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unlock③(黒崎登場!セックス!)

「……ここのホテルのオーナーも……黒龍会絡みの人間って、わけね」 「ええ。このあたりのエリアは僕の息のかかった人間がとても多いので」 「セキュリティもなにも……あったもんじゃないね」  黒崎はスーツのジャケットを脱いで、安物の椅子の背もたれに雑に掛ける。そして時計を外すと、ゆっくりとこちらに近づいてくる。  榊原は思わずベッドの上を後退りした。しかし、黒崎の腕が身体を掴み、それを拒む。 「ご褒美、欲しくないんですか?」 「────ッ!……ん、ぅ……!」  黒崎の指が唇をなぞったと思ったら、そのまま口内に差し込まれた。そしてくるりと指を回し、唾液を絡めとる。 「ふ、ぅ……は、ぁ」  ずるり、と指を引き抜くと、銀色の糸がぷつりと切れた。  なにを──と言おうとしたとき、とん、と肩を押され、背中からマットレスに倒れ込む。  黒崎は、こちらの身体に馬乗りになりながら、ネクタイを緩めて微笑む。 「お利口な榊原さんには、ご褒美をあげなきゃ……ね?」 「ひ、ぁ……っ!」  唾液を絡ませた指が、まだ熱を持っている後孔をなぞる。そしてゆっくりと黒崎の指が差し込まれると、その体温も同時に骨の奥に染み込んでいく。  まるで、自分の内側を誰かに撫でられているような感覚。  奥歯を噛み締めて、息を整える。声なんか漏らしたくなかった。ここで反応すれば、それが“肯定”と取られる。 「……ん、ふ……ちょっと、強引じゃないかい?」  自分でも驚くほど掠れた声だった。けれど、どうにか笑みをつくる。  誰に向けるでもない、空々しい“仮面”。  しかし────黒崎の指は、その仮面の裏を暴くように、じわじわと中を撫でてくる。 「は、んぁ……ッ⁈」  奥の一点を、くい、と押し上げられた瞬間、視界が白く弾けた。喉の奥から漏れた声を慌てて飲み込む。  理性が警告を鳴らす。  このままでは──── ────黒崎啓に食い尽くされる、と。 「気持ちいいですね?」  耳元で囁く声が、あまりに甘くて、悔しいほど心地よく響いた。 「さぁ?……どうだろうね?」  なるべく平坦に、努めて柔らかく言葉を返す。  そう、“いつもの自分”を崩さないために。  けれど、身体は正直だった。黒崎がわずかに指を動かすたび、腰が勝手に揺れる。抗っているはずなのに、拒んでいるはずなのに──  くそ。どうして────  ふと、思考がふわりと浮いた。  こんなはずじゃなかった。  他人に主導権を握られたことなんて、一度もなかった。  支配しているのはいつも自分だった。  それなのに。この男には────  なぜペースを乱される────? 「……ふふ、素直じゃないですね。もう気持ちよくて堪らない……本当はそうでしょう?」 「そ、ういうの……勘違いって……言うんじゃない?」  黒崎の言葉に、咄嗟に返す。しかし返した声は、あまりにかすれていたり  肩で息をしている。汗が額を伝う。  何より──“そこ”がひくひくと疼いていた。 「ほら、ここが弱い」  とある一点をぎゅっと、押し上げられた瞬間。全身が跳ねた。 「んぁあッ!」  甲高い、女の悲鳴のような声を上げてしまった。その瞬間、羞恥が込み上げてくる。 「ふふ。可愛い声で啼いてくれますね」  黒崎が耳元で笑う。優しくて甘い笑い声。  ナカに入れられた黒崎の指が熱い。身体の内側が溶けそうだ。  もう、誤魔化せない。笑ってごまかすことも、軽口で逸らすこともできない。 それでも────僕は。  それでも、自分は────公安刑事だった。  どれだけ堕ちそうでも、虚勢を張り続けないといけない。自分の矜持を守るために。 「……ッ!……からかうの、ほんと……好きだよね……黒崎くんって……」  そんな声が震えていたことに、自分自身だけが、気づいていないふりをしていた。 「失礼。……あなたがあんまりにも妖艶だったもので」  黒崎が穏やかに微笑む。その顔は天使にも悪魔にも見えた。 「榊原さんは────指でイくのと、僕のものでイくの、どっちがお好みです?」 