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第3話 輿入れですか?
1ー3 紋様
その夜、俺は、なかなか眠りにつけなかった。
俺は、本当のアンリではない。
このロートルワーズ子爵家の次男であるアンリ・フランソワ・ロートルワーズは、俺であって俺ではないのだ。
そのことに気づいたのは、5歳の頃のことだった。
その頃、俺は、体が弱くてよく熱を出して寝込んでいた。
だが、当然、医者が呼ばれることはなく、母さんが自分の飲み薬を飲ませてくれるぐらいの手当てしか受けられなかった。
そのときは、マジでやばくて。
俺は、3日も意識が戻らなかったらしい。
そして。
目が覚めると俺は、俺だった。
もとの名前は、覚えていない。
ただ、俺は、ニホンのごく普通の大学生だった。
なんでか知らないが、突然、俺は、アンリになっていたのだ。
しかも!
俺の体には、アンギローズの証である魔族の紋様が刻まれていた。
あれ?
これ、知ってる!
俺は、はっと息を飲んだ。
この世界は、俺がニホンで読んだことがあるマンガの世界だ!
『闇の華』
それは、俺の2歳上の姉がはまっていたBLマンガだった。
なんでわかったかというと、この魔族の紋様のせいなんだが、そこで俺は、頭を傾げた。
俺、いったいなんでこの世界に転生したの?
というのも、『闇の華』には、アンリなんて出てこなかったから!
もしかしてモブ中のモブ?
でも、そのときは、それ以上考えられなかった。
熱が下がって元気になった俺に紋様の話を聞かされて今度は、母さんが倒れてしまったからだ。
俺は、母さんをベッドに休ませるといつもの薬を飲ませて様子を見ていた。
「アンリ」
夜中にうとうとしていたら名前を呼ばれて顔を上げたら、母さんが涙を流していた。
母さんは、薄い金色の髪に青い目をした人形みたいにきれいな人だ。
もともとは、男爵家の出なんだが無理矢理父の愛人にされたらしい。
母さんからすれば俺は、望まぬ子だったわけだ。
にもかかわらず母さんは、俺を可愛がってくれていた。
母さんは、ベッドに起き上がると俺の頭を撫でた。
「かわいそうな子。まさか、呪われし者だったなんて」
母さんは、俺に決してその紋様を他人に見せてはならない、と話して聞かせた。
決して、自分がアンギローズだと知られてはいけない。
幸いなことに俺の体に現れた紋様は、下腹にあったので下履きを脱ぎさえしなければ誰にも見られることはなかった。
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