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第45話 領主代理

 5ー5 薬  その夜。  俺は、リュートの部屋に呼ばれていた。  正直、億劫だ。  俺は、自分の部屋でソファに座ってため息をついた。  「どうされましたか?アンリ様」  リトが問うので俺は、恨みがましい目でリトを見上げた。  「ラインズゲート侯爵に部屋に呼ばれているんだ」  「なるほど」  リトは、すぐに察したらしく俺にすっと小瓶を握らせる。  「これは、特別な筋の方から手に入れた薬です。これをラインズゲート侯爵に飲ませてください。そうすれば朝まで侯爵は目を覚ましません」  マジですか?  俺は、青色に輝く小瓶を光に透かして見た。  「ほんとに飲ませても安全な薬なのか?まさか、毒じゃ?」  「大丈夫です。実は、この薬を用意してくれたのはラトグリフさんですから。もし、アンリ様が慣れない旅の間に眠れなかったりした時のためにって用意してくださったんです」  そうなんだ!  俺は、心の中でラトグリフに感謝の言葉を告げていた。  けっこうきつい人だと思っていたけど、いい人なんだ!  王都に帰る時は、忘れずにラトグリフにお土産を用意しないとな!  俺は、小瓶を上着のポケットに忍ばせてリュートの部屋へと向かった。  ドアをノックすると入るようにと返事があったので、俺は、ドアをそっと開いて中を覗いた。  リュートは、ベッド脇の椅子に腰かけて酒を飲んでいた。  「側にきて」  俺は、リュートに促されておずおずと部屋に入っていく。  ドアが音をたてて閉まって一瞬、びくっとしてしまう。  リュートがクスクス笑った。  「そんなに怯えなくてもいいだろう?アンリ」  いや!  怯えますよ!  俺がリュートの側へと歩み寄るとリュートは、俺に膝に座るように命じた。  戸惑う俺の腕を掴むとリュートは、自分の方へと引き寄せる。  リュートの両足の間に引き込まれた俺を見上げてリュートが艶やかな笑みを浮かべた。  「今夜、やっとお前が私のものになるかと思うと嬉しいよ、アンリ」  「で、でも」  俺は、なんだか気恥ずかしくてリュートの目を見ることができなかった。  「明日は、クルシキに出発だし」  「わかっている」  リュートが頷く。  「今夜は、無理はさせないから安心しろ」  リュートに無理矢理膝に座らされた俺の口許にリュートが酒の入ったグラスを差し出す。  俺は、一口飲んだ。  うん。  やはり、美味しい。  前世でいうと梅酒みたいな味なんだが、なかなかうまい。  俺は、グラスの酒を飲み干すとにっこりと微笑んだ。  「じゃあ、俺から返杯を」  俺は、近くのテーブルに置かれていた酒の瓶を手にとるとそのグラスに注ぐ。もちろん、そっとリトから貰った薬を混ぜるのを忘れない。  俺は、罪悪感にどきどきしながらリュートにグラスを差し出した。  

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