「は、……? ……面白いこと、いうね……どっちも別に、好まないよ」  榊原は挑発するように鼻を鳴らした。  精一杯の虚勢だった。  素直に従うのは、プライドが許さない。 「やっぱり素直じゃないですね。…………だからこそ屈服のさせがいがある」  黒崎が独り言のように呟いた。 ────屈服?  榊原は眉を顰める。  僕が、こんなヤクザなんかに────屈するわけないでしょう?  理性ではそう思おうとしている。  しかし。わかっていた。  それはただの────強がりだと。 「ん、ぁ……」  ずるり、と指が抜かれる。栓を失ったそこは、ひくひくと収縮し、まるで次の刺激を待ち侘びているかのようだった。 「ああ、失礼────スキンが……」  黒崎が困ったような顔をする。  ここはビジネスホテル。ラブホテルではない。どうやら、スキンの用意がないようだ。 「別に僕、女性じゃないんだから────なくても構わないよ」  榊原は余裕を込めて言い放つ。そんなこと気にするような器じゃない、という主張を込めて。  黒崎は少し迷ったのちに、ふっと笑った。 「榊原さんが構わないとおっしゃるなら……そうしましょう。────だって、こんなところでお預けなんて、耐えられないですもんね?」 「────ッ!」  正直、図星だった。  理性では抗議するものの、身体は黒崎のそれを欲してやまない。早く熱くて硬いそれがほしかった。 「……別に?」 「そういう虚勢を張り続けるところも好きですよ」  ちゅ、と黒崎が額にキスを落とす。まるで愛する恋人にするかのような仕草だった。 「じゃあ……挿れますよ」 「ん、ぁ……っ!」  ずぷり。と硬いものがナカへ押し込められる。それは肉壁を掻き分けて、奥へと進んでいく。 「ふ、ぅ……ぁあぅ……」 「これが欲しかったんですよね?」 「なに、言って…………」 「だって、僕の名前を呼びながら、こんなこと、してたんでしょう?」  黒崎が眼前にスマートフォンの画面を突きつける。そしてその画面には、例の動画が流れていた。 『ん、……っ! くろ、さき……っ! く、ろさ……きっ』  画面の中の自分は、恍惚とした表情で、黒崎の名前を呼びながら、自慰に耽っていた。スピーカーごしに聞こえるぐちゅぐちゅという水温、自分の甘い喘ぎ声────  カッと全身が燃えるように熱くなる。榊原は首を無理やり捻って目線を逸らした。 「やめ、……てよ! ……ほん、と悪趣味……だね……ッ!」 「でも、興奮してる。──そうでしょう? こうやって恥ずかしいことをされて、あなたは性的に興奮してるんです」 「そんな、わけ……ッ!」 ────いいえ。きっとそうです。  自身に覆い被さった黒崎が、耳元で囁く。それはまるで、マインドコントロールをかけようとしているようだった。 「恥ずかしいのも気持ちよくなりますよ。すぐに」 「んぁっ、! ……ひぁッ!」  違う。違う。  僕はそんな────  必死に拒絶するが、冷たい汗がじわじわと皮膚から滲み出ていく。  違うと思いたい。だけど、なぜかあの動画を見せつけられ、自分の屈辱的な瞬間を黒崎に見られたと理解した時、下半身が燃えるように熱くなった。 ────自分は本当におかしくなったのか?  心の中を支配したのは、恐怖心だった。  怖い。怖い。  自分が自分でなくなるようなこの状況が──── 「ん、ふ、ぁ……ぅ、うッ! く、はぁっ!」  ずちゅずちゅ。と水音をたて、挿抜が繰り返される。肉壁を擦り上げられるたびに、甘い声が漏れて止まらない。 「もう気持ちよさそうだ」  黒崎が優し気な表情を浮かべる。そして優しく、女にするかのように、榊原の髪を撫でた。 「ひ、ぁッ! や、ぅうッ! は、ぁあん、ッ!」  ごりゅ、とペニスの先端が前立腺を掠める。黒崎はわずかな反応も見過ごしてくれないらしい。弱点を見つけると、そこばかりを執拗に攻めたてる。 「ぉ、お゛ッ⁈ ま、って……!ね、ぁあッ!」 「待ちませんよ」 「あ゛ッ! ぁあ゛ッ!」 「ほら、イって」 「ん、、ぅ……ぁ゛あ゛ーーーーーーーッッ!」  ガクン、と身体が跳ね上がる。  三度目の絶頂だった。精液がどろりと垂れていく。 