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第7話*
――ガタン!
そのとき、馬車が大きく揺れて止まった。伯爵は慌てて外の様子を窺おうとしたが、その前に扉が開け放たれる。
見なくてもわかる。そこにいるのはおれの番だ。
「まるすさま……まるすさまぁ!」
「この香り……!待ってろ、すぐ片付ける」
おれは泣きじゃくったぐしゃぐしゃの顔でマウォルス様に縋ろうとした。伯爵のことなんて、もう頭から飛んでいる。
「おい、ちょっと待て。ほんとにお前が噛んだのか……?ま、待て待て!その剣を収めろ!父親に剣を向けるのか!」
「あなたこそ、そのみっともないものを仕舞ってください。人の番に手をつけようとするなんて、しかも傷をつけるなんて、どんな悪事よりも罪深い」
顔は似ているが体格が圧倒的に違う。マウォルス様は父親をあっさりと昏倒させ、おれを着ていた上着でくるんでから抱き上げた。
番の香りに包まれると、途端に安心して幸せな心地になる。
「ね、はやく……」
「ジューノ、頬が腫れてる!殴られたのか……くそっ。大丈夫なのか!?しかもどうしていま発情期に……。ああそうか、薬はあいつの常套手段だ。番にしておいてよかった……」
「まるすさまぁ!はやく!」
「わ、わかったから。怒らないでくれ」
「う、うぅ……」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくるから、おれもマウォルス様の首に抱きついて顔を擦りつけた。ついでに腰も押し付けてアピールする。
マウォルス様の腕の中にいるだけで、なぜかまた涙が溢れた。
マウォルス様はおれを抱えたまま馬で駆け、あっという間に屋敷まで帰ってきた。ぐずるおれを宥めながら出迎えた使用人に指示を出し、殴られた顔の手当てをしようとする。確かに痛い。けど、身体の疼きの方がひどい。
おれは無意識に抵抗してマウォルス様を困らせていた。早くって言ってるのに、マウォルス様はなにをもたもたしてんの?
目線で使用人を下がらせたあと、寝台の上でマウォルス様はおれの服を脱がせた。早くしてほしくて、仰向けで自ら脚を広げる。
「ジューノ、性急で悪いが、いくぞ」
「あぁぁ!まるす、さま……きて、るッ。あ、イッちゃ……!」
後孔の柔らかさを指で確認したあと、マウォルス様は愛液の滑りを利用して猛りをねじり込んできた。さすがにいつもより抵抗がある。
狭い隘路をめりめりと広げながら侵入してくるペニス……それでも苦しさよりも快感が上回った。
奥まで到達したとき、おれは押し出されるように射精していた。
びくびくと腔内にある熱を締めつけながら精を強請れば、マウォルス様はためらうことなく抽送を早め、中で達してくれた。
「あ、あ、あ……きもちぃぃ……もっと……」
子種を注がれる快感におれは恍惚とし、続きを急かす。それでも少し落ち着いたのを見計らって、マウォルス様はサイドテーブルに置いてあった冷湿布をおれの頬に貼り付けた。
つめたくてきもちいい。
「まるす、さま……ありがと。助けにきてくれて、うれしかったぁ」
「ジューノ……」
「おれ、まるすさまじゃないと嫌だ……」
両手を広げて番を呼べば、強く抱きしめられる。そのまま起き上がらせてもらい、マウォルス様の腰の上に乗ったまま全身で抱きついた。
この厚くて逞しい身体がたまらなく愛おしい。
未だ後孔に埋まっているものをキュッと締め付けると、瞬く間に硬度を取りもどし、おれは快感に喘いだ。
大きな手で頭を支えられ、唇が重なる。すかさず舌が滑り込んできて、おれの舌を吸った。上も下も絡み合い、全身で繋がってるみたいだ。
優しく揺らされ、深くまで入り込んだ亀頭がおれの結腸口にキスをする。そこは番の訪問に喜んで蕩け、たやすく侵入を許した。
「んっ?――!~~~~~!」
言葉にならない叫びをキスが吸い取った。激しい絶頂による浮遊感に、マウォルス様に強くしがみつく。子宮が疼いている気がする。おれの内部はマウォルス様の半身に甘え、吸い付いてさらなる子種を強請っている。
「あっ、あん!もうだめ……う、うごかないでぇ。、おかしくなっちゃう……!」
マウォルス様はずっと優しく揺らしているだけなのに、おれは何度も達し、ガクガクと痙攣し、強すぎる快感に涙を流した。
プラチナブロンドの髪はおれが指を差し込むせいでぐしゃぐしゃだ。間近で見上げると、獰猛な熱を孕んだ瞳と目が合う。
――あぁ、この人に孕ませられたい。
自然とそう思った。
二度目にマウォルス様が達してからの記憶はほとんどない。
かすかな物音に目が覚めたのは明け方だった。まだ眠い。薄暗いなか、寝台から降りようとするマウォルス様に気づいて服の裾を掴んだ。
「ん……まうぉるすさま、待って……ひとりで起きるの、さびし……」
「――!」
おれの意識はそこで途切れ、また眠ってしまう。それでも温かい身体にふたたび包まれて、しあわせだった。
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