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番外編 カイル※
喉の渇きを感じて、静かに目を覚ました。
昨夜はジークに誘われて、久々にふたりで酒を酌み交わした。言いたいことを言い合い、懐かしい話で盛り上がった結果、二人はかなり酔っていたと思う。おかげで帰宅はずいぶん遅くなってしまった。
部屋に戻ったときには、すでにマイロは寝息を立てていた。だから、そっと額にキスだけ落として、自分も隣に滑り込んだのだった。
今もマイロはベッドで眠っている。
その寝顔を横目に見ながら、音を立てないように起きて、キッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて、ボトルから冷たい水をひと口。
まだ外は暗い。早朝の空気はひんやりしていて、もう一度寝てもいいかと思っていたところだった。
「……カイル」
背後から、軽く、ぽんっと抱きつかれる。
「どうした?……悪い、起こしたか?」
寝ていたはずのマイロから、眠たげな声で呼ばれる。気配で起きたのか、キッチンまで追いかけてきたようだ。
「……昨日、何時に帰ってきた?」
少し拗ねたようなトーン。わかりやすく不機嫌なマイロに、カイルは小さく笑い答える。
「ジーク陛下と飲んでたんだ。久しぶりでな。……0時はとっくに過ぎてたと思う」
そのままマイロを正面に向かせ、ゆるく腕を回す。するとマイロは、トン、ともう一度、甘えるように抱きついてくる。
……めずらしい。どうやら、ちょっと拗ねているだけじゃなさそうだ。
「……ごめんな。寂しかったか?」
返事はなかった。
カイルは静かにマイロの額に唇を落とした。目を閉じたままのマイロに、まるで呼吸を合わせるように、やわらかく、何度も啄むようなキスを繰り返す。
唇が触れるたびに、マイロの表情がわずかに揺れる。その反応が愛しくて、もっと触れていたくなる。
そっと唇を滑らせていくと、マイロも少しだけ顔を上げた。
唇を重ねる。重なる唇の奥で、舌がふれるたびに、熱がゆっくり、でも確実に溶け合っていく。
「……ん、んっ……ふぅ…」
息がもれるたび、キスは深くなっていった。
「そんな声、出すなよ。……止まらなくなる」
カイルはマイロの腰を抱き上げ、そっとキッチン台に座らせた。
そのまま、服の裾に手をかけ、Tシャツを脱がす。マイロは、目を逸らすことも、抗うこともせず、静かにされるがままになっていた。
マイロのTシャツを脱がせ、カイルはじっと見つめた。その視線に、マイロは眉をひそめている。
「……な、なんだよ」
「いや。こんな朝から可愛いなって思ってただけ」
「っ、バカ……!」
マイロが顔をそむけようとすると、カイルはくすっと笑って、首筋にキスを落とす。
「顔、逸らすな。もったいないだろ?」
「もったいないってなにが……!」
「せっかく気持ちよさそうな顔してるのに、俺しか見れないなんて贅沢すぎる」
「……っ! 意地悪……!」
耳まで赤くなったマイロに、カイルは機嫌よく笑った。
「意地悪されるの、そんなに嫌か?」
「うるさい……」
そう言いつつも、マイロの腕はカイルの背中に回す。
「嫌じゃないなら、もっと見せて。俺だけに」
カイルの低く甘い声は、熱を孕みマイロの耳元に落とす。
唇が触れては離れ、またすぐに重なる。頬に、額に、まぶたに。マイロの全身に、雨粒が降りそそぐように、キスをこぼしていく。
「……どこにそんなにキスすんの……」
小さな抗議にも、カイルは構わずまたひとつ落として、微笑んだ。
「足りないから、もっとさせてくれ」
そう言って、またキスの雨を降らせる。
カイルの手が、マイロの腰の後ろにそっと回り込む。指先が触れたそこは、すでに熱く、やわらかく湿っていた。ゆっくりと触れるたび、マイロの身体がわずかに跳ねる。
「……準備、してたのか?」
低く囁くカイルの声に、マイロは顔をそむけながら、かすれた声で返す。
「……うる、さい……」
「……ひとりでやらせて、悪かったな」
囁く声に、マイロは小さく抗議の言葉を落とす。
「……ばか……っ、あ、んっ」
肌と肌がぴたりと重なり、息がかかる距離になる。カイルの手が、マイロの敏感な部分をなぞり、深く擦り上げる。
くちゅくちゅと湿った音が響くたびに、マイロの喉からふっと漏れる声があった。
「……ここ、触ると……すぐ声出るな。気持ちいいのか?」
指先が同じ場所をゆっくり、何度も解すように擦り上げる。
「や、やだ……っ、てば……」
そう言うくせに、マイロの手はカイルの肩をきゅっと掴んでいた。突き放すことも、止めることもできないままだ。
「ほんと、かわいいな……止まらなくなる…もっと甘えていいんだぞ、マイロ」
カイルの指は執拗に、やさしく、だけど逃さないように深く触れていく。
マイロの太ももをそっと開かせると、ひんやりとした肌に触れる。けれど、その奥はすでにやわらかく濡れていて、熱が指先にまで伝わってくる。
くちゅ、と音を立ててそこから指を引き抜き、代わりに自分の熱をあてがう。
