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第31話
2回目のスポドリを飲み終えると、グレイの声が聞こえる。
「おーい!車用意出来たぜ〜」
だいぶ回復したので立ち上がろうかとジャックのシャツを持つ手に力を入れる。微かに動くが、さすがにシャツを掴んでいるだけなら立ち上がれない。
「ん、ジャック」
「あ?あぁ」
ジャックの肩を持ってジャックに背中を押せ、と言う意味で声をかけると、すぐに理解したのか背中に腕が回される。ジャックが俺の背中に力を入れると同時に、腹筋とジャックの肩に置いている手に力を入れて立ち上が.....
「うわぁ!」
ろうとしたら、そのまま謎の浮遊感が体を襲う。訳が分からず思わずジャックの首に腕を回すと、ようやく状況把握ができる。
っ!!!俺、今.....よ、横抱きに!!
「おい、暴れるな」
「っ!!!バカ!離せ!」
体は満足に動かないが、手足を動かすと更にジャックに抱き込まれる。
っ!近.....
横抱きにされているということに恥ずかしくなって、出来るだけ顔が見られないように小さく丸くなる。
「いい子だ」
優しい声とともに額にキスされる。
「ピュ〜」
懐かしい口笛が聞こえ、吹いたであろうグレイを睨むが笑顔が帰ってくるだけだ。チッと舌打ちをしたいが、さっき暴れたせいで体力がゼロになった。大人しくジャックに運ばれ車に乗り込む。
寒いほどクーラーが聞いているが、ジャックの体温と合わさって心地いい。ジャックは俺を抱いたまま座席に座っている。
「おい、今どんな感じだ?」
「ん、グラグラ、する」
「飲みもんは?」
「いらない」
「飲んどけ」
ジャックが俺の唇に飲み物を持ってくるが、首を振って断る。
「チッ、おいグレイ」
「ん?」
「センセーの所に行くぞ」
「正規の所に行かねーのか?」
「あぁ、ヤブだがセンセーの方が俺達もゆっくりできるだろ」
グワグワとする頭では、2人の会話を聞き取れない。異常なほどの眠気が襲ってくる。それを拒もうと、ジャックのシャツ掴んで顔を擦り付ける。
「.....功祐」
ジャックが俺の名前を呼ぶ。
「な、に」
ジャックの冷たい手が俺の頬に当たり、気持ちいい。あぁ、デカい手だ。これであのバスケットボールを自在に操っていると思うと、触れれた自分が何だか特別感がある。
「辛いか?」
「ん、大丈夫。」
「そうか、もう少し辛抱しろ」
瞼に柔らかいものが当たる。若干くすぐったくて笑うと、ジャックも笑う気配がする。
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「ん、」
目が覚めるといつもの部屋にいた。いつもジャックと寝ている部屋で、その広いベッド上で目が覚めた。
辺りを見渡しても誰もいない。喉が痛いし乾いた。
水、と思いながらベッドに座ると、異常なほど体がだるい。あぁ、熱中症だったからか。腕に刺してある管の先に点滴があるのを見て納得する。
1人で頷きながらベッドから立ち上がる。っ、そういやおれ足首捻ったわ。多少ふらつくが、注意すれば歩けないこともないな。うん、と言って点滴を持ちながら無駄に広い寝室を歩きノアノブに手をかける。
「レニーは少しは正気を取り戻したか?」
「いや、難しいのぉ。トリーツァから貰った解毒の香を焚いてはいるが、睡眠薬を導入して眠らせんと今も目が覚めたら暴れる回りよる」
ジャックと知らないしわがれた声に、扉を開ける手は止まってしまう。レニーと言えばファフニールの俺があったことの無いレギュラーメンバーだ。たしか、どっかを怪我したとか何とかで試合には今出れてないはずだ。
「チッ、回復は?」
「回復したとしても、日常生活が送れるようになれば万歳じゃ」
「クソっ!このクソダリー時期にいなくなりやがって!」
「そう言うな、致死量の薬物をぶち込まれたんじゃ。死ななかっただけ幸いじゃ」
薬物?致死量?ぶち込まれた?どういうことだ。レニーは怪我のはずじゃ。
「クソっ!」
「ほれ、荒れるな。そういえば、サラの捜索はどうなっとる?」
「香里奈がやってる。でも、あいつもスピリティングフラワーの方の捜索でなかなかサラまで手が回らないらしい」
「うむ、うちの患者にも知ってそうな者はおらんしのぉ」
サラ?知らない名前が出てきて首を傾げる。
「お、もうそろそろ点滴が終わる時間じゃ」
っ!誰かが立ち上がる音に、いそいでベッドに潜り込む。俺が潜り込むと、直ぐに扉が開く音がする。
「お、起きとったか」
入ってきたのは初老の男性で、色の薄くなった金髪をオールバックで流し、のほほんとした笑みを浮かべている。
「あなたは、」
「おぉー!そーじゃったしょーじゃった。わしの名はクロイス。しがない町医者じゃ」
「.....町医者?」
「ほっほっほっ」
「........」
「ほっほっ...ほ.......本当は闇医者じゃ〜」
ほれ、本当のことを言ったからそんな見るな。と言いながらクロイスはベッドの横にある椅子に腰掛ける。そのまま手を取られ、脈を見られ、顔を触られ、目の下を見られ、などなど、何ヶ所かをチェックされる。
「俺って.....」
「結構な熱中症じゃよ。涼しいところから暑いところに出て、急に走り出して汗をかいたんじゃろ。しかも、飲み物を飲んでなかったならなるのもしょうがないことじゃ」
しゃーなし!と笑うクロイスの言葉に、急に走り出した原因を思い出す。
アイザック。俺との関係は、ケニーがあいつの女を寝とった事だけで、それまで全く顔すら知らなかった。アイザックも、俺の事は日本人ってだけで他は知らないのかもしれない。
しかも、裏路地に居たアイザックの後ろに誰かいた気がする。確実には分からない、でも、女の影のような物が.....
「いや〜、呼び出された時は驚いた」
「.....はい?」
考えこんでいた頭が、クロイスの声により引き戻される。
「ジャックがいきなり家に来いと言うから、また刺されたか!と思ったんじゃが、」
刺されたことあんのかよ。女だな。確実に女怒らせたな。
「家に着いたら本人はピンピンしてワシを迎え入れるし、患者は寝室だと言われて、あー!笑った笑った」
「ジャックは、そんなに人を家に入れないんですか?」
「全く、じゃな。ジャックと1日寝たという女は嫌と言うほど聞くが、2回目、3回目は無いようじゃし、家に行ったという話は聞いたことがない。」
「そう、ですか......」
「じゃから、自惚れて良いと思うがのぉ〜」
ほっほっほっ!と笑うクロイスに、はぁ!?という顔をする。
「は?ちょ、違う、俺はそんなんじゃ.....」
「ほっほっほっ!お主は置いとくとして、あいつは天邪鬼だからのぉ!」
なんか、中世貴族の女性が高笑いするように笑うクロイスに、俺は首を振る。
「ちが!俺は、てか、あいつも!」
「少なくとも、他人がすこ〜し倒れたぐらいであんなに焦るジャックを見たのは、わしは初めてじゃよ」
ほれ!治療は終わりじゃ、と言うクロイスに、お礼を言う。ん、終わり?
「あ、あの.....」
「ん?」
聴診器や点滴を片付けているクロイスに、すんごい気になっていた、というか、今気づいたすんごい重要なことを聞く。
「お代は、」
「ほっほっほっ!心配するな、ジャックからがっぽり取るわ!」
いや、それ俺が安心できない。
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