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第101話 継母冥利につきますな!

 11ー1 王都の春  2ヶ月ぶりの王都は、もう、春真っ只中だった。  王都の城壁をくぐると町のあちこちにピンク色のモーズの花が飾られていた。  小さな花弁がいくつも集まっているモーズの花は、マクシーナ王国の春を象徴する花だ。  この花が咲くと王都は、春の女神の祭りがやってくる。  春の女神とは、豊穣の女神ラザの別名だ。  俺は、イキナムチが米のことでラザのことも奉るようにといっていたことを思い出す。  「グレイスフィールド伯爵領でもラザのお祭りをしているでしょうか?」  馬車の中で揺られながら俺がきくとリュートは、口許に笑みを浮かべた。  「そうだな」  グレイスフィールド伯爵領は、王都より北にあり、少しだけ春が遅い。  俺たちが領地を出る頃には、まだモーズの花は、固い蕾だった。  俺は、領地の祭りに参加できなかったことが心残りだった。  というか、俺は、王都の春の女神の祭りもろくに参加したことなんてないし。  俺は、いつもロートルワーズ子爵家で使用人と同じように働かされてたからな。  屋敷で働いてないときは、外で小遣い稼ぎしてたし。  俺は、久しぶりにランドリンを弾きたくなっていた。  リュートは。  俺が奏でるランドリンの音色が気に入るだろうか?  俺は、王都のグレイスフィールド伯爵家の屋敷に向かう馬車の中でおずおずとリュートにお願いをしてみる。  「あの……リュート様」  「なんだ?アンリ」  リュートの金色の瞳が俺を正面から見つめる。俺は、なかなか言いにくくてもじもじしてしまった。  だって、楽器みたいな高価なものをおねだりするなんて、なんかはしたないかも。  それでも俺は、思いきって言ってみることにする。  「あの、俺に、ランドリン、を買っていただけないでしょうか」  「ランドリン?」  リュートが怪訝そうな顔をする。  「そんなもの、どうするんだ?」  「俺が、演奏するんです」  俺は、子供の頃から下町の酒場で楽団のみんなと一緒にランドリンを演奏していたことをリュートに話した。  リュートは、俺の話を無言できいていたが、すぐに頷く。  「グレイスフィールド伯爵家に戻ったらすぐに商人を呼ぶ!」  快く俺のおねだりを聞いてくれたリュートに俺は、嬉しくて微笑みかける。  「ありがとうございます、リュート様」  一瞬。  リュートが固まった。  そして、リュートは、頬をうっすらと赤く染めて視線をそらす。  「礼なんかいらん。私が聞きたいだけだ」  はいっ?  俺は、リュートのことをじぃっと見つめる。リュートは、頬を赤らめたまま、馬車の外を眺めていた。  俺は。  リュートの言葉が嬉しくて。  でも。  ここしばらくは、ランドリンを弾いてないのでなんか、心配になる。  俺、ちゃんとリュートの前で演奏できるのかな?  俺がうつ向いているとぽん、とリュートが俺の頭を撫でる。  「上手かろうが下手だろうが、関係ないんだ。お前が弾くランドリンが聞きたいんだ」  俺は。  なんだか顔が熱くてリュートのこと、見られなかった。

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