硬く滾るそれが触れた瞬間、マイロの身体がピクリと跳ねた。
「……肌が冷たい。でも、ここは……熱い」
低く囁きながら、カイルはぐぐっと腰を押し付ける。硬く滾るそれを、ゆっくり、けれど深く。
「…っ……あ、ああっ……」
苦しげとも、快感ともつかない声を漏らしながら、マイロは両腕を伸ばし、カイルにしがみついてくる。爪先がぎゅっと丸まり、二人の身体がぴたりと密着した。
既に濡れているそこが、腰を動かすたびに、ぐしゅっと音を立てている。硬く滾るものを奥まで押し込めた。
「……全部、飲み込んでくれて、偉いな」
優しく褒めるその声に、マイロは息を詰めるように顔を背ける。
「はっ、ああ、っ……ん、んんっ……」
腰を大きく回すと、マイロは声を上げた。キッチンに朝の光が差し込む中、ふたりだけの濃密な時間が流れていく。
「……マイロの声、朝から俺だけに聞かせてくれ」
その囁きとともに、奥まできゅう、と締めつけられる感覚にカイルがわずかに息を吐いた。
「中で締めつけてくるの……可愛すぎるんだけど……」
「ふぁ…あ、はぁ…」
マイロの声が震えていた。その声を聞くと、理性を保とうとしながらも、カイルは興奮を隠しきれない。
「もうちょっとしていいか?」
「……ここで、するの?」
かすれた声で尋ねたマイロに、カイルは唇を耳元に寄せ、低く囁いた。
「……止まれないから、ここでする」
その声だけで、マイロは声を上げた。腰をゆっくりと揺らす。
キッチン台に寝かせ、上から覆い被さる。興奮が止まらなくなってきた。マイロは気持ちよさそうな泣き顔を見せる。
「……マイロ、可愛すぎて……ずるい」
そう呟きながら、頬に、額に、口元に、優しく口づけを落とす。マイロは目を細め、甘えるようにカイルの肩に額を寄せ、吐息が重なる。
「…ああ、止まらない。気持ちいい……マイロ、俺につかまれ」
腰を前後に動かしながら耳元でそう伝える。
「あ、あ、カ…イル…落ちちゃう…」
「大丈夫…だ…落とさないから」
キッチン台がガタガタと音を立てている。不安定な場所は、むしろ興奮を増すばかりだった。マイロの背中が小さく跳ねるたび、金属の脚がきしむように揺れて、それすらもふたりの熱に拍車をかけていく。
「……っ、カイル、音……っ、鳴って……!」
「いいじゃないか。俺らしかいないんだ。誰にも見せない、マイロだけの顔……今、独り占めしてるんだ」
耳元でささやくと、マイロの身体がピクリと震える。キッチンという生活の場所で、まるで世界にふたりしかいないかのような甘く濃密な空間。
「…やっ、やぁぁ…い、いく…」
マイロの絶頂が近い。ピュクッと音を立てるように精子を漏らしている。そんな姿を見ると興奮してしまう。
「マイロ…いくぞ…つかまってろ」
一段と激しく腰を打ちつける。ぐちゃぐちゃという粘膜の音とともに、水飛沫が小さく弾けるように散った。
熱と熱がぶつかるたび、台の上でマイロの身体が小刻みに揺れる。息が詰まりそうなほど深く突き上げると、マイロの指がカイルの背にしがみついた。
「……っ、は、あ、ああっ……!」
その声にますます興奮したように、カイルはさらに奥へと深く踏み込んでいく。
「…出すぞ……っ、く、っ…」
「…っ、はぁ、、っんん…」
数度、腰を深く押し込むように強く打ちつけるたび、奥の壁にビシャっと叩きつけた。熱く滾るものは、まだドクドクと波を打ち、収まる気配がない。
「……熱い」
どくんとした熱が届く感覚だろうか。繋がったまま、マイロの身体が震え、小さく答えていた。
「マイロ…続きはあっちでな。もう少し付き合ってもらおうか」
「…えっ?あっち?」
「そう、ベッドルーム」
キッチン台に横たわるマイロの身体を、そっと腕に抱き上げる。頬を撫で、口づける。唇が重なるたびに、マイロの腕が首に絡まる。
そのまま、落ちそうになる熱を抱きしめるようにして、カイルはベッドルームへと向かう。
「う、うそ!このまま?え、えっ?」
「大丈夫だって。このまま抱きついてろ」
「や、やぁ…ん……ぬ…抜いてよ…」
「ダメ。ほら、繋がったままだと気持ちいいだろ?」
マイロを抱え直し、密着した身体をさらに強く引き寄せる。そのまま、下から上へとゆっくりと腰を突き上げた。マイロの身体がぴくりと震え、熱がふたりの間で深く絡まっていく。
「ひゃ……っ!なんで…また…硬い…」
「そりゃぁ…お前の中が気持ちいいからだろ」
「……ん、んっ…もう…だめだって…ああ、う、動かないで…」
「許せ…誘ったお前が悪い。責任取ってくれ」
キッチンに朝の光が差し込む中、ゆったりと揺れる歩調で、カイルはマイロを抱えたままベッドルームへと向かう。
腕の中で身を預ける恋人のぬくもりに微笑みながら、そっと囁いた。
「……今日は一日中、お前だけ可愛がるって決めたからな」
マイロの耳がほんのり赤く染まる。
その様子に満足そうに目を細めながら、カイルはそっと扉を閉めた。
甘く、やさしい朝は、まだふたりだけの時間をたっぷりと残している。
end
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