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第22話

俺も負けずにそのまま睨み返す。この顔はジャックが怒ってる時だ。俺がグレイにキスしたのがチームメイトを汚されたみたいで嫌なのか、女性陣をまとめ上げているメアリに仲良くなったのが嫌なのか、単純に視界の端にいたのが悪いのか。あぁ、勝手に帰ろうとしたのもあるか。 まぁ、とりあえず何に怒っているか分からないジャックに、俺はため息をつく。着いた瞬間、ジャックが俺の胸ぐらを掴みあげる。 俺も咄嗟に手首を掴んで持ち上げられないように力を加える。 「あ?んだよ」 ギリギリと力を入れて、ジャックの手首を掴みあげる。相当痛いはずだが、ジャックは眉ひとつも動かさない。 「くそビッチが。んなに欲求不満なのかよ」 ジャックが地面を這うような低い声で言ってくる。 「あ?ただの親愛のキスだろーが。てめぇはしたことねぇってか?あ?」 バチバチと俺とジャックの間で火花が散る。ジャックも引く気配がないし、俺も引く気はない。 「はっ、尻軽のてめぇの事だ。俺以外にもたらしこんだのは大勢いるんだろうな。あぁ、最初に会った時も変なやつらに追われてたな。あれは全部お前の竿か?」 それなら、大乱交予定だったんだろ?邪魔したな。と最初の事を言われ、カッ!と頭に血が上る。 「あぁ!?てめぇなんて.....」 「何度でも言ってやるよ。どうせ故郷でも散々遊んでんだろ?夜中泣きながら呟いたことがあるな、たしか.....」 右手に重いものが当たる。思いっきりグーでジャックの頬を殴りつける。ジャックは構えてなかったのか、あまり体重が乗っていない俺の拳でたたらを踏む。 「っ!俺は!あいつとは何も無い!!」 っ!さっきまで強気だったのが嘘のように、目じりが熱くなる。思い出したくない。思い出しちゃいけない、誰にも知られたくない事を、心の中の秘密を微かにでもジャックに知られた自分が情けない。 アンジェラが、ふらついたジャックを支えるようにそばによって体に引っ付く。俺の腕を持っていたメアリは、俺がジャックを殴ったことに驚いたのか、手が離れている。 会場全体に広がってはいないが、俺たちの周りはシンとした空気が満ちている。 「いっぺん氏んでろ!!!」 そのまま俺は、ジャックに背を向けて店を出る。細い階段を上がり、夜の道に出る。「功祐!」と誰かが呼ぶ声が聞こえるが、無視を決め込んで早足で歩く。 「功祐!!」 扉が開く音と共に、メアリの声が聞こえる。 チッと舌打ちをすると、すぐ横にある細い路地へと入る。一気に暗くなった道に、足元に気をつけながら早足で歩く。所々に置いてあるバケツを避け、反対側の道が見えてくる。 コツン。 何かが足にあたり、コロコロと少しだけ転がる。早歩きの足を止め、蹴ったものを見るために下を向く。そこにあるのは真っ赤なピンヒールで、落し物だろうか?と首を傾げて、さすがに蹴ったままなのは、と思い拾い上げる。 腰を曲げて拾うと、ちょうど視界の端に写る。っ!?人!? 微かな光から見える人の形。壁に寄りかかるようにして口元を押さえている。片足には、俺が拾ったピンヒールと同じものを履いている。 「あの、大丈夫?」 さすがに蹴ってしまったし、と思いながら肩を叩いて声をかけると、よろよろと顔を上げる。 「っ!」 見覚えのある、たしか、といった顔に驚いてつい指を指してしまう。 あの日、グレンとケニーと共に飲んだ時にいた、メアリの綺麗なお友達。たしか名前は、 「ニア、さん?」 名前を呼ぶと、ニアは驚いたような顔をして俺を見るが、見覚えが無いのか首を傾げる。 前見た時は綺麗な女性だった。メアリに負けず劣らずで、手足も細く、指先まで赤いネイル綺麗に整えられている。 しかし今は、少しだけ頬が痩けており、手足も異常なほど細い。あの日見た健康的な姿とはなかなかかけ離れている。 「だ、れ?」 「あ、メアリの友人です」 「メ、アリ、の?」 「あぁ」 立ち上がろうとして力が入らないのか、壁を使ってはずるりと滑り落ちる。 急いでそれに手を伸ばして支えると、ニアさんの手が俺の二の腕に捕まる。捕まったが、そこに変な感覚がある。どろりとした液体のようなものが俺の腕に着くのがわかる。 「けほっけほっ」 俺の二の腕を掴んでいた方の腕で口元を押さえて咳き込む。ちょうど離れたところで気づく。明るい道から入る光が、俺の二の腕を照らしてどろりとしたものの正体が見える。 血だ。 赤い血が俺の二の腕に着いている。 「っ、ごめん!」 一言謝ってニアの手をとると、そこには真っ赤な血が着いている。力のない体を支えるように顔を上に向けると、口の端には血が垂れている。 「っ、病院!」 「だ、め」 スマホを取り出そうとしたところで、ニアから腕を掴まれる。 「でも.....」 ふるふると力ない様子で首を振るメアリに、不安になりながらも承諾する。 「なら、家に連れていく」 教えて、と言うと、ニアはロックを解除したスマホを俺に渡してくる。 地図アプリで自宅を入れると、直ぐに道案内が始まるので、背中にニアを背負って歩く。

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