34 / 43

第34話

あの後、逃げようとした男達は、たしか、ドルタとジャックが呼んだ男が秒で地面に転がした。そして、そのまま俺たちはトリーツァーに招待され、地下のパーティー会場へと足を踏み入れた。 そのままジャックとトリーツァーは話があるとか何とかで奥に消えていき、俺は大人しく1人で飲んでいる。 ジャックといるおかげで飲みなれた高級な酒を使ったカクテルをカウンターで飲みながらパーティー全体を見渡す。 見たことある有名人もいるし、金持ちそうな男や女が踊っている。チンピラ風の奴もいるが、そんなやつほど周りに護衛らしきやつがくっついている。他にも、美人や美男子など、カワイイ系から美人系までが給仕をしている。 さすがここら一体の裏社会のボスのパーティーだ。と思っていると、1人の給仕が俺に近づく。 「おかわりは?」 「あぁ、同じも....の.....を」 俺の目が見開く。給仕がクスッと笑って俺の手にあったグラスを取ると、「では、お持ちしますね」と笑って背を向ける。 「........は?」 給仕は直ぐに戻ってくると、確かに先程まで俺が飲んでいた鮮やかな青色をしたカクテルと、オレンジ色をしたカクテルを持って俺の横の席に座る。 「久しぶりね。功祐」 「え?.....ニ、ア?」 嘘。っと言いながら名前を呼ぶと、ニアはくすくすと笑う。 「そうよ。ニアよ。 この間は助けてくれてありがとう。ほら、功祐が助けてくれたおかげで、今生きてられるの」 もう一度ありがとう。と言ってきたニアに、俺は空いた口が塞がらなかった。 「本当に、ニア、か?」 「えぇ、本当よ」 ニアがくすくすと笑うと、前見た時と同じ笑みだった。コケていた頬は少しだけ元に戻り、相変わらず細いが病的とまでは行かない。顔色もさほど悪くなく、元気になったのが何となく伝わる。 「そうか、元気なら良かった」 「えぇ、あなたのおかげよ」 ありがとう。と三度目のお礼を言われ、恥ずかしくなって肩をくすめてニアが持ってきてくれたカクテルを一口だけ飲む。 「そういえば、大丈夫なのか?薬の影響は?」 「今のところ大丈夫よ。トリーツァーが私に新薬を優先的に回してくれるの」 「それって.....」 確証された薬か?聞こうとして、ニアが俺の唇に人差し指を当てる。シーッと言っているようだ。 「大丈夫。私から申し出たもの」 「そう、か、」 ニアが大丈夫ならと言うと、ニアは嬉しそうに笑う。 「ありがとう。私がここでこんなことをしていられるのも、全部あなたのおかげよ」 「俺はなんもしてない。お礼ならジャックの言ってくれ」 「あら、随分謙遜するのね」 「日本人は謙遜するのが美徳なんでね」 肩をくすめると、ニアはまたクスクスと笑う。 「あ、そういえば聞きたいことがあったのよ。」 「俺に?」 「そう、あなたに」 「なんだ?」 と言っても、俺に教えれる事なんて少ない。今ジャックが何を考えてるかも知らないし、トリーツァーだって今日が初めましての間柄だ。 あぁ、ファフニールのメンバーの連絡先ぐらいなら教えれるか。あぁ、あとケニーとグレンもか。 なんて事を考えていると、ニアが真剣な顔をして俺の方に体を向ける。決心したような顔をして、腕を組んで足も組む。うん、美人がそうすると迫力も凄いし何でも話してしまいそうになる。 じゃっかん緊張しながらカクテルを一口飲む。 「ねぇ。あなたとジャックって、付き合ってるの?」 ブッ!!! 「はぁ!?!?!?!?!」 バーテンダーがスッと差し出してくれたタオルにお礼を言いながら、吹き出してしまったお酒を拭いていく。ごめん。高級酒なのに。 いくら飲みなれたといっても、高級なものに変わりはない。今はジャックと暮らしているから浴びるように飲むこともあるが、それでも俺の中では高級品と言うことは変わらない。 「ねぇ、どうなの?」 わざと思考を他の物に移していたのに、ニアがさらに畳みかけてくる。 ニアを見ると、絶対聞き出すまで逃がさない!と言う顔をして俺を見つめてくる。俺はため息をついて、そばにあるカシューナッツを口に放り込む。 「別に、ただのセフレなんじゃね?」 「.....本気?」 「本気も何も、ただ家が燃えたから居候させてもらってるだけで、その代わりにジャックに大人しく抱かれてるだけ。家賃代?みたいな感じだ」 もう一度カシューナッツを口に入れて噛み砕く。ハズレなのか、じゃっかん苦味があった。 さっき言った通り、ジャックの家に帰ればやるか飯を作るか一緒にベッドで寝るかしかしてない。大抵はヤッて寝るのが基本だ。ジャック曰く、一晩で出来る回数がすくねぇから毎日やりてぇんだよと言っていた。知るか。俺が死ぬ。 「本気の本気で言ってるの?」 「はぁ?