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第10話 輿入れですか?
1ー10 ヤンデレ
やばい!
俺、このままこの男に!
俺がぎゅっと目をつぶるのを見て不意に男が笑い声をあげた。
「ははっ、冗談、だ」
はいっ?
俺は、こわごわ目を開いた。
男は、俺から体を離すと笑顔で手を差し出した。
「リュート、リュート・ミューゼル・ラインズゲート、だ。よろしく、伯爵婦人」
やっぱり!
俺は、顔がひきつるのを感じた。
リュート・ミューゼル・ラインズゲート
それは、『闇の華』の主人公を借金のかたに無理矢理愛人にして監禁するヤンデレの名前だ。
もう、マンガの中では主人公を筆舌に尽くしがたいほど、手をかえ品をかえ責め抜く変態。
それが、この男、リュートだった。
俺がびびって差し出された手をとれずにいるのを見て、リュートは、にぃっと口角を上げた。
「私が怖いのか?」
俺は、慌てて頭を振った。
「怖いなんて……」
いや!
俺は、この男が怖かった。
この世界には、いろいろな変態がいる。
だが。
今、俺の目の前にいる男以上の変態は、いない(筈だ!)
しかし、上位貴族に手を差し出されて受けないわけにはいかない。
俺は、ぷるぷる震える手をリュートの手に重ねた。
リュートは、俺の手を握ると満足げな笑みを浮かべた。
ベッドから降りると俺は、リュートの前に立ち、礼をとった。
「し、失礼しました、ラインズゲート侯爵様」
「いや、かまわん。私がくるときはいつもこの部屋を使っていたから少し、驚いただけだ。すまなかったな、伯爵婦人」
いや。
婦人じゃないし!
「アンリ、とお呼びください」
俺は、リュートの前に立ったまま動けなかった。
足が震える。
リュートは、ふっと微笑んだ。
「すっかり怖がらせてしまったな。すまなかった、アンリ」
「いえ、その」
いい淀む俺の頬に手を伸ばすとさわっと撫でながらリュートは、俺を見つめた。
「まったく。男の嫁とかありえないと思っていたんだが。こうしてみるとなかなかよさそうだな」
はいぃっ?
「流れるような銀の髪にその美しい青い瞳。それにすべらかな肌」
リュートが舌先で唇を舐める。
「こんな美しい人が王都にいたとはな」
長い髪に指を絡められて俺は、心底びびっていた。
この世界でかかわり合いになりたくない相手がいるとしたらそのNo.1がこの男だ。
俺は、涙目になりながらどうしたものかと考えていた。
「安心しろ、アンリ。いくら私でも友人の細君に手を出したりはしない」
ベッドから立ち上がるとリュートは、俺の肩をぽんと、叩いてから部屋から出ていった。
俺は、去っていくリュートを見送りほっと息を吐いた。
頼むから!
俺の人生には、関わらないで。
もし、関わるなら主人公だけにして!
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