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unlock⑤翌朝

       朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。  霞がかった曇り空。けれどその淡い光は、昨夜の熱をまるで嘲笑うように、冷たく、優しかった。  榊原はベッドの上で静かに目を覚ました。  目の奥が重い。身体は鉛のようにだるく、関節が軋んでいる。  シーツの下、ナカにまだ“何か”が残っているような、ぬるりとした感覚があった。  腰の奥が鈍く疼く。  熟睡したはずなのに、全身が疲労に支配されていた。 ────起きたくない。 ────彼と顔を合わせたくない。  それが、最初に浮かんだ感情だった。 「……おはようございます、榊原さん」  優しい声が響く。  振り返ると、テーブルの前で黒崎がコーヒーを淹れていた。白シャツにスラックスというラフな格好で、機嫌よくカップを揺らしている。 「勝手にルームサービス頼んじゃいました。朝食、軽めでいいですよね?」  榊原は応えなかった。  答える気が、なかった。  代わりに、シーツをぐっと引き寄せ、身体を隠す。  けれど、見られているのは身体ではない。  昨夜、曝け出してしまった「もっと深いもの」だということを、榊原自身が一番わかっていた。 「コーヒー、ブラックですよね。……砂糖は入れてませんよ」 「……君は……その口調、朝からよく保てるね」  かすれた声で、やっと返す。  視線はまだ黒崎を見られない。  顔を上げることができない。  自分でも、ひどくみっともないと思う。  けれど── 「ええ、こう見えて、朝は強いんです。……それに、“気分がいい”ので」  榊原の眉がわずかに動く。  黒崎が“気分がいい”理由など、わかりきっている。  昨夜、あれほどまでに自分を蹂躙しておいて、何が「気分がいい」だ。  けれど、怒る気力も、皮肉を返す余裕もなかった。 「……ふふ。顔、まだ赤いですよ」  黒崎が榊原のそばに歩み寄り、ベッドの縁に腰かける。  その指が、額に触れようと伸びた──瞬間、榊原は咄嗟に顔を背けた。 「……触らないで」  震える声だった。  黒崎は、その反応を見て一瞬だけ表情を止めた。  けれどすぐに、穏やかな笑みを取り戻す。 「わかりました。……でも、忘れないでくださいね。あなたが僕を“欲しがった”という事実は、消えませんよ」  黒崎はさらに続ける。 「なにがあっても、“あれ”は本物だった。……その記録は、ちゃんとここに残ってます」  スマホを軽く持ち上げる。  榊原の眉間がぴくりと動いたが、もう怒る気力もない。 「……最低だね、君」 「ありがとうございます」  さらりと笑って返す黒崎に、榊原はもう何も言えなかった。  憔悴しきった心に、ぽたぽたと冷たい現実だけが降り積もっていく。  この男は、きっと何度でも自分を壊しに来る。  そして────  自分は、またきっと。  壊される。  それを予感した朝だった。

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