじり、そして蕩けるような表情で「くろさき」と名前を呼んでいた。
頭の中はまっしろだった。
────こんなものが、黒崎の手に渡っただと⁈
どうすればいい?
とにかく。黒崎の狙いはなんだ?
「僕を脅して……何がしたいわけ?」
「脅す? まさか。僕はこの動画をネタにゆするつもりなんてありませんよ。そんなヤクザみたいなこと、するわけないじゃないですか」
ふふ、と黒崎は冗談めいて笑う。ただ、自分は笑えなかった。
「僕は単に、嬉しかっただけですよ。あなたが僕の名前を呼びながらシて……僕の声を聞いてイってくれたのが」
羞恥心で全身が燃えるように熱くなった。
榊原は何も言い返すことができず、口籠もる。
「ねぇ、榊原さん────続き、したくないですか?」
「は…………?」
「だって、不完全燃焼でしょう? 僕が指示しますから、そのまま続きをしてください」
「何言っ……て」
くすくす。
スピーカーから黒崎の笑い声が聞こえてくる。
「だって、あなたの身体はきっと、まだ足りないって言ってるはずだ。ね? 僕に指示されて、僕に見られながら、イってみませんか? 僕の名前を呼んでシてしまうくらいには、欲求不満だったんでしょう?」
「それは……ち、が……」
違う、とはっきり言えなかった。
なぜなら────
図星だったからだ。
このやりとりをしてる間も、下半身はきゅんきゅん疼いてやまない。自分の動画を見てしまった時、屈辱と羞恥を感じたけど、なぜか同時に、ナカが熱くなった。
まるで羞恥と性的快感が結びついたみたいに────
「プライドが邪魔してるんですね。じゃあ言い訳ができるようにしてあげます。────シないなら、この動画、警察庁にばら撒きますよ」
「そ、れは…………ッ」
「困りますよね。ああ、榊原さんの部下の吉良警視。これを見たら一体どんな顔するでしょうね?」
「それ、……は、やめて……」
「こんな動画が流出したら……今まで生粋のエリートとして警察庁で生きてきたあなたの立場、どうなってしまうと思います?」
十秒ほどの沈黙の後、榊原は覚悟を決めて口を開いた。
「わ、、か……ったよ……すれば、いいんでしょ……」
投げやりにそう返事を返すと、黒崎は満足そうに笑った。
「では、ビデオ通話に切り替えてください。よーく姿がみえるようにね」
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