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第9話 輿入れですか?

 1ー9 常宿  1人残された俺は、部屋の中をぐるりと見回した。  客間らしい部屋の隅には俺の貧相な鞄が1つだけぽつんと置かれていた。  俺は、鞄を開くと中から着替えを取り出し部屋にあったタンスにしまっていった。  こういうことは、普通に俺がすることなのだろうか?  俺は、ぐるぐると考えていた。  たしか、継母となる人は、大切にされてた、というか、ワガママ放題してたんじゃね?  それとも継母も最初は、こんな扱いだったの?  衣類を片付けると俺は、鞄をベッドの下に入れてそのままベッドに横になった。  てか。  俺が継母になるなんてこと、もともとの話にはなかったことだし。  もしかしたらストーリーも変わってきてるのかも。  はぁ、と俺は、吐息をついた。  それにしてもこのベッド、柔らかくてふかふかですごく寝心地がいい。  いままでのアンリの人生の中で最高に寝心地がいいベッドだし!  俺は、昨夜、ギードのこともあってあまり眠れていなかったこともあり、ついつい、眠くなり目を閉じた。  うん。  少し眠るだけ。  それぐらい構わない筈。    「なんだ?お前は」  ベッドがきしむのを感じて俺は、慌てて目を開けた。  目の前には、美しい金色があった。  金色の瞳。  もしかして!  俺は、すぐに体を起こそうとしたがその男にのし掛かられて身動きがとれなかった。  「離してくれ!」  「まずは、私の質問に答えろ。お前は、誰だ?なぜ、私の部屋にいる?」  はい?  俺は、男の下で目を瞬いた。  ここ、俺の部屋ですよね?  なんで、そこにこの人がいるんですか?  「俺は……アンリ・フランソワ・ロートルワーズ。この家に嫁いできた」  俺が掠れた声で応じると、その男は、金色の瞳に獰猛な色を浮かべた。  「そうか。お前がロイスの新しい嫁か」  男は、にやりと口許を歪める。  「知ってるか?グレイスフィールド伯爵家には、古いしきたりがあってな」  「しきたり?」  「そうだ」  男は、俺を上から覗き込むと唇にそっと指で触れた。  冷たい男の指に触れられて俺は、びくっと体を強ばらせた。  俺の反応に男は、笑みを深める。  「初夜の夜には、妻をよその男に抱かせる。それが、この伯爵家のしきたりなんだよ」  マジで?  俺は、まじまじと男を見上げる。  男は、俺の唇を指で愛撫しながら続けた。  「この部屋は、俺の常宿でね。それを知りながら部屋に入り込んだんだ。どうなるかは、わかるだろう?」  はいっ?  俺は、息を詰めて男を見ていた。  「執事、が」  震える声で訴える。  「ここが俺の部屋だ、と……」  男の獣じみたぎらぎらした瞳に見つめられて俺は、涙目になっていた。      

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