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第42話 領主代理
5ー2 老神官
リュートは、俺の手をとったまま、女神の間の扉を開いた。
扉の中は、白い光に溢れていて俺は、眩さに目を伏せる。
「よくおいでになりました、グレイスフィールド伯爵代理 アンリ・フランソワ・グレイスフィールド殿」
巨大な白く輝く女神像の前に立つ神官らしき老人が俺を手招きする。
「さあ、こちらへ」
俺は、ちらっとリュートの方をうかがう。リュートは、頷くと俺の手を離した。
俺は、1人、その老神官の方へと歩みよった。
老神官は、どうやら目が不自由なようで俺が近づくとそのごわごわの手で俺の顔や髪に触れてくる。
「これは、これは」
老神官がふっと口許を綻ばせる。
「美しさだけでも十分異質だというのにアンギローズとは」
はいっ?
俺は、その老神官の手を振り払い後ずさった。
老神官は、優しい微笑みを浮かべる。
「私は、目が見えない。かわりにいろんなことがわかるようになったのです。安心なさい。あなたの秘密は、守られるでしょう」
俺は、半信半疑だった。
ロートルワーズ子爵家で暮らす年月が俺を疑い深くしていた。
老神官は、ふぅっとため息を漏らすと俺に背を向けた。
「あなたにもいつか、心から信じられる人が見つかることを祈っていますよ、アンリ殿」
老神官は、目が見えないとは思えない動きで祭壇に置かれた透明な玉を手に取るとそれを俺に差し出した。
「これを持って、魔力を注いで下さい」
俺は、老神官の手から玉をとると気を注ぐ。
どうか!
どうか、役に立つ能力を俺に与えてください!
玉は、俺の気を受けて澄んだ青色に変化していく。
その青は、じょじょに薄い水色から濃い群青色へと変わっていく。
「これは……」
老神官が黙り込む。
俺は、なおも魔力を注ぎ込んだ。
ぴしっと音がして玉がひび割れる。
玉から俺の魔力が溢れ出て、周囲に拡散されていく。
ぴりっと肌を刺すような魔力の感覚に俺は、小さく声を上げてよろめく。
「アンリ!」
すぐに背後にいたリュートが俺を抱き抱えて支えてくれる。
思わず鼓動が高まる。
なんで?
こんな嫌な奴、他にいないのに!
俺は、足に力をいれてしっかりと立つとリュートの手を振りほどく。
「ありがとうございます、ラインズゲート侯爵様」
俺にそう呼ばれたリュートの金色の瞳が何かいいたげに細められた。
「女神の祝福を」
老神官がぼそっと呟いたと思ったら部屋の中に漂っていた俺の魔力が薄らぎ消えていく。
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