35 / 111
第35話 愛人契約
4ー5 宿屋にて
夕暮れのアルディアの街は、せわしなく行き交う人々で賑やかだった。
俺は、王都の酒場街を思い出していた。
酒場街を根城にしていた楽団で俺は、ランドリンというギターによく似た楽器を弾いて小遣いをかせいでいたのだ。
楽団のリーダーのシトルは、俺を可愛がってくれて楽団のランドリン弾きが辞めた後、俺を雇ってくれた。
とはいえ俺は、楽器なんて持ってなくて。
たまにランドリンを借りて弾かせてもらっていたけど自分の楽器なんて持ってないし。
そしたらシトルは、俺のために安物とはいえランドリンを買ってくれたんだ。
『出世払いだぞ!』
冗談めかしてそんなことを言ってたな。
俺がそんなことを考えてると馬車が街の中央辺りにある大きな宿屋に停まった。
どうやらここが今夜の宿らしい。
俺は、ようやくリュートの膝から下ろしてもらえると安堵していた。
だが、リュートは、俺を抱き上げるとそのまま馬車から飛び降りると何事もなかったかのように宿屋へと入っていく。
ええっ?
めっちゃ目立ってる!
俺は、人々の好奇の目にさらされて恥ずかしくて堪らなかった。
「こ、侯爵!下ろしてください!」
「拒否する」
リュートは、きっぱりと答えると宿屋の主らしき人が案内してくれた部屋まで俺を抱えていった。
部屋は、3階の奥にあった。
もちろん、エレベーターなんて洒落たものは、ない。
リュートは、その部屋まで俺を抱いて行った。
さすがに重いんじゃ、とか思ったけど、リュートは、息も切らしてないし!
体力お化けか!
主が下がるとリュートは、俺を部屋の中央にある大きな天蓋付きのベッドにそっと下ろした。
「さて、と」
リュートが上着を脱ぐ。
リュートは、白いシャツに黒いズボンという軽装で部屋に置かれていた酒を手にとるとグラスに注ぎ俺に差し出した。
「喉が乾いただろう?アンリ。冷たい果実酒だ」
「ありがとうございます」
俺は、グラスを受けとるとちょっと口に含む。
果実酒は、甘酸っぱくてとてもおいしくて。
喉も乾いていたので俺は、一気にそれを飲み干した。
「おいしい」
俺がほぅっと吐息をつくのを見てリュートがもう一杯グラスに注いでくれた。
俺は、それをまた一気に飲み干す。
うん?
なんだか体が熱くなって。
リュートがすごくいい顔してる?
「うまいだろう?このアルディアの酒は」
「はい!」
俺が頷くとリュートが俺の持っていたグラスを取り上げる。俺は、ちょっと不満で唇を尖らせた。
もう少し、飲みたかったし!
だが、リュートは、テーブルにグラスを置くと俺の方へと近づいてきた。
「アンリ、お前も服を脱いでくつろいだらどうだ?」
そう言いながらリュートは、俺の上着を脱がせて放り投げた。
ああっ!
シワになっちゃう!
そう思った瞬間、俺は、リュートにベッドに押し倒されていた。
ともだちにシェアしよう!

