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unlock②(指示されながらオナニー)

 指示通り通話モードをビデオ通話に切り替える。そしてベッドサイドのテーブルにスマホを立てかけた。 「これ、でいいでしょ……」 「ええ。よく見えます。じゃあ下を脱いで」  カメラのレンズがぎらりと光った気がした。  このレンズ越しに、見られている。黒崎啓に。  そう自覚すると、恥ずかしくて堪らない。  でも、なぜか────心臓はドキドキと跳ねて、ナカは媚びるようにきゅっと収縮してしまう。 「じゃあM字に脚を開いて」 「……っ、……」 「もっと開かないと、榊原さんの恥ずかしいところ見えないですよ? ほら、しっかり開いて」 「ん、……これで、いい…………?」  スマホに向かって脚をしっかりと広げ、秘部を晒す。  冷たいカメラの視線が、まるで生き物のように榊原を舐め回す。黒崎の気配が、レンズ越しにじわじわと這い寄ってくるようだった。 ────なんで、こんな……  明日までに仕上げないといけない報告書は山ほどある。このホテルでじっくりと練り上げる予定だった。  それなのに今、ベッドの上で脚をM字に開き、指を濡れた穴に添えようとしている自分がいる。 「…………見ないでよ、そんなに……」  小さく呟いた言葉が、誰に向けたものだったのかすら、自分でもよくわからない。  羞恥で耳が熱い。汗ばんだ手が、震える。 「榊原さん、もっとカメラに寄ってください」  黒崎の声が静かに響いた。冷たくも甘い声音に、身体が反応する。背筋を撫でられたようにぞくりと震えて、無意識に内腿がぴくりと跳ねる。 「そんなに……僕の身体、見たいの?……変態だね」 「ええ、もちろん。……だって、あなたが“見せたい”んでしょう?」 「──なに、言ってるの……?」  心を読まれたような言葉に、何かがぐらりと揺らぐ。  見せたくなんて、ない。こんな姿──誰にも、見せたくなんてなかった。  それなのに。自分で指を咥え、脚を開いて、秘部をカメラに晒して──  さっきまでの自分は、一体何をしていた? ──────気づきたくなかった。  あの時、自分の中で「黒崎に見られたい」と思っていた瞬間があったことを。羞恥と快感に飲まれて、支配されたいという衝動が芽生えたことを。  でも今、それが否応なく、目の前に突きつけられている。  榊原は、ゆっくりと指をナカへ押し込んでいく。  ビデオ通話の画面の向こう、笑みを含んだ黒崎の顔が、じっと自分を見ている。 「……ほんとに……いやな男だね、君は」  そう言いながらも、指はまた、さらに奥へと進んでいく。  ぬるりとナカへ入っていく異物に、背中が跳ねる。  それは、快感だけではなかった。  羞恥、罪悪感、屈辱、支配、そして────  どこか、ほんのわずかな「悦び」すら、混じっていた。 「ん……っ、ぁ、く、ろさき……見て、るんでしょ……?」 「ええ。とても、綺麗ですよ、榊原さん」  黒崎のその言葉に、心の奥底が震えた。  汚れているはずの姿を「綺麗だ」と言われてしまうことの、残酷さと、甘さ。 「……ばか……だね、君も……」  震える声でそう吐き捨てたときには、もう涙が滲んでいた。悔しくて、情けなくて、どうしようもなくて。  けれど、ナカはまた熱く、柔らかく、指を誘っていた。 「いいですね。とても……綺麗ですよ」  スピーカーから聞こえる黒崎の声は、やけに穏やかで、甘かった。  ささやくように、耳にふわりと絡みつく声。  それだけで、ゾクリと背筋が震える。 「じゃあ……指をもう一本、ゆっくり中に入れてみてください。そう。そのまま────」  甘やかで優しい声。けれど、その実、指示は明確で、容赦がない。まるで自分が、言われるがままに動く操り人形のようだった。 ────僕は、そんな人形になんてならない。  反射的に、否定の言葉が心に浮かぶ。  しかし。動いている。  自分の手が。自分の指が。黒崎の言葉に応じて。 「ん、……っ、ぅ……」  二本目の指が、ゆっくりと、緩んだ後孔をかき分けて入っていく。ビデオ通話のカメラの向こうでは、黒崎が静かに見つめているはずだ。 「上手ですね。もう、すっかり馴染んでる……まるで、僕の指を待ってたみたいだ」 「そ、んな……わけ、ないでしょ…………」  声が震える。  