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第14話
目が覚めたとき、まだほんのりと空が白んでいた。
見慣れた天井。
見慣れた天蓋。
カイルの部屋だ。
そう思い出した瞬間、昨夜のことが一気に胸に押し寄せてきた。
怒鳴って、泣いて、カイルに言ってしまった。ひどいとか、勘違いしそうになるとか。
でも……
「お前以外に、いるわけないだろ」
って…言われたんだっけ…
思い出すだけで、布団に顔を埋めたくなる。嬉しくて、照れくさくて、信じられなくて。
寝返りを打とうとしたら、抱き寄せられた。
「う、うわぁぁぁあ!」
「お前…驚きすぎ。ムードないな」
まわされた腕の感触があまりに自然だった。マイロは驚き、しばし固まった。
「え、ちょ、なにして……」
「お前が寝返り打っただけだろ」
「いやいやいや、抱き寄せたじゃん今!」
「だから。寝返りで逃げそうだったから、引き寄せた」
「それを、抱き寄せたって言うんだよ!」
カイルは少し困ったように、でもどこか嬉しそうに笑った。
「……だって、お前。すぐどっか行くから」
「行かないし!もう行かないってば!」
「じゃあ、もっと近くにいろよ。せっかく戻ってきたんだから」
そう言いながら、カイルの指がマイロの髪をそっと梳いた。まるで大事な宝物を扱うように、ゆっくりと、優しく。
「お前の髪、柔らかいな。……昨日、濡れたままだったぞ。風邪引くから気をつけろよ」
「……ん、ありがと。っていうかっ!……う〜っ…なんかもう……やだ、照れる」
「照れてる顔もかわいい」
「はっ!? ばっ、バカカイル!やめろってば!!」
「やめない」
さらっとした声で、当たり前のようにそう言って、カイルはマイロの額にキスを落とした。
「ちょ、ちょっ……今の、なに!?」
「は? おはようのキスだけど」
「もううう、やだあああああ!!!」
恥ずかしさから、布団に潜ろうとするマイロをぐっと抱き寄せて、カイルは耳元で低く囁いた。
「マイロ。俺はお前の全部が好きなんだよ」
「……う、うるさい……」
「声が可愛い。寝起きでぼんやりしてるのも可愛い。今まで見ないように気をつけていた。よくここまで我慢できていたのか、自分でも不思議なくらいだ」
マイロは顔を真っ赤にして、布団の中にずぶずぶ沈んでいった。
「好きだ……マイロ」
朝の静けさの中、耳元で囁かれるその言葉に、マイロの身体がふわりと力を抜く。
優しい声。熱を帯びた吐息。そのすべてに、芯まで溶かされそうになる。
マイロは、少しだけためらってから、小さな声で返した。
「……俺だって……好きだけど」
ベッドの中に沈黙が落ちる。ぶっきらぼうに返したその声が、まるでこの空間にだけ響いているような気がした。
やがて、ふっとカイルが微笑む。
「ふふ……わかった。でも、俺のほうが、もっと好きだけどな」
そう言って、ぐっと抱き寄せられる。
抵抗なんてできるはずもない。マイロの体から、すっかり力が抜けていた。
カイルの腕の中で、ただぬくもりに包まれている。それだけで、何もかもどうでもよくなるような気がした。
「……俺、もう無理。死ぬ。絶対今日、王宮でニヤつく。動揺する。絶対バレる」
「もうバレてもいいだろ。陛下なんか、たぶんもう知ってるだろうし」
「……はああ!? 知ってるって、何それ!? 陛下が!?」
「そりゃあ、陛下は俺の気持ち、だいぶ前から察してた。『早く口説け』って、散々言われてたしな」
さらっと、またとんでもないことを言ってのけるこの男……こんなに甘いカイルなんて、知らなかった。
「それより……ちゃんとキス、させろよ」
「へっ? は、はぁ……?」
「昨日は、気持ちが通じ合ったと思ったのに…お前、キャパオーバーで寝ただろ?」
「だ、だって! びっくりしたんだよ、しょうがないだろ!」
「お前、ほんと可愛いよな。『うーん、うーん』って寝ながらうなされてて……どんだけ動揺してんだか」
はははと、カイルは機嫌よく笑っている。寝ている間のことなんて言われても、わからないから答えようがない。
「いいから……ほら、顔。見せて」
「えっ……」
ちゅ、と軽く唇が触れる。マイロが固まっていると、カイルは小さく笑って、またキスを落とす。
ちゅ、ちゅ、と何度も音を立てて、今度は角度を変えて、少しずつ深くなる。
そのたびに、胸の奥がどんどん熱くなっていく。
「……っ、はぁ……く、苦しい……」
「ふふ……こんなもんじゃないぞ。これから覚悟しとけよ?」
「やっ、やめっ、バカカイル!!」
顔を真っ赤にしながら、布団に潜ろうとする。でも、カイルは逃がしてくれなかった。
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