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第24話

現在俺は、先程荷物を片付けたソファの上で正座をしております。はい。日本人の反省方法と言ったらこれです。あと怒られている時もです。ちなみにニアもしてます。メアリにさせられました。ごめんな。 俺は、一通り怒られてニアが怒られているのを大人しく聞いています。 「ったく!ニアも私に連絡くれないなんて薄情よ!」 「ご、ごめんね!そんなことが起きたなんて知らなくて」 ごめんなさい。と項垂れるニアに、早々に許したメアリは俺に向き直る。そのニアに対する甘さを俺に少し分けてくれませんかね?あ、無理だな。目がまじだわ。てか、俺さっき怒られ終わったよね?え、2周目? 「で、なんであんたは電話に出ないの?」 「え、いや、かかってきてない...は.....ず.....」 スマホを取り出すと、充電のマークが表示される。あ、確か一昨日から充電してねーわ。あ、なんか前もこんなことあった気がする。いや、あの時はジャックがわりーし、関係ないか。 「それ、スマホの意味ないわよね?」 髪をかきあげながら見下ろしてくるメアリに、唾を飲み込み背筋が伸びる。 「ご、ごめん.....なさい」 全く!と言いながら、メアリがため息を付く。 「とりあえず、状況はわかったわ」 「え?あ、あぁ」 「それで?」 「へ?」 「どーするの?」 「え、何が?」 「だってあなた、今ジャックと喧嘩して帰る家無いんでしょ?どうするつもりなの?」 「あ、一応友達の家に転がりこもうかと.....」 「男?」 「え、まぁ」 メアリの綺麗な顔に、キュッと眉がよる。微妙に怒っているような顔に、意味がわからずニアと2人で顔を見合わせ首を傾げる。 「やめときなさい」 「え〜〜〜〜!!!!!俺泊まるとこねーよ!?!?」 「知らないわよ。ホテルでも行きなさい」 「金がないんだよ!!!」 「数泊分ぐらいあるでしょ」 そう言われて、うぐっと言葉につまる。ある。確かに数日間泊まれぐらいならあるはずだ。しかし、 「も、燃えました」 「「え!?」」 「家が燃えた時通帳とかも燃えて、復活させるためには父親が持ってる印鑑とかがいるんだけど、父親は違う州にいるから」 無一文です。と言うと、ニアは悲しそうな顔をし、メアリはたた大きなため息をついた。いや、うん、俺でも自分じゃ無かったらため息つくと思う。 父親に会いたくないという理由で銀行の口座復活させないとか馬鹿としか言いようがないが、会いたくないもんは会いたくない。 「あんたもうジャックの家に帰ったら?」 「そんな!薄情な!」 「あんた達の痴話喧嘩なんて興味無いわよ!」 「うぐっ!た、確かにそうだけど.....」 「別に帰ったらちょっとしか怒られないわよ。それと、ちょっと喧嘩するぐらいでしょ」 「.....え?」 「は?」 俺がメアリの言葉に意味が分からず首を傾げると、メアリも逆に首を傾げる。 「え、俺怒られんの?」 「え?逆に怒られない方がびっくりよ」 そうメアリに言われ、確かにと首を縦に振る。グレイが先にキスをしてきたとはいえ、グレイの唇にキスをしたのは俺だ。グレイは仮にもストリートバスケのトッププレイヤーなのだ。変な噂、例えば男色なんて噂が流れたらファフニールの名前にも傷が付く。 そこまで考えてうんうんと頷く。 「確かにそうだな」 「.....なんか変な答えに行き着いた気がするんだけど?」 「何がだ?」 メアリはため息を着くと、もういいわと言って俺に手を振る。 「ところで、一旦帰るんでしょ?いつ行くの?」 「今日はジャックがチーム練で絶対いないから今から行く」 「そんなに会いたくないの?」 「..........」 「ジャックが、その、誰かの事を言ったから?」 メアリの言葉に軽く微笑む。メアリが軽く肩を揺する。いくらメアリでも、教える気もなければそれを言うことを許すつもりは無い。 「別に、ただ虫の居所が悪かったのと、少しだけ酔ってただけだ」 「.....そう」 これで話は終わりだ。とばかりに俺は立ち上がる。もちろんジャックの家に行くためだ。 「じゃあ、俺は一旦帰るから、電話してくれたらここに来るな」 「どうするつもり、なの?」 ニア微かに顔色が戻った顔で言ってくる。毛布を肩にかけ、不安そうな顔だ。 