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第30話
車を降りると、軽いストリートバスケコートだった。サンサンと照りつける太陽が俺の肌を焼いていく。
『あっつ』
無意識に言葉が漏れると共に、パタパタと手で首元に風を送る。全く風は生まれないが。
「ガキンチョ」
「あ?」
「暑くて無理だ、飲み物頼む」
やべぇ。と言いながら車に引っこもうとするグレイの服を掴んで止める。
「買ってきて、やる、から!てめぇは、さっさと、会場入り、しろ!!!」
まるで俺がじゃれついているように軽くいなしてくるグレイにイラつきながら、さっさと車から距離を取らせる。
しっかりグレイのポケットからお金を拝借してからグレイのケツを蹴りあげて会場に向かわせる。美人な人がお迎えに来たからあとは楽だろう。
にしても暑い。日本と違ってカラッとした暑さのせいでめちゃくちゃ体温が体に溜まる。
出来るだけ日陰を歩きながら近くのコンビニに入る。涼しいクーラーの風が頬に流れ、服をパタパタとさせると体全体が涼む。
軽い軽食やらなんやらが置いてあるのを横目に、さっさと飲料水コーナーに歩いていくと、定番のスポーツドリンクと俺用のフルーツジュースを持ってレジに行く。
店員に金を渡して商品を受け取る。あ〜、外でたくねぇ。涼しいクーラーに別れを告げて扉の前に立つと扉が開く。熱風が俺の体を包み込む。暑い。
重いため息を着つきながら歩く。すぐそこにもう公園は見えており、ファフニールではないチーム同士で試合しているのが分かる。いや、若いから高校生ぐらいかもしれない。
あ、決まった。ハイタッチをしながら喜んでいる学生をみて、いいな〜なんて言いながら歩く。
影を作ってくる最後の建物の影に入る。横には細い裏路地が伸びており、汚れているのが横目でも見える。その路地に白人の肌とともに、多量に入った刺青が微かに目の端に捉えられる。
「よお。日本人」
グワリと両目が見開く。右側から聞こえてきた声に、驚いて体が固まる。
カシャン。と音を立ててペットボトルの冷たい飲み物が落ちる。先程までてとは違う嫌な汗が額から流れ落ちるのが分かる。
「おいおい、落としたぜ」
クククッと喉を鳴らして笑いながらペットボトルを拾うそいつに、片足を下げて距離を取る。
「アイ、ザック.....」
「会えて嬉しいぜ〜、日本人」
両手を広げるそいつへの俺の対応は反射に近かった。手に持ったもう一本のペットボトルをそいつにぶん投げると、そのまま背を向けて走り出す。
すぐそこにジャック達がいる。そこまで走ればいい。すぐそこだ。あんなノロマな奴らなんかに捕まるはずが無い。
そう分かっていても嫌な汗が止まらない。直ぐに上がってしまう息は、俺を余計混乱状態にする。いやだ、嫌だ、嫌に決まってる。あんな奴に触られたくない。っ、ジャック。
『そういや妙な噂を聞いたんだけど』
スピリティングフラワードラッグの話をしていた後にケニーが話していた内容が頭に流れる。
『なになに〜?』
『なんか、アイザックの奴。今、日本人を欲しがってるらしいぜ』
『欲しがる?』
俺が怪訝そうな顔をすると。ケニーが手に持ったフォークを振る。
『なんか、日本人に運び屋とか売人をさせたいらしい』
ヒュッと喉がなる。くそっ、嫌なタイミングで嫌なことを思い出した。
前を向いて走るが、バスケットコートまで全く距離が縮まらない。
やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
肺が痛いほどバクバクと鳴っているのを聞きながら、ひたすら足を動かす。前に前にと出すが、体がどんどん重くなる。
捕まる。アイザックに。
それだけはダメだ。薬だけはダメだ。あれだけには近づいたらダメなんだ。あいつは、アイザックはやばい。
本能という本能が俺に警戒音をバンバン鳴らす。植木を飛び越え近道をする。着地した時に微かに足を捻るが、気にせずに走る。
フェンスがある。ボールを着く音と共に、慣れ親しんだメンバーの声が聞こえる。笑い声と相手をバカにする声。いつもなら小言の一言でも言いたいが、今は気にしているだんでは無い。
