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番外編 ジーク
その朝、王宮内は不穏な緊張感に包まれていた。
「至急、確認を!広間で不審な箱を発見しました!」
「隊長、それっ…… 動いていますっ!」
「チル様には避難を!」
ドタバタと騎士たちが走り回るなか、カイルはため息をひとつついて、マイロに目配せする。
「……また、陛下だろ」
「今回はどんな仕掛けなんだよ……」
広間の中央には、煌びやかなリボンがかけられた謎の大箱。しかも、動いている。
ごとっ、ごとっ、と不定期に揺れているのが不気味さに拍車をかけていた。
「開けるぞ!」
勇気ある騎士のひとりが、剣を抜いてリボンをばしっと切った…その瞬間。
「チル、愛してるぞーーーー!!!」
ボワッと煙が上がり、中から飛び出してきたのは、大量の真紅のバラの花束と、録音されたジークの叫び声だった。
その声が反響する中、ぱんっ、ぱんっとクラッカーのような音が立て続けに響き、天井からは赤い花びらがふわりふわりと舞い降りてきた。
「え、ちょ……」
動きが固まったのはここにいる全員である中、静寂を破るように、遠くからパタ、パタと足音が駆けてくる。
バラの花道の向こうから現れたのは、真っ赤な顔のチル。
袖で頬を押さえながら小走りでやってきて、ぴたっと立ち止まると、少し息を切らしながら、その場で固まっている皆に向かって深々と頭を下げた。
「……やっぱり」
「陛下ぁああああああああ!!!!!」
侍女たちは騒然、騎士たちは頭を抱え始めた。マイロはそれを見て盛大に吹き出した。
「ま、またやったな……あの人……」
「こないだの結婚式のサプライズと同レベルだな」
カイルは苦笑いをしながら、頭の上を見上げている。ふわふわと降ってくる真紅の花びらが、思いのほか幻想的だった。
「……どうして毎回、あんなに全力なんだ。サプライズに」
その時、ふと背後に気配があり、振り返ると、いつの間にかジークが立っていた。どうやら、最初からここで一緒に様子をうかがっていたらしい。
「……うん。今回も完璧。だが、チルがサプライズの瞬間を見てなかった……ちょっと失敗だったか」
「……陛下、いい加減にしてください」
カイルが言うと、ジークは「おっと」と、わざとらしく眉をひそめる。
「驚かせたかったんだ。チルはモーリス爺が帰ってから、少し元気なかったし」
「お気持ちは分かりますが、せめて爆発音は外してください」
「そうか。次はもうちょっと静かなやつにする」
「次がある前提で話さないでください」
そんなやり取りのさなか、チルがジークの姿を見つけて、真っ赤な顔のまま小走りで近づいてきた。
「ジ、ジークっ! み、皆さんが驚いてます! 花びらが、しかも……あの煙っ!」
「でも、喜んでくれただろ? ……ただ、サプライズなのに、チルが見てなかったのが残念だった」
「っ……も、もう〜〜……!」
顔を真っ赤に染めたチルは、恥ずかしさに耐えきれず、ぱたぱたとその場を走り去っていった。
その背中を見送りながら、ジークは小さく息を吐き、どこか誇らしげに呟いた。
「……かわいいな、ほんとに」
その場にいた全員が一瞬固まり、そして、言葉を失った。何も言えない、というより、言う気力も残っていなかった。
そんな中、隣で控えていたカイルだけが、静かに口を開いた。
「……陛下、そろそろチル様に本気で怒られるのでは?」
ジークはキョトンと目を瞬かせた。
「は? なんで?」
「お気づきでないなら、さらに問題です」
冷静なひと言に、ジークは肩をすくめて苦笑した。
「……うーん、サプライズって、難しいな」
「そういう問題ではありません」
ぴしゃりと返されたジークが、頭をかくように視線を逸らすころには、周囲の騎士たちも思わず笑みをこぼしていた。
end
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