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第32話
「終わったか?」
「おぉ、今日1日は安静にしとけば大丈夫じゃよ。」
「分かった」
「じゃーの、わしは帰るでの〜」
手を振りながら去っていくクロイスに、すれ違う時にジャックが札束を渡すのが見える。
「大丈夫か?」
ジャックがベッドに近寄ると俺の頬を撫でる。
「あぁ」
「そうか」
ジャックが安心したように笑うので、俺はどんな表情をすればいいのか分からなくなった。
ジャックはベッドに腰をかけると、更に俺の顔を触る。
「なぁ、ジャッ」
「飯は?」
俺の言葉に被せるように聞いてくるジャックに一瞬止まる。直ぐに聞かれたことを思い出すが、飯は?の意味がわからない。食事はしたのか?なのか、食べれるか?なのか、もしかしたら作れという意味なのかもしれない。いや、2番目は無いかもしれない。俺はジャックがご飯を作っている所を見たことがない。
「食べれるか?」
「へ?あ、あぁ、まぁ、結構元気になったし」
ないと思っていた問いかけだったことに少し驚きながら、お腹は空いている。と伝えると、ジャックは嬉しそうに笑う。
「そうか、軽めがいいよな?」
「え?つ、作るのか?」
火傷しないか?手伝おうか?と言うと、ジャックはバカにしてんのかよ。と笑う。
「大人しく寝とけ」
「いや、だって、ほ、包丁握れんのか!?猫の手だぞ猫の手!」
手をグーにして猫のように手首を曲げると、ジャックは吹き出したように笑う。
「わーってるって」
クスクスと笑いながらジャックが俺の頭を撫でるので、俺はそれ以上何も言えずに寝室を出るジャックを見守る。
バタン、と音を立てて扉が閉まる。別にジャックがいたからと言って気を張っていた訳では無いが、大きく息を吐きながら枕に背を預ける。
あ、この部屋クーラーめっちゃ効いてる。
毛布がないと寒いほどにガンガンに効いているクーラーに気づき、少しだけ体温が上がった気がする。
てか、ジャックの事よりアイザックのことだよな。
そうだ、俺の一番の問題はアイザックなのだと思い出し忌々しいあいつの顔を思い出す。イカつい顔でまさにヤンキーといった風貌だ。
嫌な顔を思い出したせいで熱くなった体が冷めた気がする。ため息をついてモゾモゾと体を動かすと足首に激痛が走る。
「いっつ〜〜〜」
掛け布団をめくって足を見ると、変な色の痣が出来ており、触ると微かに腫れて山が出来ているのが分かる。
包帯、と、この感覚は湿布か?足首に巻かれているそれをもう一度触ってからもう一度掛け布団を自分の上にかけ直す。
『日本人に運び屋とか売人をさせたいらしい。』
肩まで被った掛け布団を握りしめる。あぁもう、本当に嫌なことを思い出す。
そうだ、俺には関係ない。ただ単純にケニーのせいで追われたんだ。俺はしない。絶対に運び屋なんか、売人なんかしない。
「おい、具合が悪いのか?」
ペラッとジャックが掛け布団をめくると同時にいい香りが漂ってくる。
「いや、大丈夫だ」
そう答えるが、ジャックは眉を寄せて俺の額に手を当てる。
「熱、はねぇな」
「大丈夫だって」
心配しすぎだ。と言いながらジャックの肩を押すが、ジャックは素直に押されてはくれない。
「ジャック?」
「無茶はするな。少しでも具合が悪かったら俺に言え」
肩を押していた手を取られ、手の甲にキスをするとジャックはそのまま俺の腕を引く。
は?いやいやいやいやいや。なんかこの一連を当たり前の事のようにするジャックに流されてそのまま立ち上がるが、俺の頭の中はハテナマークが大量だ。
しかし、ジャックは俺の顔を見て変な顔。と言って笑うだけで手を引いてゆっくりとリビングに俺を先導する。
ジャックの変な行動に、俺は目を見張るがジャックは気にした様子もなく普通に歩いていく。俺は、ジャックが変なものでも食べたのではないかと目を白黒させるが、それもリビングに入った瞬間失せる。
「いい、匂い」
何か香ばしい香りにスン。と鼻を鳴らすと、ようやくお腹が空いているのを自覚しお腹がグ〜〜。と音を立てる。
「チキンスープだ」
ソファに座ると、俺の前にスープの入った器とスプーンが置かれる。ジャックは対面に座り、同じものをジャックの前にも置いている。
「足りないだろ?作ろうか?」
ジャックは見た目通り結構食べる。病人用のチキンスープなんかじゃ足りないだろうと思いそう言うが、ジャックは眉を寄せて首を振る。
「お前は病人ってことを自覚しろ。まったく」
やれやれ、と首を振るジャックに、俺はクスクスと笑うとスプーンを手に取る。
「俺は、ジャックが何かを作れるって事に驚いてる」
「チッ、これだけだ」
頬をつきながら、拗ねたようにジャックにクスクスと笑ってしまう。
笑っていると、ジャックから早く食え。と顎でされるので大人しくスプーンでスープを掬う。野菜もチキンも細かく刻まれており、ちょうど流し込みやすい大きさだ。何度か息を吹きかけて冷まし、口に入れるとホロホロと野菜とチキンが口の中で壊れる。スープにも、薄いながらもしっかり野菜やチキンの味がありとても美味い。
多分さっき作ったんじゃなくて俺が寝てる間に作ってたんだろうな。なんて思いながらジャックに頷く。
「美味い」
「ふっ、そーかよ」
嬉しそうに笑うジャック。俺はその顔に笑うと、更にチキンスープを胃の中に入れる。クーラーのせいで体が冷えていたのか、暖かいスープがとても体に染み渡った。
「なぁ、散歩に行きたい」
そう言うと、ジャックが更に眉間にシワを寄せる。その顔は、安静にしてろと言われただろ、足が痛いだろ。ということを物語っている、と思う。
「ただ歩くだけだ。酒も飲まないしジャックから離れない」
「・・・・・・はぁ、少しだけだ」
「あぁ、ありがとう」
しかたねぇ。と首を振るジャックにお礼を言いながら食器をまとめる。スっとジャックの腕が伸びてくると、さっさと食器をもってキッチンに行ってしまう。いつも片付けもしないくせに、と笑いながら見ていると食洗機に食器を入れてしまったジャックがこちらに帰ってくる。
「一旦着替えるぞ」
寝巻きのままの俺の姿にジャックはそう言うと、俺の手を引いて衣装室に入っていく。
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