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第30話 継母の心得

 3ー10 躾  午後には、俺は、ラインズゲート侯爵の馬車でグレイスフィールド伯爵領へと出発した。  俺は、上着の下にある短剣に触れた。  ロゼス君。  俺に対する感謝の思いを伝えたかったんだな。  このロゼス君の信頼に応えるためにも俺、がんばらなくては!  「何を考えている?アンリ」  不意に前に座っているリュートに声をかけられて俺は、はっと現実に戻った。  「な、何も」  「そうなのか?」  リュートがふっと口許に笑みを浮かべる。  「まるで誰かに思いを馳せているようだったぞ」  「少し、ロゼスのことを考えてました」  俺は、ふっと口許を緩める。  「ロゼスが俺にこれを渡してくれたんです」  俺が上着の胸元から銀色に輝く短剣を取り出してリュートに見せると彼の顔色が変わった。  「それ、は?」  「ああ、なんでもグレイスフィールド伯爵家に伝わる宝剣だそうです」  俺が答えるとリュートがなにやら考え込む。  「それをロゼスがお前に?」  「ええ」  俺が頷くとリュートが呻いた。  「お前、わかっているのか?それを受け取ったということは、ロゼスの求婚を受け入れたということだぞ?」  はいっ?  なんですと?  「求婚?」  「そうだ、求婚、だ」  リュートが金色の瞳をぎらつかせて俺を見て微笑んだ。  「私という者がいながら、ロゼスからの求愛を受けるとは。どういうつもりだ?アンリ」  「へっ?」  俺は、リュートの金色の瞳に見つめられて硬直していた。  「そ、そんな。決して、そんなつもりじゃ」  「グレイスフィールド伯爵家の宝剣を受けながらその意味を知らなかったとは言わさないぞ、アンリ」  リュートの金色が冷ややかに俺をとらえる。  「一度、しっかりと教え込んでおかなくてはならないな」  「な、何を、です?」  俺は、声が震えるのを止められない。  リュートは。  男も息を飲むほどの美しい顏で俺に微笑みかけた。  「お前の飼い主が誰か、ということを、だ」  飼い主ですと?  すでに涙目になっている俺にリュートが顔をよせるとその赤い舌先でちろっと俺の唇を舐めた。  「せっかく愛人になったんだ。うんと可愛がって、優しくしてやろうと思っていたんだが。これだけ無自覚では、な。しっかりと躾てやらなくては」  躾、ですか?  俺は、完全にびびっていた。  ちょっと待ってください!  

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