それは羞恥のせいか、快感のせいか。あるいは、黒崎の言葉が的確すぎたせいか。 「指をもう一本、挿れて?」 「……っ!……わかった」  指が、三本目を迎える。  ぬる、と広がる感覚に、自然と息が漏れる。  ナカはもう、完全に思い出していた。黒崎に貫かれた夜のことを。 「……ふ、ぁ……っ……く、ろ……さき……」  また呼んでしまった。  名前を口にするたび、ナカがきゅっと締まる。それに応えるように、指の動きも激しくなる。 「榊原さん、胸も触ってください。……僕にされて、感じたように」 「……ッ……」  ────屈辱だ。  それなのに。  抗えなかった。  胸の突起をカメラに見せつけるようにシャツを捲り上げた。そして片方の乳首を指で摘むと、ピリとした快感が神経を走り抜けた。 「いいですよ……そのまま、もっと気持ちよくなってください。僕に、全部見せてくださいね」  甘く、優しい、黒崎の声。その声の響きに、榊原はもう逆らえなかった。 「ふ、ぁ……、はぅ……ん、く」 「榊原さん。気持ちいいですか?」 「きも、ち……いい……ッ……きも、ち……いい……」  思考はぼやけていく。  羞恥も、抵抗も、遠のいて。  今はただ、命令される悦びに溺れていた。  黒崎の声が欲しい。褒めてほしい。認めてほしい。  指示され、支配され、その通りに動くことに、どうしようもなく満たされていく。 「榊原さん……もっと、もっと気持ちよくなってください。僕のために────ね?」 「……っ、あ、……ああ……っ……!」  ナカを満たす指、胸を嬲る手、自分の吐息、そして黒崎の声。すべてが交わり、限界が近づいていく。 ────もう、おかしくなりそうだ。  羞恥の極みとも言える体勢のまま、榊原はスマホのレンズに向かって、脚を開き、ぐちゃぐちゅという水音を立てながらナカを掻き回す。  もう、これは自慰とは思えないほど、その快感は強かった。黒崎の指示のせいか、それとも黒崎に見られているからなのか。  もうわからない。榊原はただただ夢中で指を動かし、貪欲に快感を求め続けた。 「……もっと奥まで、指を入れて。そう、ゆっくり……ね」 「っ……ぅ、ん……あ……」  とろりと濡れた指を、言われたとおりに後ろへ。ぐちゅりと音を立てて沈めていく。  声が漏れるたびに、スマホのカメラが向けられていることを意識してしまう。恥ずかしくてたまらないのに、身体は勝手に震えて、ナカはまた淫らに蠢いた。 「そのまま、……腰を少し揺らしてみてください。そうです、指に、自分から絡みつくように……」  黒崎の甘い声に逆らえず、榊原はベッドの上で、ぴくりと腰を動かす。途端、背中を奔る快感に、指がきゅっと締め付けられた。 「ん……くっ、ぁ……ぁ……!」 「……気持ちいいんですね」  黒崎の声が、妙に優しい。嘲るような声音はどこにもなく、ただ、慈しむような響き。それがまた、榊原を苦しめた。優しさが、まるで首輪のように絡みついて離れない。 「くろ……さき……あ、ぁ……」  自分でも気づかないうちに、また名前を呼んでいた。  そして、ふと黒崎が言う。 「……もう我慢しないで。イってもいいですよ」  その瞬間、指の奥で何かが弾けた。 「っあ、あああ……ぁあっ……!!」  ビクンッ、と身体をのけ反らせ、榊原は果てた。  腰を跳ねさせ、喉を震わせながら、泣くように喘ぐ。  スマホの向こう、黒崎は黙ってそれを見ていた。  やがて、沈黙の中、ひとことだけ言う。 「……上手にイけましたね。いい子です……榊原さん」  涙の混じる目でスマホを見れば、画面には微笑む黒崎の顔。 「ご褒美、あげないとですね」 「……ご褒美……?」  力の抜けた声で問い返すと、画面に写る黒崎はさらに微笑んだ。  ぼんやりと画面を眺める。  いつのまにか、黒崎はどこかへ向かって歩いているようだった。その背景に見覚えがあることに気づいたそのとき────  がしゃん、と部屋のロックが開錠される音が響いた。慌てて振り向く。 「く、ろ……さき……くん…………なん、で……?」 「言ったでしょう? ご褒美をあげないとって」  カツカツと高級な革靴が足音を立てる。その手にはマスターキーと思われるカードキーが握られていた。

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