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第100話 故郷

 10ー10 温もり  冬が終わり、春が来る頃、俺とリュートは、ロゼス君の待つ王都へと戻ることになった。  俺とリュートは、協力してグレイスフィールド伯爵領の改革をしてきた。  グレイスフィールド伯爵領のほとんどを占めていた沼地も今では、立派な農地になり、米やらコウゾモドキやらの栽培をできるようになっている。  来るときに馬車が通りにくくて時間がかかった道も、レンガで舗装して通りやすくなっているし。  それに、クルシキでみつかった金鉱のおかげでグレイスフィールド伯爵領の財政は、無事に持ち直したしな。  こういったことは全てではないにしても半分ぐらいは、この辺りを守護するイキナムチのおかげだ。  俺は、王都への帰りの馬車の中でイキナムチが宿る短剣を忍ばせている上着の胸元を押さえてふっと微笑んだ。  イキナムチが依り代に選んだグレイスフィールド伯爵家の守り刀である短剣は、ロゼス君から俺が預かったものだ。  つまり、王都に戻ればロゼス君に返さなくてはならない。  もともとイキナムチは、あの地を離れることができなかった。  それは、ジポネスの始祖であるアララギとの約束が原因らしい。  にも関わらず、イキナムチが剣に宿ってまで土地を離れようとしたのは、なぜか。  イキナムチが領地を離れた理由は、俺には、はっきりとはわからない。  ただ。  俺は、『創造』の魔法を使った時に見た過去のことが忘れられないのだ。  300年前に滅んだという国、ジポネス。  そこに暮らしていた人々の思い出。  なにより、始祖であるアララギの記憶が俺の胸を締め付ける。  アララギに友と呼ばれた時のイキナムチの胸のつきつきした痛み。  それでも、もしかしたらイキナムチは、探しているのかもしれない。  死んだ筈のアララギのことを。  それ故に故郷を離れたかったのかもしれない。  「見つかるといいな」  俺は、そっと呟いた。  リュートが怪訝そうな顔をして俺を見つめる。  「何が?」  「なんでも、ないです」  俺は、リュートを見て微笑んだ。  リュートは、はっとした様子で俺のことを見つめていたが、やがて視線をそらした。  「ならいいが」  リュートは、俺を見ずに話した。  「この先、お前にとっては辛いことが待っているかもしれないからな。だが、忘れるな。いつも、私がともにあることを」  俺は、頷いた。  俺たちは、どちらからともなくお互いの手を握りあっていた。  俺は。  この温もりがあれば、何とだって戦えると思っていた。  

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