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FALL DOWN ⑥

 黒崎が、またローションのボトルを手に取る。音を立てて零れ落ちた透明な液体が、指先から肌に触れると、ぞわりと震えが走る。  「……もう十分、ほぐれてるでしょうけど…………」  黒崎の指が、再びナカに入り込む。さっきまでの快楽の余韻が残っているせいで、軽く触れられただけで敏感に反応してしまう。  「ん、ぁああッ! や、ぁッ」  自分の口からこぼれた声に、思わず唇を噛む。黒崎は、そんな反応を楽しんでいるかのように、ゆっくりと指を抜き取った。  代わりに、熱を帯びた何かが、入り口に触れる。  やっと────来てくれた。  それが何かなんて、わかりきっていた。  ずっと欲していた“それ”だった。 「榊原さん、入れますよ……」 「ん、……っ! はや、く……!」  ぬるりと、ゆっくりと押し広げられていく感覚。  最初は違和感の方が大きかったのに、それすら、すぐに快感へと変わっていく。  「っ、ん、……は、……っ……ぁ……黒崎くんの、きた……」  指とは違う圧迫感。バイブとは違う人肌の温かさ。  深く、奥まで満たされていく感覚に、腰が勝手に逃げようとしてしまう。  けれど、黒崎の手がそっと腰を支えてくれる。  逃がさない──でも、押しつけるわけでもない。  ただ、受け入れさせる。  拒むという選択肢が、自然と消えていく。  「榊原さん、気持ちいいですか?」  「んぅ、、はぁ……! きも、、ちいい……! く、ふぅ……きもち、いいよ……もっと、ほし……い!」  もう自分の本音をそのまま伝えることができた。  気持ちいい。もっと欲しい。  プライドなんか捨てて、素直に肯定することはこんなに“楽”なんだ──── 「ん、ふ……ぅ、! は、ぁ……」  黒崎の動きは、とてもゆっくりだった。じわり、じわりと奥へと進んでくる感触。まるで、逃げ場をなくすように、身体の内側に黒崎という存在が染み込んでくる。  榊原は黒崎の背中に腕を回す。そして抱きしめるように引き寄せると、黒崎は満足そうに笑う。 「素直になりましたね。“僕の”かわいい榊原さん」 ────僕の。  その言葉を聞いた時、胸に何かが刺さるような感覚があった。 「ひ、ぅ……は、ぁっ!」  小さな呻きが喉から漏れる。痛みではない。ただ……深い。奥のほうを押し広げられているだけなのに、そこが脈打って、熱を持ち始めているのが自分でもわかった。  黒崎の両手が、腰を支えたまま止まる。  目を伏せたまま、息を整えていると、やがて、その腰がゆっくりと動き出した。 「は、ぁあ…………ッ! や、ぁ……」  熱が、引き抜かれていく感覚。それに続くように、また奥へと沈められる。その繰り返しだけで、身体がとろとろに溶けていきそうだった。  「う、ッ……ふ、、ぅ……は、ぁ……ッ」  黒崎は、優しいまま責めてくる。  強引に押し込むでもなく、でも、甘やかすような手加減でもない。さっきまでの玩具の、無機質な快感とは百八十度違う感覚。  絶妙な力加減で、榊原の“弱点”を探し当てるように動いてくる。  「あ……っ……そ、こ……っ……! そこ、きも、ちいい……ッ!」  ひときわ深くまで突き上げられた瞬間、背筋が弓なりに反った。  何かが触れた。  そこを、また──ゆっくりと、何度も擦られる。 「ここ、ですね。……あなたが感じるのは」 「うん……っ! そこ、好き……ッ! そこ、もっ……と」  黒崎の囁きが耳に落ちると、身体がびくんと跳ねた。  自分の弱いところを、黒崎はあっさり見抜く。まだほんの少し、悔しさは感じる。ただ、もうその快感に逆らうことはできなかった。 「んぅッ!……ぁ、あ゛ッ!……い、うぐ……ッ!」  どこに逃げても、追いかけてくる。  逃げ場なんて、最初からなかったのかもしれない。  