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第6話 輿入れですか?
1ー6 兄の劣情
俺は、金貨でまともに見える古着を仕入れて輿入れの準備をすました。
もちろん、婚姻式なんてないし。
荷物も鞄1つだけ。
ほぼほぼ身一つで嫁にいくことになる俺のことを母さんは、心配してくれたけど、俺は、笑顔を見せた。
「心配しないで、母さん。俺、うまくやるからね」
というわけで。
いよいよ明日は、伯爵家からの迎えがくるという日の夜になって事件は起きた。
明日に備えて早めに休んでいると、どうにも母屋の方が騒がしい。
どうしたのか、と俺が起き出すと母さんも不安げに起き出している。
「どうしたのかしら、アンリ」
青いほど白い母さんの頬に影がさす。
俺は、母さんのために普段は近づかない母屋に向かった。
母屋に裏口から入っていくと言い争う男の声が聞こえてくる。
どうやら父の執務室からのようだった。
「なぜ、アンリをグレイスフィールド伯爵なんかの後妻に出すんです?」
それは、ギードの声だった。
ギードは、ここしばらくの間、子爵家の領地に行っていて留守だったんだよ。
いったい、いつの間に帰ってきたんだ?
「私は、アンリを嫁に出すことには反対です!」
「お前がアンリを好いていることは知っている」
いきまいているギードに父が答えるのが聞こえる。
えっ?
父は、知ってたんだ。
俺は、そのことに驚いていた。
だって、父たちがこのことに口出ししてきたことは、まったくなかったからな。
俺は、廊下に立ったまま2人の話しに聞き耳をたてる。
「お前は、このロートルワーズ子爵家の大切な跡取りだ。それが腹違いとはいえ弟にそのような感情を持っているなどとは。褒められたことじゃないぞ、ギード」
「それはっ!」
兄が口ごもると父がふん、と笑った。
「まあ、これは、お前にとってもいい話だった。アンリがいなくなればお前も正気に戻るだろう」
「私は!」
ギードがどん、と机を叩く音が聞こえる。
「あれしか、いらない!アンリだけが欲しいんです!」
「なら、なおさらあれは、手放さなくては、な」
父が冷たく応じる。
「目を冷ませ、ギード。確かにアンリは、なかなか見目がいいかもしれんが、お前には相応しくない」
「しかしっ!」
「相手は、伯爵だ。わかっているだろう?ギード」
父が言うと兄は、言葉に詰まる。
そう。
いくら、兄がこの婚姻に異を申し立てようとももう、遅いのだ。
俺は、ちょっとほっとしていた。
よかった。
グレイスフィールド伯爵の話を父が受けてくれて。
俺は、初めて父に感謝していた。
さもなければ俺は、兄に無理矢理やられていたかもしれない。
それだけは、嫌だった。
いや!
他にもいっぱい嫌なことはあるけど、特にギードの愛人にされるのは嫌だった。
ギードの愛人にされてこの屋敷で飼い殺されるなんてごめんだし!
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