俺は、そんなニアに苦笑すると頭を撫でる。ふわふわとした髪の毛は、男の物とは違い柔らかい。 「まぁ、何とかする。じゃあな」 「こう.....」 俺を引き留めようとしたメアリに手を振って家を出る。階段を降りると、もう既に日は昇っているが、殺伐とした雰囲気は変わらない。ニアのアパートを見ると、窓からこちらを覗いているのが見えるので、それに手を振ってこの町を後にする。 ———————————————————— 指紋認証で動くエレベーターに乗り、最上階を押す。どんどん数を増やすエレベーターに、ため息をつく。 結局ジャックの家に着いたのは昼頃で、人もまばらなエントランスは何故か久しぶりに感じた。 ジャックが帰ってくるのは多分夕方。それまでに服をかき集めてカバンに入れよう。3分の2程がジャックが買ってくれた服なので、ほとんど持っていけはしないが、まぁ、グレイとケニーの家に行けばなんとかなるだろ。 あぁ、充電。スマホの充電もねーから充電しないと。 うんともすんとも言わないスマホを見つめ、またため息をつく。 ちーん。 軽い音を立てて最上階につく。開いた扉の向こうには、ドアは1つしかない。全く何も聞こえてこないドアから、本当にジャックが居ないことを確認する。 ドアノブに手をかけ、親指を当てると、しばらく考えた後ピピッと音が鳴ってロックが解除される。あぁ、このロックを開ける用の指紋も消していかねーと。さすがにアンジェラのやつが登録されるだろうから俺のは消しとかないといけねーよな?あれ?でもどうやって消すんだ? 首を捻っても、分からない物は分からない。まぁ、1回スマホで調べよう。と思い、約一日ぶりの部屋に入る。 ガランとしているそこは、ジャックも1度も帰ってないのか、俺が出ていった時のままのリビングだった。やっぱ昨日はホテルか?あ、いや、ワンチャン寝室か。 寝室へ続く扉を見るが、閉まっているせいで何も見えない。うん、さすがにアンジェラが寝ていたらいけないので見らずにさっさと帰ろう。 リビングのテーブルに置いてある置型の充電器にスマホを置くと、リビングを見渡す。まぁ、最後だし、数ヶ月暮らした家だし。これで見納めか、と思うと、こんな高級マンションなんて次いつ来れるか分からないので寂しくなる。 おっと、いかんいかん。帰る準備。 元々俺の家は焼けてしまっているので、俺が持ってきた荷物はグレンとケニーの家に置いていた物だけだ。衣装部屋に行き、普通に外出用の服を取る。さすがに1回じゃ無理なので、いくつかを腕の上に乗せてリビングのテーブルまで運ぶ。 あ、入れ物がねぇ。あ、いいや、紙袋でも貰おう。 キッチンに向かい、ジャックがポンポンと捨てていた紙袋を、ちゃんと俺が片付けていた場所を漁る。ガサゴソと漁ると、ちょうどいい大きさが3枚程出てくるのでそれを持ってリビングに戻る。 「........あれ?」 確か俺は服を持ってきていたはずだ。しかも畳んで。俺が持ってきていた服の1枚が、畳まれてないままテーブルの上に投げられている。あれ〜?俺、持ってきて、そのまま置いて、この紙袋持ってきたよな? あれれ〜?と首を捻る。あ、服に引っかかったのか。 なるほど、と思いながらもう一度畳直して上に置く。 .....あれれれれ〜〜〜??? 俺、服落とした? リビングとシャワールームや衣装部屋の繋がる所に1枚俺の服が落ちている。いや、前が見えないぐらい腕に乗せていたのだ、落ちることもあるだろう。そう思いながら服を拾うと、微かに床が濡れている。 あいつ、今日の朝たいして拭かずに練習に行ったな!あんなに言ったのに!!風邪引け!! 全く!と思いながら思い出す。確か私物をシャワールームに置いていた筈だ。服を取ってシャワールームに向かう。あぁ、そういえば昨日から風呂に入ってない。グレンとケニーに合流する前に風呂に入ろう。漫画喫茶のシャワーじゃ物足りないが、仕方ない。 シャワールームに続く扉を開ける。あぁ、そういえばこの扉だいぶ防音が凄かったはずだ。何気なく思い出したそれに、手が止まる。 ジャーと聞こえてくる水が落ちる音。奥が見えないようになっている半透明の扉の、背の高い影が写っている。 まさか、いや、そんなはずは無い。 だって今日は、ジャックは今日、練習の筈だ。

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