「…………や、ぁ……ッ! もう、限界……だって……」  途切れ途切れに洩らす自分の声は、すっかりかすれていた。  三度も絶頂し、全身の力が抜けている。  汗に濡れた髪が額に張り付き、背中は震え、脚は小刻みに痙攣していた。  それでもまだ────  榊原のナカは、まだ黒崎のそれをぎゅうっと締め付けていた。 「……でも、まだ僕は……イってないですよ?」  黒崎が、笑みを浮かべたまま、榊原の頬を優しく撫でる。  熱を帯びたその手が、汗ばむ頬をゆっくりと這うように滑る。 「……や、……うそ……でしょ……?」  挿抜が更に激しさを増す。  快感から逃れようと、榊原は黒崎の背中に足を絡ませ、ぎゅっとしがみついた。 「ふふ……意外と体力あるんですよ、僕。ほら、もうちょっとだけ」  ずぷ、と奥へ打ち込まれた瞬間、榊原の背が跳ねた。  榊原は黒崎の背中に爪を立てる。 「ん゛ぅッッ……! や、め……もう、やめて……ッ」 「榊原さんが“欲しい”って言ったんでしょう? “ご褒美ください”って……ね?」 「や、……ッ! 言ってない……っ、そん、なの……っ!」 「でも、身体がね……欲しがってる。嘘がつけないんです、ここは──」  黒崎が腰を深く押し込めながら、榊原の下腹部をそっと撫でた。  ナカを擦り上げるたび、じゅぷっ、じゅぷっと淫靡な水音がベッドに響き渡る。 「や、……だ……ッ、も、もう……イけな……ぃ……!」 「イかなくていいですよ。僕が気持ちよくなるための穴、でいてくれれば」 「────っ!」  その言葉が、榊原の心を深く抉る。  言葉の残酷さに、視界がぐらつく。  けれど────  それに反応して、ナカがきゅんと締まった。 「ほら、そうやって……気持ちよくしてくれるんですね。やっぱり、いい子です」  ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ。  黒崎の腰の動きが、段々と早く、深くなっていく。  肉壁を擦るたび、榊原の身体は悲鳴のような喘ぎを漏らし、全身が跳ねる。 「っ、ふ、くろ……さき、も、う……むり、……むりだ……」 「もう少し……もう少しだけ、付き合ってくださいね。だって……あなたのナカ、あまりにも気持ちよすぎて、すぐ終わらせるなんて勿体なくて」 「や、だぁ……ッ! ね、ぇ……ッ! ま、……って、んぁあああああッ!」  涙が滲む。喉が震える。  それでも、黒崎の律動は止まらない。  榊原を犯すたびに、奥を突き上げ、ナカの締まりを確かめるように貪ってくる。  そして──── 「────榊原さん」  低く甘い声で名前を呼ばれた瞬間、黒崎の動きが一際強くなった。  喉の奥から熱い声が漏れ、榊原の身体がのけ反る。  その瞬間だった。 「────イくよ」 「っあ、あぁ……っ、うそ、や、め──」  どぷっ、と深く突き上げられた瞬間、ナカの奥が熱く満たされた。黒崎の精液が勢いよく注ぎ込まれる感覚に、榊原は目を見開く。 「ひ、やっ、ぁ……ッ!」  ナカに熱いものが拡がっていく感覚が、羞恥と共に押し寄せる。どろりと零れ落ちるそれが、身体をまるで“汚された”ように思わせて────  それと同時に、落雷のような全身を快感が貫いた。  身体が空中に浮いているような感覚。頭がくらくらする。 ────また、僕──ドライで……?  目の前は真っ白だった。  何も考えることができない。 「……はぁ……は……すごい、榊原さん……」  黒崎が深く息を吐きながら、榊原の背に顔を埋めた。 「……ナカ、ずっと気持ちよかったですよ」  榊原は、何も言えなかった。  言葉を吐く余力すら、残されていなかった。  ただ、ナカに熱を感じたまま、全身を震わせて、ベッドに横たわる。  黒崎はしばらく、榊原の髪に顔を埋めたまま、ゆっくりと呼吸を整えていた。  そして囁く。 「────あなたは、もう僕のものですよ。榊原さん」  それは優しい囁きであり、宣告だった。  榊原は、何も答えなかった。  ただ、濡れたシーツの上で、静かに、震え続けていた。

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