逆にセフレ以外何があんだよ」 まぁ、男でセフレっていうのもおかしいけどさ。なんて言うと、ニアがカウンターをバン!と叩く。 「いい!よく聞きなさい功祐!」 「お、おぉ」 「ジャックは今まで同じ女を2度抱いたことはないの」 「へー」 やっぱイケメンはモテて好きに女性が選べて羨ましいですね。なんて思う。 「なのに!あなたは何度も抱かれてるの!意味わかる!?」 「.....?男だから後腐れなくていいからだろ?ゴシップもまさか抱いてるなんて思わねぇからな。一緒にいてもバレねぇから楽だろうしな」 我ながらつくづくあいつはクズだな。なんて思っていると、ニアが頬を膨らましている。 いや、なんで? 「バカ!アホ!鈍感!」 「なにが!?」 「ジャックはファフニール以外家にあげたことないのよ!?」 「男だからゴシップにも友達って言えるからな」 「あなたに何かあったら、ジャックは不機嫌なのよ!?」 「無駄に怪我されたら金がかかるからだろ?俺はそこまでしなくていいって言ってるはずなんだけど」 「ジャックは!あなたの事が好きなのよ!」 そう叫んだ後、ニアがは!とした顔をする。 俺は驚いて両目を見開く。 「え、あ、ちが、いや、違わないけど!え〜と、その、なんて言うか.....」 ニアがワタワタと身振り手振りで何かを伝えようとしてくるが、俺はぱちぱちと目をさせてニアを見つめる。うん、ワタワタするニアも可愛くて結構。 さて、ニアはなんて言った?ジャックが俺のことを好き? ニアが言った言葉を思い出し、うん、と頷くと肩が揺れる。いかん、これはもう、我慢出来ん。 「ぷっはっ!!」 「へ?」 「はははははっ!!!」 俺が我慢出来ずに大笑いしていると、ニアは意味が分からないと言う顔をする。 「どうしたの?」 「ジャックが俺の事を好きって?ははっ!ないない。女は微笑めばついてくる、男だって声をかければイチコロだ。そんなあいつが、俺を好き?どんな変人だよ」 「でも、ジャックは!」 「ただの好奇心」 「え?」 「日本人は男でも後ろが閉まって気持ちがいい、」 「何を言って.....」 「しかも日本人は筋肉量が少ないから組み敷きやすく、感度もいい。抵抗されても一物は小さいからなんてことは無い。ゲイなら、一度は日本人を抱いてみたい」 次はニアが空いた口が塞がらなかった。せっかくの美人が台無しだ。なんて言いながら顎を上にあげて閉じてやる。すると、正気を取り戻したのか開いていた瞳が元に戻る。 「そんなこと!」 「ゲイのバーに行ったら俺が声をかけられる確率が高いのも、捕まったら女みたいに犯されそうになるのも、日本人だから。 ゲイの世界じゃ常識だ」 「それって.....」 「残念だぜ。俺の初めてがあんなに適当でべろんべろんに酔った状態で抱かれるなんて」 ゲイ冥利に尽きるねぇ〜なんて言うと、ニアは綺麗なドレスの裾をギュッと摘む。 「あなたは、ゲイ、なの?」 「引いたか?日本でも彼氏はいたぜ?まぁ、SEXまでは行ってねぇけど」 「嘘!」 「ホントだよ」 「彼氏がいたっていうのはどうか分からないけど!ゲイは嘘よ!」 「どうして?」 「だってあなた、私の顔好きでしょ?」 「へ?」 ニアにそう言われ、ニヤニヤとしていた顔が一気に力が抜ける。絶対間抜けな顔してるわ。 「メアリの顔だって好きよね?よく他の女の人の体だって見てるし、だからゲイって言うのはダウト!」 「いや、俺はバイってやつで.....」 「絶対違う!だって、だってゲイなら.....。ジャックに抱かれた後、あんな顔するわけないもん」 ニアが泣きそうだ。 「いや、ゲイだって無理やり抱かれたくは.....」 ニアが少しだけ頬を膨らまして俺を見る。目じりには若干涙が溜まっている。 そういう目は苦手だ。 ため息をつくと、観念した。とばかりに両手を上にあげる。 「ニアの言ってることは正解。日本で付き合った彼氏の前までは普通に女性と付き合ってた。今でも女性の方が好きだ」 全く、女性には敵わん。なんて思いながら暴露すると、ニアはさらに頬を膨らませる。なんで? 「ジャックは!?好きなの!?嫌いなの!?」 「2択かよ」 苦笑しながらニアの目じりに溜まった涙を指先で拭う。 「そう、だな。どっちでもないな。初めは無理やり抱かれたし、なんか色々ムカつくところがあったから嫌いだったけど、今はそうでも無いかな。色々助けてくれたし。」 「ム〜!2択!」 「まじかよ。 ん〜、それで言うなら、きr.....」 「ダウト!」 「はえーよ」 最後まで聞け、と言うと、むくれた顔になるニア。 「嫌いではねーよ」 「じゃあ、好き!?」 「さぁな」 ニヒヒッと嬉しそうにわらうニア。年相応の笑顔。元気になった証拠の笑顔。俺も嬉しくなってニアの頭を撫でる。

ともだちにシェアしよう!