86 / 111

第86話 黄金の小都

 9ー6 日常  昼食もかねた遅めの朝食を食べてから俺とリュートは、町へと降りていった。  町並みにそって水路があり澄んだ湧き水がさらさらと流れていた。  「おはようございます、ご領主様、旦那様」  屋敷を出て一番近くの家屋からライゾさんが顔を出した。  ライゾさんは、すぐに通りに駆け出してくると俺を輝く瞳で見つめる。  「お体の具合は、もう、よろしいのですか?ご領主様」  「う、うん」  俺は、あいまいに頷く。  ライゾさんは、疑うことを知らない純真そうな笑顔を俺に向けた。  「それは、よかったです」  「あの、家は、どうですか?使い勝手が悪いところはないですか?」  俺がきくとライゾさんがぱぁっと顔を輝かせる。  「素晴らしい家を造ってくださってありがとうございます。何より、水を汲みに行かなくてもいいのが助かります。それに、水洗トイレでしたか?あれは、いいものですね!それに風呂があるのもすごいです!わたしのようなものには、もったいない立派な家でございます!」  「ご領主様!」  近くの家々から領民たちが出てきていつの間にか俺たちは、回りを取り囲まれていた。  みな、口々に感謝の言葉を述べてくれたので俺は、嬉しくなっていた。  「午後からは、広場の方で家具を造ってみようかと思っているのですが、何か、希望はありますか?」  俺の問いにライゾさんがちょっと考え込む。  「材料を用意してくださったら、家具は、わたしどもで作らせてもらいますよ」  なんでも、それぞれの好みやら家の造りもあるので大工が作ってくれるとのことだった。  確かに、広場で作ってもそれぞれの家まで運ばなくてはいけないしな。  俺は、頷く。  「では、広場に木材を用意するから大工の方に製作は、お願いします」  俺は、いつものごとくリュートに抱かれての移動だったんだが、広場までライゾさんが一緒にきて、大工に紹介するといってくれた。  広場までの道筋では、通りを走り回って遊んでいる子供たちの姿も見られた。  ようやくクルシキの町にも普通の生活が戻ってきつつある。  広場につくとすでに数人の男たちが待っていた。  「紹介します。大工職人のヒトエとアラタ、それにオリベです」  「ご領主様」  オリベ君が走りよってくる。  ちらっと俺を抱いて運んでいるリュートを見て、もう一度、俺を見てうっすらと頬を赤らめる。  「それに……ご領主様の旦那様」  いや!  リュートは、俺の夫じゃないからね!  俺は、あくまでもグレイスフィールド伯爵の嫁なんだから。  まあ、夫である伯爵は、死んでしまったんだけど、俺は、別に再婚なんてしてないし!  俺の葛藤も知らずにリュートは、当然のことのような顔で頷いているし!  ともかく、俺は、家具に必要な木材をオリベ君たちから聞き出して造ることにした。  木材の『創造』は、思ったより魔力使用量が少なくて、俺は、ホッとしていた。  だって、このままだと、また今夜もリュートに抱かれることになるんじゃないかって思ってたからな。

ともだちにシェアしよう!