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第33話
暗闇が目立つ道に、いつもとは違う派手さのない商店街。街灯以外の光がない道を静寂が包んでいる。
「足」
「大丈夫だって」
「・・・・・・」
キュッと眉を寄せるジャックに笑い、もう帰ろうと足を止めるジャックの腕を引く。すると、駄々っ子の子供のように渋々と歩き出して俺の横に並ぶ。
「明日何食べたい?」
「肉」
「ははっ、幅広すぎ」
「焼いた肉」
「家で生はそうそう食えねーよ」
「じゃあ、お前を食べたい」
一瞬ジャックが足を止め、俺が一歩前に出るとそのまま抱き込まれる。ギュッと俺を抱きしめながらそんなことを言うので、何も言えなくなる。
「なぁ、」
ジャックがいやらしくするりと俺のおしりを撫でる。
「.....っ!却下!」
「いっ」
思いっきりジャックの足を踏む。俺の足も痛かったが関係ない。変なことをしてくるジャックが悪い。てか、撫でるな、金とるぞ!
いや、俺が金借りてる方か.....
嫌な現実を思い出して散歩で上がっていた調子が落ち込む。
「そういやジャック、.....ジャック?」
話しかけても返事をしない、むしろ着いてきているかすら怪しいジャックを見るために後ろを振り向いたら、先程より少しだけ動いた位置で止まっていた。
俺の奥を見て驚いている。
俺もそちらを見るが、何人かが喋っている光景があるだけだ。ますます分からなくて首をひねり、ジャックを見て、集団をみて、ジャックを見て、集団を見てと繰り返すが一向にお互いの光景は変わらない。
「....サラ......」
ジャックが小さく呟いたその名前にドキリとする。確か、ジャックとクロイスが話していた女性の名前だ。それが、あの中に?
集団を見るが、5人の男と2人の女がいてどっちだか分からない。首を捻り、嫌な予感がすると思ってジャックに近寄る。
「おい、じゃ.....ジャック!!」
ひとまず帰ろう。と言おうとしたところで、ジャックが集団に向かって歩き出す。長い足を使って大股で歩くので、直ぐに背中は俺から離れていく。俺も追いつこうと歩き出すが、追いつくことはなく、むしろ距離が離れていく。
「サラ!!!」
ジャックが集団に向かって叫ぶ。
「っ!ジャック!!」
サラと言う名前に反応した女性が、ジャックから距離を取るように数歩下がる。すると、周りにいた男たちがジャックとサラの間に入る。
「あ?誰だテメェ」
「ジャックってあれ?ストリートバスケの?」
「へ〜、本物?」
「え?てことは金持ち?」
まさにチンピラが、近づくジャックに絡もうとするが、ジャックはフル無視でサラに向かう。
「サラ!逃げんな!」
「っ!うるさいわね!もうあんた達なんて用済みなのよ!」
「っ!てめぇのせいでレニーは!!」
「知らないわよ!!アイツらが勝手にしたんだもん!私じゃないわ!」
ジャックに背を向けて走り出そうとしたサラに、ジャックの腕が伸びる。
「離して!」
思いっきり掴んでいるのか、ジャックのサラが暴れるがジャックの手は外れない。
「お前の、お前のせいで!」
「知らないって!私のせいじゃないもん!あんた達!見てないで早く助けてよ!彼に言いつけるわよ!」
サラが男達にそう叫ぶと、男達はやれやれといった感じでジャックの周りを囲む。
「わりーなジャック・ヴァン・マシューズ。そいつはボスのお気に入りなんだよ。ま、ちょ〜っと選手生命が無くなるぐらいだ。てめぇの顔なら食いっぱぐれねぇだろうよ」
「いやいや、顔までやらねぇと、ボスは許してくれませんって」
「ははっ、俺男の顔削ぐのは初めてだけどあんたみたいな綺麗な顔なら嬉しいぜ」
