6 / 14
unlock②(指示されながらオナニー)
指示通り通話モードをビデオ通話に切り替える。そしてベッドサイドのテーブルにスマホを立てかけた。
「これ、でいいでしょ……」
「ええ。よく見えます。じゃあ下を脱いで」
カメラのレンズがぎらりと光った気がした。
このレンズ越しに、見られている。黒崎啓に。
そう自覚すると、恥ずかしくて堪らない。
でも、なぜか────心臓はドキドキと跳ねて、ナカは媚びるようにきゅっと収縮してしまう。
「じゃあM字に脚を開いて」
「……っ、……」
「もっと開かないと、榊原さんの恥ずかしいところ見えないですよ? ほら、しっかり開いて」
「ん、……これで、いい…………?」
スマホに向かって脚をしっかりと広げ、秘部を晒す。
冷たいカメラの視線が、まるで生き物のように榊原を舐め回す。黒崎の気配が、レンズ越しにじわじわと這い寄ってくるようだった。
────なんで、こんな……
明日までに仕上げないといけない報告書は山ほどある。このホテルでじっくりと練り上げる予定だった。
それなのに今、ベッドの上で脚をM字に開き、指を濡れた穴に添えようとしている自分がいる。
「…………見ないでよ、そんなに……」
小さく呟いた言葉が、誰に向けたものだったのかすら、自分でもよくわからない。
羞恥で耳が熱い。汗ばんだ手が、震える。
「榊原さん、もっとカメラに寄ってください」
黒崎の声が静かに響いた。冷たくも甘い声音に、身体が反応する。背筋を撫でられたようにぞくりと震えて、無意識に内腿がぴくりと跳ねる。
「そんなに……僕の身体、見たいの?……変態だね」
「ええ、もちろん。……だって、あなたが“見せたい”んでしょう?」
「──なに、言ってるの……?」
心を読まれたような言葉に、何かがぐらりと揺らぐ。
見せたくなんて、ない。こんな姿──誰にも、見せたくなんてなかった。
それなのに。自分で指を咥え、脚を開いて、秘部をカメラに晒して──
さっきまでの自分は、一体何をしていた?
──────気づきたくなかった。
あの時、自分の中で「黒崎に見られたい」と思っていた瞬間があったことを。羞恥と快感に飲まれて、支配されたいという衝動が芽生えたことを。
でも今、それが否応なく、目の前に突きつけられている。
榊原は、ゆっくりと指をナカへ押し込んでいく。
ビデオ通話の画面の向こう、笑みを含んだ黒崎の顔が、じっと自分を見ている。
「……ほんとに……いやな男だね、君は」
そう言いながらも、指はまた、さらに奥へと進んでいく。
ぬるりとナカへ入っていく異物に、背中が跳ねる。
それは、快感だけではなかった。
羞恥、罪悪感、屈辱、支配、そして────
どこか、ほんのわずかな「悦び」すら、混じっていた。
「ん……っ、ぁ、く、ろさき……見て、るんでしょ……?」
「ええ。とても、綺麗ですよ、榊原さん」
黒崎のその言葉に、心の奥底が震えた。
汚れているはずの姿を「綺麗だ」と言われてしまうことの、残酷さと、甘さ。
「……ばか……だね、君も……」
震える声でそう吐き捨てたときには、もう涙が滲んでいた。悔しくて、情けなくて、どうしようもなくて。
けれど、ナカはまた熱く、柔らかく、指を誘っていた。
「いいですね。とても……綺麗ですよ」
スピーカーから聞こえる黒崎の声は、やけに穏やかで、甘かった。
ささやくように、耳にふわりと絡みつく声。
それだけで、ゾクリと背筋が震える。
「じゃあ……指をもう一本、ゆっくり中に入れてみてください。そう。そのまま────」
甘やかで優しい声。けれど、その実、指示は明確で、容赦がない。まるで自分が、言われるがままに動く操り人形のようだった。
────僕は、そんな人形になんてならない。
反射的に、否定の言葉が心に浮かぶ。
しかし。動いている。
自分の手が。自分の指が。黒崎の言葉に応じて。
「ん、……っ、ぅ……」
二本目の指が、ゆっくりと、緩んだ後孔をかき分けて入っていく。ビデオ通話のカメラの向こうでは、黒崎が静かに見つめているはずだ。
「上手ですね。もう、すっかり馴染んでる……まるで、僕の指を待ってたみたいだ」
「そ、んな……わけ、ないでしょ…………」
声が震える。
