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第7話 輿入れですか?
1ー7 決意
翌朝。
迎えに来たグレイスフィールド伯爵家の馬車に乗り込む俺を見送ったのは、母さんだけだった。
兄のギードは、父の命で夜のうちに領地へと戻ったらしい。
グレイスフィールド伯爵家の黒塗りの馬車は、さすがに立派だった。
俺は、言葉少なに馬車に乗り込んだ。
「元気で、ね、アンリ」
母さんがなんだか小さく見える。
小柄でいつも小さく見えるけど、今日は、なおさらに小さく思えた。
「母さんも」
俺は、母さんの手を握った。
「どうか、元気で」
俺がこの世界で世をすねてしまわなかったのは、この人のおかげだ。
いらない子だった俺をそれでも愛してくれた。
この人がいてくれたから、俺は、俺でいられたんだ。
ギードのことも、他のいろんなことも堪えられた。
「……母さん!」
俺は、馬車から飛び降りると母さんを抱き締めた。
母さんは、小柄な俺からしても小さくて。
なんだか、涙が出た。
母さんは、俺をそっと抱き締めてくれた。
「もしも、辛いことがあったらすぐに逃げなさい、アンリ。何も心配しなくていいから、自分の生きたいように生きなさい」
「うん……」
俺は、泣きながら頷いていた。
そうして、俺は、これまで20年暮らしたロートルワーズ子爵家を後にした。
俺は、馬車の中で涙を拭うとぱしっと自分の頬を叩く。
しっかりしろ!
これからが、大変なんだ!
まず、グレイスフィールド伯爵とのしょ、初夜があるし!
俺は、かぁっと顔が熱くなるのを感じていた。
俺は、前世でも今生でもそういうことはしたことがなくて。
ちなみに彼女いない歴40年ぐらい、かな?
普通に寂しいな!
もちろん、彼氏もいなかった。
まあ、ギードは、いたけど。
あれは、そういうのではないし。
それに。
これから行くグレイスフィールド伯爵家には、あれがいる。
そう、あれ。
この世界。
『闇の華』の世界の主人公であり、俺の継子であるロゼス君が。
俺は。
これから立派な継母になり主人公をいびり倒さなくてはならないのだ。
俺は、ぐっと拳を握りしめた。
俺は、やる!
必ず、ロゼス君のことをいびってみせる!
そして、将来、無事に断罪され、見事に追放されてみせる!
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