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第21話

ジャカジャカと音楽が鳴り響き、ストリッパー達が優雅に服を脱ぎ捨てている。俺はジャックの上、では無く1人用のソファに座り、明日提出の課題と向き合っている。 「ふふっ、こんなとこでも課題?」 ソファの肘掛けに誰かが座る感触と、上から降ってきた聞き覚えのある声に、タイピングを止めてそちらを向く。 「おう、メアリ」 「ふふっ、数日ぶり」 そうだな、と言いながらパソコンに向き直る。いくらメアリと言えど、相手をしている暇は無い。本気でやばいのだ。 「あら、何のレポート?」 「レポートじゃなくて、日本の学生支援機構の課題。英文でこの街の素晴らしいところを書かねーといけねーの」 こんなものが3ヶ月に1回あるなんてマジでうぜぇ。と思いながらぱちぱちとタイピングの音を響かせる。まぁ、音楽とかでかき消されるが。 「ここの文、おかしいわよ」 「え?美しい景色であってるだろ?」 「この文だと美しくあった景色よ」 まじかよ。と思いながら文章を書き直す。まだまだ文で書くとおかしな書き方をしてしまうのは治ってないようだ。 「助かった」 「いいのよ」 近くに俺用に甘いカクテルがいくつか作ってあったので、それを取って渡すと、メアリは少しだけ上にあげてから飲む。 「きゃぁぁぁぁー!!」 「うぉっ」 少しした場所から悲鳴に近い歓声が上がり、驚いてメアリと顔を見合わせて声が上がった方を見る。 「まぁ、予想通りね」 「まぁ、そうだな」 メアリと手のひらを上にあげて首を振る。まぁ、うん、予想通りそこにはジャックがおり。女や男達がジャックのいるテーブルを囲んでいる。たしか、ジャックがいる場所はビリヤードの台があったはずだ。 「ジャック強いのよ」 「へー」 何人かの男が手球を打つキュー(長い棒みたいなやつ)を持っている。微かに人垣の隙間から見えるジャックがキューを構える姿は、ムカつくが様になっている。 「今日もジャックの一人勝ちで賞金は全部持っていくわね」 「賞金付きかよ!?」 「えぇ、結構高いわよ」 「ちっ〜、ポーカーかダーツなら負けねぇのに」 そう言うと、メアリは驚いた顔になる。 「ダーツもポーカーもやってるようには見えないわね」 「ただの仲間内の遊びだよ」 肩をくすめてそう言うと、メアリをそれ以上は聞いてこなかった。 「またジャックの一人勝ちだ!」 「あー!クソ!またか!!」 バシン!とテーブルに札を置く音がすると共に、ジャックの笑い声が聞こえる。 「さすがね」 メアリの言葉を聴き逃しながらジャックを見ていると、1人の女がジャックの腕に絡みつく。周りの女性たちはそれを恨めしそうに見ている。 「アンジェラよ」 「?あのジャックに腕を組んでいる女性?」 「えぇ」 どちらかと言うと、可愛らしい女性だ。ジャックの腕に細い腕を巻き付かせている。 「可愛い人だな」 そう言うと、メアリがありえない!と言う顔をする。いや、なんで? 「ジャックの!腕に!巻きついているのよ!?何もしなくていいの?」 いきなり俺に詰め寄って肩を掴んで揺らしてくるメアリに、え?え?と目を白黒させる。いや、いきなりどうした。 「え?なんで俺が?」 「.....ありえない。日本人が鈍感って本当なの?」 頭を抱えてブツブツと何かを呟いているメアリ。え?大丈夫か?心配はするが、何か鬼気迫るものがあって下手に触れれない。 そうこうしているうちに、またビリヤード台の方で歓声が上がる。ドヤ顔をかましているジャックに、アンジェラが次は体に抱きつく。そして、ジャックは慣れた手つきでアンジェラの腰に腕をまわし、少し持ち上げるようにして唇にキスをする。 「ねぇ!功祐!やっぱり.....功祐?」 何故か目を見開き、その光景を見つめる。メアリが後ろを振り返りそちらを見るのと、アンジェラとジャックの唇が離れるのは同時だった。ギューっと、アンジェラの細い腕が、ジャックの逞しい胴に回されている。 「あ、あの、功祐?」 