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第21話
朝日がゆっくりと差し込む。
マイロはまどろみの中で、何かが頬に触れていることに気づいた。
指だ。
カイルの指が、そっと頬をなぞっている。
「……もう朝……?」
声を出した瞬間、自分の声が掠れていることに気づいて驚く。昨日、あれだけ激しく求められたせいだろう。
「……喉…大丈夫か?」
カイルがベッドの隣で身を起こし、低く優しい声で問いかけ、心配そうにのぞき込んでくる。
「……いや、これ、誰のせいだよ」
マイロは小さく呟いた。カイルの優しい声にまた体温が上がっていくのが自分でもわかって、余計に腹立たしい。
そう答えながら、マイロはそっと布団を引き寄せて顔を半分隠した。
カイルは、そんなマイロの仕草に、ふっと笑って、そっと額にキスを落とす。
「お前が可愛すぎて我慢できないからなぁ」
「……なにが……っ、また朝から……!」
マイロが慌てて布団を引き上げようとすると、その手首を掴まれて、くいっと引き寄せられた。
「昨日あんなに可愛い顔しておいて、今さら抵抗すんなよ」
「う、うるさいっ……!」
マイロの頬は真っ赤だ。
その反応で、またカイルは低く笑う。
「マイロが悪い。隣で無防備に寝てるから、こっちは抑えられない」
「……ちょっとは理性持ってくれよ……!」
「無理だろ。俺の理性は昨日、お前が全部溶かした」
「なっ……ば、バカ!」
そう言いながら、マイロは布団を引き上げて顔を隠す。するとすかさず、カイルがその布団越しに頬をつついてくる。
「顔、隠すなよ。……見せて」
「やだ。どうせ変な顔してるもん」
「うん、してるな。寝起きの顔、ちょっとふにゃっとしてて……すごく可愛いぞ」
「うっさい!」
布団の中でバサバサ暴れるマイロを、カイルはお構いなしに引き寄せて、またキスをひとつ落とした。
「マイロのそういうとこが好きだ。恥ずかしがるのも、むすっとするのも、ぜんぶ」
「……調子いいこと言って、またその気になってるだろ」
「なってる」
即答。しかも堂々と。
「ばか……朝だぞ……!」
「朝だからだろ?一日の始まりが、お前の声と顔なんて最高じゃないか」
「やめろって言ってるのに……」
「やめない。好きなやつには、やさしくして、触れたくなって、抱きしめたくなるもんだろ?」
そう言いながら、カイルの腕がまたマイロの背中を撫でてくる。
「……ぅ……またそんな……」
カイルにぎゅっと抱き寄せられ、耳元でそっと囁かれる。
「朝のもう一回……だめか?」
耳元で囁かれた声は低くてやさしいのに、背中に回された腕の力だけが、少しだけ強くなる。
「……しつこい……」
マイロがぼそりと呟いても、返ってくるのは「うん、知ってる」という満足げな返事。
カイルは、マイロの額にコツンと額を寄せてくる。くすぐったい距離で、真っすぐに目を合わせてきた。
「マイロが可愛いのが悪い。ちょっと声が掠れてるとこも、頬が赤いのも……全部、俺のせいだと思うと、もう一回したくなる」
「……お前、自分で言ってて恥ずかしくないの……?」
「全然、恥ずかしくない」
あっさり言い切るカイルに、マイロは布団をかぶって逃げようとする。
でもその動きを予測していたように、カイルは布団の端をすっと引いて、隙間からするりと顔を滑り込ませてきた。
「逃げるなって。せっかくの朝だぞ。二度寝より、気持ちいいことしよう」
「な、なにその口説き文句……」
「本音だ。いいだろ?」
そう言って、マイロの首筋にふわりとキスを落とす。そこから耳元、鎖骨の辺りへと、キスは次第に熱を帯びていく。
「……ん、ちょ、ま、まって……!」
「待たない。マイロ、好きって言ったろ?」
「それは……っ、昨日だろ!その…そういう時の続きみたいなもんで……!」
「じゃあ、続きをしよう」
マイロの体を優しく押し倒し、カイルの手が布団の中へ滑り込む。指先が肌の上を辿るたびに、くすぐったくて甘い吐息が漏れる。
「……カイル、だから…朝だから……っ」
「朝でも、夜でも、お前が好き」
「……もぅ……」
顔をそらしながらも、マイロの手がそっとカイルの肩を掴んでいた。
「……キス、していい?」
こくりと小さくうなずくと、カイルはそっと顔を寄せてくる。唇が重なるのは、何度目だろう。でも、こうして触れるたびに、胸の奥がじんわりと熱を持つ。
ぴたりと密着した体温。唇を重ねて、息を交換して。それだけで、じゅうぶん満たされていく。
「……マイロ」
低く囁くような声が耳をくすぐる。その声に応えるように、マイロは自分からもう一度、唇を重ねた。
静かに、深く、甘く。
それは、体の境界がとけあっていくようなキスだと思う。
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