自分の意思で、ここにいて、黒崎に抱かれている。  その事実が、脳の奥に焼きついていく。 「榊原さん、声、我慢しなくていいですよ」 「ぁあ゛ッ⁈ や……ッ! やめ、っ……」  やめてほしいなんて、本当は思っていないのに。  喉が勝手に、そんな言葉を吐き出す。まるで、心の本音と身体の反射がバラバラになっていくみたいだった。 「かわいいですね……もう、すっかり僕の色に染まってる」  その言葉と同時に、ぐっと深くまで突き上げられ、快感の波が一気に押し寄せた。 「──ッ! ぁ、ああああッ! ぃ、イく、……っ!!」  声にならない叫びとともに、榊原の身体が跳ねた。涙と共に、喉の奥からくぐもった嗚咽が漏れる。  性器からは何も出ない。身体の力が抜けていくような、包み込まれるような快感。────ドライオーガズムだ。  快感のあまり、榊原は言葉を発することができなかった。  それでも、黒崎は動きをやめてくれなかった。絶頂の余韻が冷めないうちに、また快楽が打ち込まれてくる。震える身体が、次の波に呑まれる準備を始めていた。 ────まだ、終わっていない。  絶頂を迎えようが、黒崎の動きは止まらなかった。 「……まだ、いけますよね?」 「ひ、ぃああ」  問いかけのような、決定のような言葉。  その声音が、身体の奥を震わせる。 「さっきより……もっと奥、感じてみましょうか」  ぐっと、腰を持ち上げられる。すると、ナカに差し込まれた黒崎のペニスが、より深くまで挿入される。 「ぁ゛──ッ! い゛ッ! ぁ゛あ゛アアアアーーーーーッッ!!!」  さっき達したばかりの敏感な箇所が刺激され、喉が引き裂けそうなほどの叫び声を上げた。  涙が頬を伝って落ちていく。  けれど、黒崎の手は優しく頬を拭い、囁くように笑った。 「大丈夫ですよ。榊原さんなら、もっと……気持ちよくなれる」  鼓膜を撫でるその声が、甘くて、こわい。  けれど抗えない。むしろ、それを求めている自分がいる。 ────だめ、だ……おかしく、なる……  また、奥を的確に突かれた瞬間、意識がふっと白くなる。空気を吸うのも忘れたように、口が開いて、声にならない声が漏れた。 「そこ……好きですね。ほら、もう一度──」 「う、、ぐぅ! や、ぁ゛あ゛あ゛!」  連続して叩き込まれる熱。ピンポイントで与えられる刺激に、腰が勝手に跳ね上がる。 「ぉお゛ッ! や、あ゛ッ! う、ぁああああああ!!」  震えながら、手がシーツを掴む。逃げ場のない快感が、波のように押し寄せてきて、もう限界だと思った、その瞬間── 「榊原さん、イっていいですよ」  優しい声で許された瞬間、  脳が真っ白になって、何も考えられなくなった。 「────ッ! ぁあああ、……っっ!!」  二度目のドライオーガズム。  全身が痙攣し、頭の奥で何かが弾けるように抜け落ちた。  どこまでが自分の声で、どこまでが快感なのかわからなかった。 「……気持ちよさそうにイきますね。ほんとに、可愛い」  黒崎の吐息が耳元に触れ、頬に口づけられる。身体はもう何も抵抗できず、ただ震えて、喘いで、また次の熱を待つように開いてしまっていた。 「さあ、もう少しだけ……僕も、限界なので」  そう言って、黒崎の動きが変わった。  ゆっくりだった腰が、じわりとリズムを速める。  激しく突き上げられるたび、また中が擦られて、敏感になった粘膜が何度も悲鳴を上げる。 「い゛ッ! ぁ、あああッ! あ゛ッ! うああッ!」  榊原は何も考えられなかった。  ただ必死に、黒崎の身体にしがみついていた。 「……く、ろ……さき、く……ん……っ!……くろさ……きくんッッ!」  榊原は、無意識に黒崎の名前を呼んでいた。  その一言に、黒崎の動きがわずかに熱を増す。  もう自分が、どんな顔をして、どんな声を漏らしているのかさえわからない。  