「っ、ジャック!」
白人の、背の高い金髪の男の背中がベンチに座っているのが見える。1枚のフェンスがジャックとの間を隔てているが、気にせずに勢いそのままで手を伸ばしてフェンスに突っ込む。ガシャン!と大きな音を立ててフェンスが揺れる。
「?.....っ!功祐!」
ジャックの声が聞こえ、安心してフェンスに寄りかかる。辺りを見渡してアイザックを探すが、あいつの影はない。バクバクと心臓が鳴り、全身の血がありえないほど全身に巡っている。
「.....ジャック」
フェンスから出てきて、ジャックが俺の横に膝をつく。俺が手を伸ばすと、直ぐに手を取って俺の体を引く。
ジャックの腕に引かれジャックの体に寄りかかると、ジャックもいくらか汗をかいていた。ちゃんとバスケしたんだな、なんて言いたかったが、呼吸するのでいっぱいいっぱいなおれは何も言えなかった。
「おい、功祐」
「ん」
ジャックが呼ぶので、ジャックの顔を見ようとジャックから体を離そうとするが、体が動かない。
「功祐?」
手に力が入らない。
「おい、ガキンチョ?」
ワラワラとチームメンバーが集まってきたのか、俺の周りに影が出来る。影に入っただけで、だいぶ涼しく感じる。
「顔色、悪い」
「あ、ほんとだ。熱中症じゃない?」
サージとディの声も聞こえる。あぁ、ごめんサージ。このバスケの試合見に来るの誕生日プレゼントなのに。
「おい、功祐」
「ん、うん」
ボーっとする頭を回転させ、軽くジャックの声に頷く。体が熱い。あと、体が言うことを聞かない。
「サージ、ディ、氷と飲み物買ってこい。グレイ、この中で1番デカい車を持ってきてクーラーを効かせろ」
「うん」
「りょーかい」
「お、じゃあディのだな!」
4人が何か言っているのを聞きながらジャックの肩に額をうずめる。ジャックの香りがする。ほんのり香る香水の香り。今日は女物の香水の香りはしない。良かった。
何故か安心し、ジャックの服の裾を掴む。
「ミゲル。そこにある飲みもん全部もってこい。あと日陰を作れ」
「あ、はい!」
ミゲル、あぁ、あの噛み付いてきた奴。ジャックの言うことは素直に聞くんだな。なんて関心しながらそいつのことを思い出す。
バタバタとした音が聞こえたと思ったら、3人がいなくなったことで影が無くなったそこに影が出来る。
「スポドリです」
「あぁ」
お礼を言え。なんて思いながらも、ジャックの服を掴むので精一杯だ。とりあえず体が熱い。風邪なんて比べ物にならないほど体が言うことを聞かないし、思考さえまとまらない。
「おい、功祐」
ジャックの声に答えようと口を開こうとするが、首を振るので精一杯で体が動かない。
チッと舌打ちの音が聞こえる。あー、もう、そんなに怒るな。カルシウムが全部骨に行ってるせいだな。なんて自分で思って笑えてくる。
「怒んなよ」
ジャックの拗ねたような声とともに、ジャックの顔が近づいてくる。.....あ。唇が当たると同時に、ジャックの口から温い液体が俺の口の中に入ってくる。無理やり飲ませようと角度を帰るので、俺も口を開けて一生懸命喉を動かす。
「っ!ちょ!ジャックさん!うわぁああ!ダメですって!す、スキャンダルぅぅぅ!?!?」
ワタワタとミゲルがしているのか、バタバタと聞こえる。
「ま、幕!いや、その前に新聞社、あぁ!ちょ早く!!」
敵チームさえもどっかに行ってしまって居ないと言うのに、ミゲルが1人でワタワタとしているの姿が面白くてそちらを見て笑ってしまう。
ジャックと唇が離れ、少しだけ体が潤ったきがしながらジャックの顔を見ると、ジャックは不機嫌な顔をしながらまた飲み物を口に含んだ。
え、もういい.....。なんて言えるはずもなく、そのまま口ずけられてスポドリを飲ませられる。次は舌が入ってきて、ミゲルの方を向いていた俺を咎めるように俺のいい所を舐めあげられる。
「ジャ、ジャックさァァァァあん!!!!」
ミゲルが叫ぶ声により、俺は肩を震わせてしまう。
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