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第19話 継母は、難しい
2ー9 伯爵の死
グレイスフィールド伯爵が死んだ?
リュートに抱き込まれている俺を冷ややかな目で見つめながらラトグリフは、繰り返した。
「グレイスフィールド伯爵がお亡くなりになりました」
伯爵は、領地で問題が起きたためにそちらに向かっていたのだが、そこで土砂崩れにあい巻き込まれてなくなったのだという。
マジですか?
俺は、リュートから体を離してさりげなく衣服のしわを伸ばした。
まずい!
夫が死んだという報告を愛人に抱き締められながら聞いたと思われている!
「すぐに領地へ向かう!」
俺が言うとラトグリフは、冷たく突き放すように俺を見下ろした。
「その必要は、ございません。すでに旦那様のご遺体はこちらに向かっております」
俺は、きゅっと唇を噛んだ。
リュートのせいだ。
こいつのせいで俺が初夜もしない内から夫を裏切ってるみたいに思われてしまってる。
俺は、はっとしてラトグリフに訊ねた。
「ロゼスは?」
「学園に使いを出しましたのですぐに戻られる筈でございます」
おかしい。
俺は、首を傾げた。
『闇の華』では、ロゼスの父が死ぬことはなかった筈だった。
確かに、グレイスフィールド伯爵家の借金のためにロゼスは、リュートに売られる。
しかし、父である伯爵は、クズだけど死んだりはしなかった。
どういうこと?
ともかく俺は、リュートの部屋から出ると自分の部屋へと戻った。
リュートは、まだ何か言いたげな様子だったが俺は、気づかないふりをした。
これ以上、俺の立場が悪くなるのはまずいし!
なんとかして挽回しなくては!
俺は、リュートを避けつつロゼス君が学園から戻るのを待った。
このままだと、ロゼス君は、伯爵の借金のかたにリュートのもとに買われることになる。
っていうか。
なんか、違和感が?
昼過ぎ頃、俺がリビングでロゼス君を待っていると昨日のロゼス君に言い寄っていたおじさんが近づいてきてにんまりと笑いかけてきた。
なんかいやな感じ!
「いやはや、大変なことになりましたな、アンリ様」
「そうですね」
俺は、男の脂ぎった丸い顔をじっと見つめて考え込んだ。
そういえば、この人、誰だったっけ?
『闇の華』では、ロゼス君の婚約者なんていなかったし。
借金で困窮したロゼス君は、伯爵の友人であり出資者であるリュートに借金と引き換えに売り渡されるが、それ以前には、婚約者とかいなかったよな?
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