それは羞恥のせいか、快感のせいか。あるいは、黒崎の言葉が的確すぎたせいか。
「指をもう一本、挿れて?」
「……っ!……わかった」
指が、三本目を迎える。
ぬる、と広がる感覚に、自然と息が漏れる。
ナカはもう、完全に思い出していた。黒崎に貫かれた夜のことを。
「……ふ、ぁ……っ……く、ろ……さき……」
また呼んでしまった。
名前を口にするたび、ナカがきゅっと締まる。それに応えるように、指の動きも激しくなる。
「榊原さん、胸も触ってください。……僕にされて、感じたように」
「……ッ……」
────屈辱だ。
それなのに。
抗えなかった。
胸の突起をカメラに見せつけるようにシャツを捲り上げた。そして片方の乳首を指で摘むと、ピリとした快感が神経を走り抜けた。
「いいですよ……そのまま、もっと気持ちよくなってください。僕に、全部見せてくださいね」
甘く、優しい、黒崎の声。その声の響きに、榊原はもう逆らえなかった。
「ふ、ぁ……、はぅ……ん、く」
「榊原さん。気持ちいいですか?」
「きも、ち……いい……ッ……きも、ち……いい……」
思考はぼやけていく。
羞恥も、抵抗も、遠のいて。
今はただ、命令される悦びに溺れていた。
黒崎の声が欲しい。褒めてほしい。認めてほしい。
指示され、支配され、その通りに動くことに、どうしようもなく満たされていく。
「榊原さん……もっと、もっと気持ちよくなってください。僕のために────ね?」
「……っ、あ、……ああ……っ……!」
ナカを満たす指、胸を嬲る手、自分の吐息、そして黒崎の声。すべてが交わり、限界が近づいていく。
────もう、おかしくなりそうだ。
羞恥の極みとも言える体勢のまま、榊原はスマホのレンズに向かって、脚を開き、ぐちゃぐちゅという水音を立てながらナカを掻き回す。
もう、これは自慰とは思えないほど、その快感は強かった。黒崎の指示のせいか、それとも黒崎に見られているからなのか。
もうわからない。榊原はただただ夢中で指を動かし、貪欲に快感を求め続けた。
「……もっと奥まで、指を入れて。そう、ゆっくり……ね」
「っ……ぅ、ん……あ……」
とろりと濡れた指を、言われたとおりに後ろへ。ぐちゅりと音を立てて沈めていく。
声が漏れるたびに、スマホのカメラが向けられていることを意識してしまう。恥ずかしくてたまらないのに、身体は勝手に震えて、ナカはまた淫らに蠢いた。
「そのまま、……腰を少し揺らしてみてください。そうです、指に、自分から絡みつくように……」
黒崎の甘い声に逆らえず、榊原はベッドの上で、ぴくりと腰を動かす。途端、背中を奔る快感に、指がきゅっと締め付けられた。
「ん……くっ、ぁ……ぁ……!」
「……気持ちいいんですね」
黒崎の声が、妙に優しい。嘲るような声音はどこにもなく、ただ、慈しむような響き。それがまた、榊原を苦しめた。優しさが、まるで首輪のように絡みついて離れない。
「くろ……さき……あ、ぁ……」
自分でも気づかないうちに、また名前を呼んでいた。
そして、ふと黒崎が言う。
「……もう我慢しないで。イってもいいですよ」
その瞬間、指の奥で何かが弾けた。
「っあ、あああ……ぁあっ……!!」
ビクンッ、と身体をのけ反らせ、榊原は果てた。
腰を跳ねさせ、喉を震わせながら、泣くように喘ぐ。
スマホの向こう、黒崎は黙ってそれを見ていた。
やがて、沈黙の中、ひとことだけ言う。
「……上手にイけましたね。いい子です……榊原さん」
涙の混じる目でスマホを見れば、画面には微笑む黒崎の顔。
「ご褒美、あげないとですね」
「……ご褒美……?」
力の抜けた声で問い返すと、画面に写る黒崎はさらに微笑んだ。
ぼんやりと画面を眺める。
いつのまにか、黒崎はどこかへ向かって歩いているようだった。その背景に見覚えがあることに気づいたそのとき────
がしゃん、と部屋のロックが開錠される音が響いた。慌てて振り向く。
「く、ろ……さき……くん…………なん、で……?」
「言ったでしょう? ご褒美をあげないとって」
カツカツと高級な革靴が足音を立てる。その手にはマスターキーと思われるカードキーが握られていた。
ともだちにシェアしよう!