離れている距離からジャックとアンジェラが何をしていたか気づいたメアリが、何かを俺に声をかけようとしてくるが、俺はそれに微笑み返す。 「なんか酔ったみたいだ。今日は帰るわ」 「え、で、でも.....」 言うてカクテル数杯、しかもほとんど酒は入っていない甘い女性に人気の物ばかりだ。 それでも、頭の思考がおかしい。酔っているに違いない。頭に簡単に血が上るし、何故だが変な方向に思考が進む。そんな事ないと分かっていながらも、何故かそっちに考えてしまう。 変な自分の思考に頭をふると、パソコンをシャットダウンさせる。 「お、ガキンチョ!もう終わりか!」 飲もーぜー!と結構酔いが回っている顔で言ってきたのはグレイだ。 「ちょ、グレイ!」 酒臭い顔を近づけて俺に肩を組んでくるグレイに、メアリが腕を引っ張る事で引き剥がそうとするが、まぁ、女性とグレイだ。勝てるわけが無い。メアリは逆に腕を引かれ、グレイの腕の中に入る。 「なぁー?3人で飲もーぜ〜」 「うるせぇ」 ゲラゲラと横で笑う、うるさいグレイの頬を軽く叩く。酔い覚ましのつもりだったが、グレイは違う方に取り、キスかぁー?と唇を近づけてくる。 「はいはい、もー、俺は帰る」 「えぇー、まじかよ〜」 まぁ、ガキンチョは寝る時間か!と笑いながら頬にキスするグレイを好きにさせる。 いや、訂正。ムカついたから何度かわざと足を踏んだ。しかし、体重差か体格差か、全くグレイは気づいた様子もなく俺の頬にキスを続ける。 「あぁ、なら、ほら、おやすみのチュー」 ほら、おやすみ〜、と言いながら唇に口を近づけてくるグレイ。さすがに酔いすぎだ、と思い顎を掴むと、ちょうどグレイの後ろにある人物が見える。その人物は、ビリヤード台にアンジェラを乗せ、楽しそうに話して軽いキスをしている。 変な自分の感情が、また出てき始める。違う、関係ない。俺はあいつと関係ない。ただの赤の他人で、ただ街で知り合った有名人で、ただ居候させて貰っているだけだ。そう、ただの、赤の他人。 自分のよく分からない言い訳と、よく分からない感情を押し殺すようにグレイが差し出してくる唇に近づく。 「ぐれ.....い.....」 酔いすぎよ!とグレイを咎めるメアリの声が止まる。俺の方に完全に体重をグレイがかけていたので、簡単に唇が届いた。 目を開けたままキスをしたので、グレイが目を見開いているのが見える。それが面白くて、俺の目が弓なりになったのが分かる。 触れるだけのキスなので、乾燥した唇はそのまま離れていく。カサついた唇同士のキスは、結局カサついたままだ。 「お前が寝てろバーカ」 くくくっと笑って俺が言うと、グレイも驚きから戻ってきて、また肩を組むとガハハハっ!と笑う。 「ガキンチョが、ガキンチョからキスされるとか、ガハハハ!俺も相当酔ってるな!」 「テメーが先にしてきたんだろーが」 何かよく分からないが、ツボっているグレイを放置して歩きだそうとするが、違う腕が俺の手首を掴む。 「あ?っっ!」 後ろを振り向いた瞬間、拳が俺の目の前を横切る。 「うおぉ!」 すぐ横でグレイの驚くような声も聞こえる。 「危ねーだろ!ジャック!」 俺の腕を掴んで引き止めたのはメアリで、ジャックが俺とグレイを引き裂くように拳を振ったのだ。 「なんだ、わざわざ乳クリあってたのを止めてまでこっち来たのか?チームメイト思いのキャプテンだな」 良かったなグレイ、と笑うと、グレイもガハハハっと笑う。 「ちょ、功祐」 俺の手首を掴んだまま、メアリが小さい声で俺を咎める。メアリには肩を上げる事で答え、ジャックを見る。 ジャックの振るってない方の腕には、アンジェラが巻きついており、さっきまでイチャイチャしていたジャックがいきなりこっちに歩き出したのに驚いているのか、意味がわからないという顔をしている。 「で、なんの用だ?ジャック」 今から帰るとこなんだけど、と言って手のひらを上にあげると、ジャックは上から俺を睨み付ける。

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