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第34話 愛人契約
4ー4 甘い香り
「まあ、いい」
リュートは、俺の頭にそっとキスをした。
「お前は、私の選んだ番だ。お前のロゼスに対する気持ちがどうであれ、この3年で完全にお前を私に堕としてみせる。だから」
リュートが俺の頬にちゅっと唇を寄せる。
「覚悟しておくように、アンリ・フランソワ・グレイスフィールド」
ほえっ!?
俺は、リュートのことをまじまじと見つめてしまう。
リュートは。
その綺麗な顔で俺に悪戯っぽく微笑んだ。
胸のどきどきが止まらない。
まるで、この高鳴りがリュートにも伝わっているんじゃないか、って心配になる。
でも、リュートは、変わらず俺を優しい眼差しで見つめている。
俺は、なんだか暑くて。
上着の前をくつろげると吐息をつく。
なんだろう。
狭い馬車の中だから空気が悪いのかも。
俺は、息苦しくて。
「窓、を」
俺は、必死に訴えた。
「窓を開けて」
「うん?」
リュートがすっと腕を伸ばして窓を開けると、ふわっと甘い香りが馬車の中に流れ込む。
「甘い?」
「ああ、この香りか」
リュートがすん、と香りを嗅ぐ。
「甘いだろう?これは、リュメの花の香りだ」
リュメ?
俺もくんくんと匂いを嗅ぐ。
胸一杯に甘酸っぱい香りが拡がっていく。
「この花は、冬に咲く珍しい花で、グレイスフィールド伯爵領の紋章にも刻まれている」
はい?
俺は、何度か見ていたグレイスフィールド伯爵家の家紋を思い出していた。
なんか、猛々しい鳥が花を咥えているような家紋だったな。
あの花。
なんか梅の花に似てたような。
というか、もう、グレイスフィールド伯爵領なんですか?
俺が訊ねるとリュートが思いきりバカにするような顔をした。
「確かにグレイスフィールド伯爵領は、王都からそれほど離れてはいないが、最低でも2日は、かかる」
「そ、そうなんですね」
俺は、世間知らずみたいでなんだか恥ずかしくてそっと視線をそらす。
リュートは、俺を膝にのせたまま髪を撫でた。
「ここは、隣のアルデナール公爵家の領地だ」
どうやら街の近くに来たようで魔道具を使った街灯が街道にもところどころあって道を照らしていた。
辺りは、すでに暗くなってきている。
馬車が停まる。
街を囲んだ塀の外で衛兵に御者が話をしているのが見えた。
すぐに門が開き俺たちの乗った馬車はアルデナール公爵家の領都であるアルデイアの街へと入っていく。
「今夜は、このアルディアに宿をとることにする。伯爵領には、明日の昼頃に到着するだろう」
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