本物のキチガイ集団かよ!聞こえてきた男たちの声に、やべぇ!と思い走り出す。
足の痛みがあり、いっつ!と言いながら走ると、直ぐに男達の背中がすぐそこに来る。
「っ!!!いってぇんだよ!!!!」
「ぐふっ!」
全力で走り、全力で踏み切り、全力で無駄に身長が高い男の顔面を思いっきり蹴る。足が痛いくてイラッとしたが、そのイラつきをキチガイ野郎にぶつけたおかげで少しは気分が晴れた気がした。うん、ちょっといい気分だ。
俺の突然の登場に驚いた男達は、足元で伸びている男より俺に視線を注いでいる。
「よし、逃げよう」
「「「は?」」」
ジャックと男2人の声が重なる。だがそれを無視してジャックの腕を取って引っ張る。そんでもって、また全力で走り出す。もちろんジャックはサラという女性を引っ張って来ている。
素早い襲撃と撤退のおかげで男たちはポカンとしている。
「おい、功祐!お前、足.....」
「今は気にすんな!それより、ジャックはこの状況を打破する手段を.....って、もう来た!?」
クソ野郎!と言いながら男たちか追っかけて来ているのが見え、やべぇ!と言いながら更に足を早く動かす。ジャックはサラが着いてこれなくなったのか、サラを小脇に抱えている。いや、荷物かよ。
「っ、左に曲がれ!」
「おけい!」
ジャックが言った瞬間出てきた曲がり角を直角に左に曲がる。
「次右!」
「はい!」
右に曲がると、ちょっとだけ空が暗くなった気がする。
「あぁ、クソ!また右行って直ぐ左!そしたら地下への階段があるからそこに降りろ!」
「はいはい、いえっさー!」
右への曲がり角が出てきたので右に曲がると、本当にすぐそこに左への曲がり角があった。木で道を塞いであるので言われなければ道でないと思うほどだ。
あとは、地下への階段を.....
俺の足が止まる。
「おい、功祐!?」
「ジャック!閉まってる!」
「っ!くそ!」
階段が無いとわかった瞬間、ジャックが横にある壁を殴り付ける。
「っ、せぇは、はぁ、はぁ、てめぇら、バケモンかよ」
「るっせぇ!こっちはてめぇら見たいなのによく追いかけられて死ぬ思いしてんだよ!」
膝に手を付き息切れしている男達に中指を立てる。
こんなにいきがってるが万事休すだ。壁を見るが、取っ掛りもないため登れそうもない。
.....?なんでここの壁こんなにツルペタなんだ?普通通気口とか雨の水を流すパイプがあってもいいはずだ。
ん?と首を捻っていると、男が叫ぶ。
「はっ!自分たちで逃げたくせに自ら袋のネズミになったな!」
うっせぇ、分かってるよ!と叫びたいが、大人しく黙る。
「はっ、袋のネズミはてめぇらだ」
「あ"?」
ジャックが男達の言葉に鼻で笑い、小脇に抱えていたサラを地面に投げる。え。逃げねぇの?あ、気絶してるわ。
しかし、俺もジャックの言っている意味がわからなくて首を傾げる。
「ここが誰のテリトリーか忘れてんじゃねーのか?」
「あ?」
テリトリー?
カツン、と地面を叩く音がする。それは男達の奥から聞こえ、全員の動きが止まる。
シンとした空気が広がると、クスリと笑う声が聞こえる。
「おやおやおやおや、随分と豪勢なものね。ストリートバスケの王者に、最近巷を騒がせているギャング、それと、この街では珍しい日本人」
もう一度カツンと音がする。深く帽子を被り、片手に杖を持つ女性。
「イムピラ、トリー、ツァー.....」
男のひとりが呟くと、彼女は帽子少しだけ上げる。隙間から見える大きな瞳が、なんとも言えない圧を放っている。
「ふふっ、ようこそ。私のパーティーへ」
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