そして── 「中に……出しますよ」  その言葉の直後、黒崎の腰が深く沈み込んだ。  びくん、と熱が放たれ、中を満たしていくのがわかった。  自分の奥に、黒崎のすべてが流れ込んでくる感覚に、最後の震えが走った。 「……ぁ、……う……」  もう何も出ない喉で、小さな声を漏らす。  呼吸すらままならず、全身がだらりと脱力して、ただ黒崎の腕の中で震えていた。  達したばかりの身体は、震えていた。  呼吸も整わないまま、ぐったりとベッドに沈み込んでい  ──もう、何度イかされたかわからない。  でも、そのたびに、黒崎が見ていてくれた。  抱いて、撫でて、囁いてくれていた。 「……っ、くろさ、きくん……」  意識がふわふわしている中で、ぽつりと名前を呼んだ。  返事を求めたわけじゃない。  ただ、どうしようもなく、呼びたくなった。  気づいたときには、もう口が動いていた。 「……すき……黒崎くん、……すき、………」  自分でも驚くほど、弱々しい声だった。  告白なんて、そんなつもりじゃなかった。  でも、もう、心が限界だった。  今まで抑えていたすべてが、快楽と一緒に流れ出てしまった。 「……あは……やっと言えましたね」  黒崎が微笑む気配がした。  優しく、でもどこか満足げに。 「榊原さん、そんな顔で、そんな声で……“好き”だなんて」  その声が、とてもやさしく響いて、また涙が滲んだ。  なのに── 「……もう手放せませんね。僕だけの、可愛い榊原さん」  囁かれたその言葉に、また胸がぎゅっと締め付けられた。  まるで、鎖が静かに、けれど確実に巻きつくように。  骨の奥にまで、黒崎が流れ込んでいくような錯覚。 ────ああ、もう完全に、この人のものだ。  そう思った瞬間、涙が一粒、またこぼれた。  黒崎は、しばらくそのまま動かず、榊原の身体を覆うようにして、ゆっくりと肩で息をしていた。  静かな、でも確かに熱を持った静寂の中──  彼の手が、またそっと髪を撫でてくれる。黒崎の体温が、肌に直接触れている。 ────僕、は…………  まだ中に残る熱が、じわりと疼いていた。動かないまま、深く繋がった姿勢で、ただ呼吸を重ねている。 「……気持ちよかったですね」  ゆるやかな声が、耳元で揺れる。返事はできなかった。  喉が乾いて、言葉を紡ぐ余力すら残っていない。  それでも──黒崎の手は、そっと髪を撫でてくれる。 「何回もイって……中にいっぱい、出されて……」  その言葉だけで、また下腹がずきりと反応する。  羞恥よりも先に、安心が来た。  この人に抱かれているという、それだけで。 「もう、僕以外じゃダメですね。……榊原さん」  名前を呼ばれるたびに、どこかが溶けていく気がした。  それが怖いのに、心地よかった。 「……ずっと、こうなるって思ってましたよ」  黒崎の声が、さらに近づく。  額に口づけられて、背中に優しい手が回される。 「従順なふりして反抗して……でも結局、甘やかされたら流されて。最初から、そういうふうに育ってるんです。あなたは」  耳の奥で、その言葉が静かに沈んでいく。  まるで自分の“設計書”を読み上げられているような感覚だった。 「……だから、これからは──僕が飼ってあげますね」  その一言で、全身がゆるんだ。  ああ、もうダメだ────と、どこかで思った。  でも同時に、救われたような気もしていた。 「服従も、快楽も、全部……僕が教えてあげます」  黒崎の手が、背中をなぞる。  優しく、でも逃がさない。まるで、迷子を囲い込むような優しさだった。 「あなたは、僕のものです。……榊原さん」  その言葉に、逆らえなかった。  何も言い返せなかった。  ただ、胸の奥で何かがストンと落ちていく音だけが、確かに聞こえた。

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