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第17話
「うわあ〜、そうなんだぁ!二人は本当にお似合いだよ。おめでとう、マイロ!」
しどろもどろになりながらも、どうにか二人の馴れ初めをチルに伝えきった。
チルは目を輝かせながら、手をぱんっと叩いて喜んでくれた。
「何となく、マイロはカイルさんのこと好きなのかもな〜って思ってたけど、カイルさんもだとは…! 驚いた〜。でも、そんなに幸せそうなのに、何に悩むの?」
そう言われ、マイロはぽつぽつと本音を語り出した。
カイルはいつも先を見ていて、マイロの心を丁寧にケアしてくれる。
落ち込んだときは黙ってそばにいて、元気なときは容赦なく構ってくる。
頼りになるのはマイロだけじゃない。王宮中の誰もが、カイルを信頼している。
「……でもさ、俺、カイルから受け取ってばっかで、何も返せてないんだよ。チルみたいに、陛下のために何かやれてるわけじゃないしさ」
そう口に出したとき、自分でも、うじうじしてるとわかっていた。でも、心の奥から出てきた言葉だった。
するとチルは、少し驚いたように目を丸くして、それからゆっくり微笑んだ。
「……カイルさん、マイロのこと、ちゃんと見てると思うよ。マイロが気づいてないだけで、きっと、いろんなことがもう伝わってる」
チルはふわっと微笑んで言葉を続ける。
「マイロが言葉にしない気持ちとか、さりげない行動とか。そういうの、カイルさんは絶対に見逃さない人だから」
「え?」
「だって、マイロは優しくて、まっすぐで、大切にしてくれる。私のことも、ちゃんと人として大事にしてくれた。心を守ってくれたよ。それって、本当にすごいことだよ?王宮にいると、それがどれだけ特別か、よくわかるんだ」
そういえば、以前同じことをカイルに言われたのを思い出す。
『支えるってのは、剣を振るうことだけじゃない。心を守るのも、立派な護衛の仕事だ』と……
少し黙ってから、チルは言葉を続けた。
「マイロの明るさは、みんなの救いだよ。ジークも、私も、そしてたぶん……カイルさんも。そばにいてくれるだけで安心する。だから、カイルさん、マイロのこと誇りに思ってると思う」
マイロは黙ってそれを聞いていた。胸の奥に、ゆっくりと温かいものが広がっていく。
「返すとか…そんなのじゃないと思う。だって、マイロにしか出来ないことやってるんだもん!」
「そ、そうかな…俺も……チルと陛下みたいに、カイルの隣に立てるかな…」
そう言うと、チルはにっこりと笑って言った。
「もう、立ってるよ?」
マイロは、はっとしてチルを見た。
「マイロはね、自分で思ってるよりずっと、人の力になってる。気づかれない場所で、誰かの気持ちを軽くしてる。……それって、王妃の私にも、なかなかできないことだと思う」
少しだけ照れくさそうに、でも誇らしげにチルは続けて言ってくれた。
「だから、自信持って。ちゃんとマイロにしかできないことをやって、カイルさんの隣に立ってるんだって。それって、すごく特別なことだよ?」
でも、その笑顔を見て、すとんと納得してしまう。
「……ありがとう、チル」
チルに言われて少しだけ自信がついた。
本音を、チルに聞いてもらって良かったと思う。
けれどその後は、案の定、チルの関心はカイルの溺愛のほうに急転直下した。
「じゃあさ…今、カイルさんと一緒に暮らしてるんだね?ってことは……カイルさんも、家ではすごく……構ってくる?」
「そうなんだよ…もう、めちゃくちゃ、すっごいよ。何するにもすぐ手出してくるし、ずっと視線が刺さってるし」
「うわぁ…やっぱりみんなそうなのか…でも、すっごくわかる〜!ジークもそうなの!『チル〜どこ行くの?』『チル、手出して』って、いっつもくっついてきて……ふふ、私、気づいたら抱っこされてることあるもん」
「やっぱり!? うわ〜、そっちもか〜…!陛下ってば、さすが溺愛だな……」
マイロは頬をかきながら、ちょっと笑って続けた。
「カイルも朝がほんっっとに大変でさ……寝起きなのにめっちゃ力強いし、こっちは支度しなきゃいけないのに、全然離してくれないんだよ……!」
「それそれ!ジークも朝はダメ。たまに『今日は休みだ』って宣言するよ?全然休みじゃないのに!」
「あ〜…カイルが困ってたわ、それ。『陛下、また勝手に休みって言ってる』って」
ふたりで盛大に笑い合っていると、チルがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、明後日から三連休だよね。ジークが作った国民の祝日」
「……あ! そうだ!」
マイロはふと何かを思い出し、ぽつりと呟いた。
「あいつさ、今度の休みは……『覚悟しとけよ』って言ってたんだった……」
まるで自分に言い聞かせるような声だった。けれど、その一言に、隣にいたチルが小さく息をのむ。
「マイロ……それって、…さ」
「えっ…?」
ふたりで顔を見合わせ、じわじわと頬が赤く染まっていく。
く、来るのかも…とうとう……!
___静かに訪れる三連休。果たして、何が来るのか……
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