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第26話 継母の心得
3ー6 領地へ
翌日。
早朝に目覚めた俺は、ベッドでのびをするとはぁっと吐息をつく。
「やるぞ!」
もう、やるしかない!
俺が起き上がるのを見計らったかのように赤毛の使用人がお茶のトレイを持って入ってきた。
「おはようございます、奥様」
笑顔で挨拶したその使用人は、前にも見たことがある顔だったが、名前は知らなかった。
塩顔のなかなかの男前のその使用人は、リトと名乗った。
「今日から奥さまの側付きの従者になりました。よろしくお願いいたします」
俺は、リトが入れてくれたお茶を受けとると1口飲んだ。
「おいしい」
「そうでしょう?領地でとれたお茶なんですよ」
リトが嬉しげに微笑んだ。
領地、か。
俺は、リトに訊ねた。
「たしか、領地で土砂崩れがあったんだっけ?」
それでグレイスフィールド伯爵が領地に向かったんだけど、そこで巻き込まれて亡くなったんだよね?
俺は、んー、と考え込んだ。
「グレイスフィールド伯爵領は、いい木材を産出してることで有名だったよね?やっぱ、領地には山が多いの?」
「いえ、そうでもないんですけどね」
リトが俺のために洗顔用のお湯を用意しながら話してくれる。
「ただ……領地は、農産物を作ったりするのはむいてなくって。それで木材を売って生計をたてる者が多くなってたんです」
「農産物にむいてない土地?」
「はい」
リトが頷く。
「全体的に沼地が多くて。魔物も出没するし。それで山に頼って生きてくしかないんです」
ふむふむ。
俺は、リトが用意してくれたお湯で顔を洗うと服を着替えた。
長い銀髪を櫛で丁寧にとかすとリトは、俺の髪を背中で三つ編みにしてくれた。
「手慣れてるな」
鏡越しに俺がリトを見ると、リトは、うっすらと頬を染める。
「妹が多かったもんで」
妹、かぁ。
俺は、身繕いがすむとリトの案内で食堂へと向かった。
いつもの食堂には俺の他には、ロゼス君とリュートの姿があった。
2人は、大きなテーブルの片隅に向かい合って座っている。
「おはよう、アンリ」
向かい合った席に腰を下ろすとリュートが微笑みかけてくる。
「今日も、きれいだね」
何、そのホストみたいな軽薄な挨拶?
俺は、リュートを無視して隣に座っているロゼス君に挨拶する。
「おはよう、ロゼス」
「お、おはよう、アンリ」
うん?
なんか、普通に家族みたい?
今までの待遇からは、考えられないぐらい改善されてる?
俺は、朝食がすむとお茶からたつ湯気を見つめて口を開く。
「これから領地の方へ出掛けたいんですが」
「領地に?」
リュートがぴくっと眉をひそめる。
「なぜ?」
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